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マックスくんは頑張っている

 さて、ここで問題です。

 スキル筋肉んは一体いつもらえるのでしょうか。



 答:クエストクリア後です





 ようするに、マックスを守って回復させるためには使えない。

 でもこれまでのように地道な努力を重ねていてはいずれ死んでしまう。


 どうしたものか、と早朝の厩舎でわたしはユニコーンに果物をあげながら考え込んだ。


『どうしたのですか、リュート様』


「うん、ちょっとね」


 ユニコーン達は、当初わたしのことを『真なる大聖女様』と呼んでいた。

 勘弁してくれ、と思ったのでやめさせたが、様付けはやめさせられなかった。


 普通の白馬に姿を変えている彼らの声は他の人には聞こえないため、まあいいかと放っている。


「今ちょっと話しても大丈夫かな、白露」


『はい、周囲にはフォグとアネットしかおりません』


 フォグとアネットは今回、付き添いとして一緒に来てくれた暗殺者ギルド出身の使用人である。

 フォグは大柄な男性使用人で、アネットは小柄で可愛らしいメイドさんだ。


「実はね、ここの城の跡取り息子が呪われてて体が弱ってるみたいなんだよね。なにかこう、呪いとかを弾き返せるような魔法とか魔道具とかってあったりしない? 効果がずっと続くタイプの」


『解呪は可能です。ですがずっと守り続けるのは難しいでしょう』


「そうなの? なんで?」


『1度解呪してもまたかけられる可能性があるなら、常時発動させ続けるか、呪いが行われたさいに跳ね返すか、というものになるでしょう。どちらの場合であっても、効果が切れた際はかけ直しが必要になります。また、常時発動させ続けるための魔力を考えれば後者が現実的ですが、そちらは術者の能力にもよりますが、1度跳ね返したらそれで終わり、という事になるかと』


「う〜〜ん、ずっとはムリかあ」



 腕を組んでうなったわたしに、白露は顔をすり寄せた。



『ですがもしかしたら、その少年次第では私達が協力できるかもしれません』


「え、ほんと」


『はい。1度お会いできれば確認できるかと』


「わかった、じゃあお願い」








 というわけで、今日は朝食後に遠乗りをする事になった。


 わたしとマックスくんと、あと護衛が何人かで。

 うちからはフォグが、辺境伯家からはレゾと騎士が他に2人。


 騎士達は先に厩舎に向かってもらい、マックスが乗る馬を選んでもらっている。


 わたしは白シャツにズボンという動きやすい服装に着替えると、マックスの部屋を訪ねた。

 彼も乗馬服なんていうかた苦しいものではなく、わたしと同じようなシンプルな白シャツとズボンである。


 これが帝都ならば、こんな気軽な格好でそこらをうろつく貴族子弟など考えられない。

 だが辺境では問題ない。

 上下の距離が近い、辺境らしい良さである。




 マックスは今日もあまり体調が良くないようだが、頑張れば動けない事はないらしい。


 2人並んで中庭を横切ろうとしたところ、ふいに上のほうから視線を感じた。

 見上げると、フィリアが2階の窓からこちらを見下ろしている。


 てゆうか今日もいたのかあいつ。

 家にいろよ、ここはお前のうちとちゃうぞ。



 見下ろされた事にイラッときたわたしが心の中で吐き捨てると、進行方向に立ちふさがる影があった。


「おいお前! マックス様とどこへ行くんだ!」


 子供ながらに体の大きい少年たちがわたしとマックスの行く手をさえぎる。


 鑑定すると、全員10才以下の子供で、騎士や兵士の家族のようだ。

 馬の世話や厩舎の掃除、兵士との訓練や宿舎の清掃など、将来、城で働くことを希望している子を集め、見習いのような事をしているらしい。


 まあでも一応、聞いとこうか。


「遠乗りですよ。あなた方はどなたですか?」


「誰でもいいだろう! なんでよそ者がマックス様と遠乗りになんて行くんだ!」


「自分の馬があるからですね。馬に乗るのは健康にもいいですし」


「なんだと!」


 わたしがニヤニヤしながら言うと、相手は顔を赤くしてわたしのほうへ拳を握りしめて一歩踏み出した。

 さあどうすっかなー。

 お客様の立場で城の子供相手に乱暴は良くないよねー。



「ま、ままま待って、ケンカはやめようよ」


 マックスが震えながら声を上げる。


 おお、とわたしはちょっと感動してマックスくんを見直した。

 体が弱っている時というのは、相手の威圧や怒鳴り声が体に響くものだ。


 大きな音に全身を叩かれ、心臓まで響いて倒れそうになるあの感覚は、体を壊した事のある人間でないと分からない。


 よく新聞やテレビなどのニュースで『近所に公園や保育所ができてうるさいと怒る老人がいる』というのはあれはある面、仕方がない事なのだ。

 年寄りって体弱ってるからね。若い子と比べて。


 体が弱っているとき、車の爆音やクラクション、子供の騒ぐ甲高い声がどれほど攻撃的に全身を殴りつけてくるのか。分からないというのは本当に幸せな事だ。

 そしてその幸せな人間はしたり顔でこう言う。



『子供達の元気な声に苦情が寄せられるなんて、世の中が冷たくなってる気がします』



 確かに外で声を上げて自由に遊べない子供達はかわいそうだ。


 けれど同時に、弱った体で音の攻撃に耐え続ける人間もかわいそうだ。



 誰が悪いわけでもない。

 単に、相手のような経験がないだけ。



 幸せであるという事はときにその人を他人の不幸から遠ざける。


 苦情を言えば通るものとこれまでの幸せが囁き、そんな苦情を言うなんてと今の幸せが耳をふさぐ。


 だから人には生老病死がつきまとうのだろう。



 経験しなければ分からない。

 想像力は、鍛えなければ育たない。

 想像できても、分からない事は分からない。

 人間とはそういうものである。

 分からないから、迷惑をかけ合い生きていく。


 そして魂は、他者に共感して経験を増やすために存在する。

 その共感が増えた分だけ、きっとわたしたちは満たされるのだ。


 そう、だから。


 クソガキどもに共感というものを経験してもらう。

 弱った体がどういうものなのか体感してもらう。


 これは必要で仕方のない事なのだよ!


 はいオッケー、結論出た!!



 目の前の経験値の低いだろうクソガキどもを前に、マックスは踏ん張っていた。

 全身に威圧と怒声が響いて苦しいだろうに。

 穏やかに、勇気を持って。


 やるじゃないか、マックス。


 

「マックス様、こんなやつと一緒にいないで俺たちと訓練しようぜ。剣での訓練のほうが力もつく」


 1番体の大きい少年がマックスを睨みながら言った。


 はいアウト。


 主筋にあたる人間を威圧したり、睨みつけたり。良くないなあ。

 わたしがチラリとフィリアのほうへ目をやると、彼女は嫌な感じの笑みでこちらを見ている。




 お前が主犯か。













 

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