悪徳エネルギー業者
今回、やり口があまりにもあくど過ぎて耐えられない方もいると思います。
主人公の手口が汚いのはちょっと、という方は気分を害される可能性があるためお読みにならない事をお勧めします。
というかわたしの書くキャラクターは内面が殺伐としている事が多いので、どうかご注意ください。
『やはり。ここへ来て以来、偉大な魂の存在を感じていたのですが、彼がその持ち主だったようです』
遠乗りに出かけたさい、ユニコーンはマックスを見てそう言った。
偉大な魂がどうとかは分からないけど、神になるためのステップを踏んでいるのなら、普通ではないのは間違いない。
聖女達と変わらないほどの存在であるマックスならば、ユニコーンが守護する事も可能だと言うのだ。
精霊である彼らにとっては、物質的な肉体の性別はそこまで重要なものではないらしい。
オスしかいないので女性のほうが好ましいが、神に近づきつつある存在や、本来であれば天界にその身があるはずの住人ならば、男だろうが女だろうが保護の対象なのだという。
白露は、自分がその役目を担ってもいいと言ってくれた。
わたしは個々ではなく群として彼らとは契約している。
守護とはまた少し違う。
辺境へ来るにあたって、ユニコーンはフォグとアネットの2人をそれぞれ守護することにした。
わたしを守るため、必要措置としての特例だそうだ。
すると、すぐに対応できるのは白露だけ、ということになる。
わたしはその日のうちに白露をマックスの守護につけて、彼がこれ以上弱ったりしないようにした。
1週間もあれば、旅が可能なくらいには回復するだろう。
辺境伯の長男は、公爵家から戻ってきたあと1人で部屋に閉じこもり、号泣したという。
年の離れた弟妹、しかも皇帝の血を引く2人を、彼はひどく可愛がっていたのだと聞かされた。
あまり表には出さなかったが、妹の死の噂に気落ちしていたんだとか。
そこを第3夫人に迎える予定の女性につけ込まれ、籠絡されていたらしい。
公爵家に恨みがあるというその女性は『姫様を殺されてしまった。妻に迎えておきながら守れないなんて』と涙ながらに訴えてきて、それでほだされてしまったようだ。
単純すぎる。
あまりにも単純すぎるが、戦闘特化である辺境騎士はみなそんなものだ。
単純で、騙されやすくてお人好し。
物事をあまり深く考えないが、仲間思いで付き合いやすい。
だがトップに立つにはそれだけではいけない。
子供たちの一部は帝都の学園に通って社交や政治を学ぶが、彼はそこで自分が腹芸には向かない事を痛感したという。
今回はそれが良くない方向に出てしまったが、妹の生存を確認できた事でくだんの第3夫人(予定)とは距離ができ、話自体も流れた。
かわりに第2夫人との関係は修復したそうだ。
そしてその第3夫人だが、後日鑑定で確認したらサウザン王国の間諜だった。
捕らえてフォグとアネットに引き渡してある。
いやもうマジであの国、邪魔。
そして皆様お待ちかね、ガキどもの話。
当然、しっかり対応させていただきました。
まずこのままでは3〜4年のうちにスタンピードが起こる事と、その解消、もしくは被害を軽微なものにするために手を打つ必要があると伯に伝えた。
理由?
ゲームでそのぐらいの頃に起きてたからとは言えないよね。
なのでユニコーンがそう感じているという事にした。
ユニコーン様様である。
そして、老人たちの中で領のために命を捨てる事ができる人物を5名、紹介してもらった。
過去、経験豊かで精強な騎士か兵士だった事を条件に。
中にはほぼ寝たきりでお迎え待ちの人もいた。
わたしが彼らに「領のために命をくれ」と言うと、全員が「諾」と答えた。
これで、片側の了解は取り付けた。
問題はもう片方である。
エネルギー供給には常に問題がつきまとう。
大変ね、ほんと。
わたしはマックスへの態度がなっていない少年たち5人が訓練所にいるところへおもむき、苦情を申し立てた。
「君たちは主家の後継ぎであるマックス様への敬意が足りない」と。
子供たちが学校へ通うのは12才から15才までと、15才から18才までである。
優秀な子供や裕福な子供は12才の時点で帝都の学園に通う。
そうでなければ地方の学園で15才まで学んで修了だ。
もちろん、学校へは通わずに本格的に働き出す者もいる。兵士などがそうだ。
12才までは家や街中で生活に必要な基本的な事を学ぶ。
それは家庭の躾だったり、教会の手習いだったり、仕事の見習いだったりする。
そういった事情を考えれば、彼らの態度がなっていないのはそこまでおかしな事ではない。
友達付き合いの延長上に主家があるのだ。
だがそれは主筋の子供を見下していなければ、の話である。
言われた少年たちはまあ怒った怒った。
予定通りに乱闘になり、わたしは彼らを軽く叩きのめした。
そしてこれから最大で5年間、彼らをわたしの支配下に置くと宣言。
逆らう気満々でにらんでくるリーダー格の子は、さらに念入りに心を折っておいた。
だが傷が残るような事はしていない。
なぜなら彼らの体はこれからとても大事な役割があるのだ。
わたしは彼らのエネルギーを老人たちに注ぎ込んだ。
往年の活力と回復力を取り戻した彼らは、異常なまでに増加していた辺境のダンジョンや魔物を討伐するチームを編成、スタンピードのその日まで活躍してくれる。
少年たちはそのかわりに常にエネルギーを搾取され、頻繁に体調を崩して寝込むようになった。
一連の出来事を見ていた騎士や兵士たちは勘づいていただろうが、何も言ってこなかった。
軽蔑するような視線すらなく、彼らはこの件に無言を貫き通した。
我ながら悪辣な真似をしているとは思うが、辺境伯の部下たちから見ても、少年たちはアウトだったらしい。
辺境伯の孫で副団長の娘のフィリアが絡んでいるため対応に悩んでいたが、12才になって正式に城で働くようになれば容赦のないしごきが待っていたようだ。
だが今回の場合、それではフィリアの悪意が彼らを完全に染め上げてしまい手遅れになる。
手遅れになった先にあるのはマックスのバッドエンドだ。
軌道修正のために手段は選んでいられない。
悪意には、悪意で。
心優しい光サイドの住人たちはさぞ陥れやすかっただろう。
あるいはその庇護下にある善でも悪でもない、移ろいやすい者たちは。
だが同じ闇の中で生きる事ができるわたし達は、あらゆる手段で対抗できる。
フィリア、せめてお前に記憶があったなら。
今何が起こっているのか、どう立ち回るべきなのか、正しい対応ができただろうに。
だがもしそうだったなら、お前の命はここまでだっただろう。
ああ本当に人生とはままならない。
旅立ちの日、辺境伯と長男、そして騎士達は城壁の外まで見送りにきた。
わたしは白露に乗ったマックスを安心させるために笑いかけ、そして指笛を吹く。
辺境の草原をすさまじい速さで赤い馬が駆けてきた。
召喚した神馬、赤兎馬だ。
あの有名な赤兎馬とは違うため名前はまた別なのだが、『召喚:赤兎馬』で呼び出せるようになっている。
多分美しい赤毛の馬だからだろう。
この適当な感じが実は嫌いではない。
わたしはその背中に飛び乗ると、「お待たせしました、行きましょうか」と周囲に声をかけた。
さらば、辺境。もうしばらく来ない。
なぜなら会うとムカつくヤツがいるからな!!




