愛って一体
「いやあ〜〜、いくらなんでもサーチは無理だね〜」
その夜、わたしの夢の中に現れた神は開口一番そう言った。
「どうして!!」
絶望的な悲鳴を上げるわたしを見てケラケラ笑いながら、神はふわふわとその場に浮かんであぐらをかいている。
いつも思うがほんとにやる気なさそうだよな、こいつ。
「世界の秘密は自分で解き明かしてナンボでしょ?」
「ガイドがなきゃどうにもなんないじゃん!」
「いやいや、そんなもん無くてもキミちゃんと気がついてたじゃん」
「じゃあやっぱりクエストは」
「あるよ、辺境の今の最重要クエストは『後継者問題を解決せよ』、クエストクリア報酬は「筋肉」です」
「なんだその筋肉ってのは。ふざけてんのか神お前」
「いやだなーー、ふざけてなんかいないよーー」
やはりふよふよその辺を漂いながら神は言う。
マジ信仰心とか失いそう。
あ、そういえば最初から無かったわ。
「いやでもほんとの話ね、この世界の筋肉って結構重要なんだよね」
「そうなの?」
「人も獣も魔物も、なんであれ殺せば恨みの念は生まれるからね。その殺害方法や理由に悪意があればあるほどそれは強まるもんだけど、生きるためのものであればそこまで強い怨念にはならない。浄化も容易だ。そして筋肉は軽い恨みぐらいなら弾き飛ばして無効化してくれる」
「マジか」
わたしは思わず口をあんぐりと開けた。すごいな筋肉。
「そこでキミだよ。本来の体は女だからそうそう鍛えるわけにもいかない。ステータスが高いからオーラが守りにはなるけれど、筋肉もあれば頼りになる。そこでこの、スキル筋肉ん!」
今お前、筋肉ん言うたよね。
やっぱこいつふざけてるよ間違いない。
「幼児に筋肉とかやめてください。身長が伸びません」
「大丈夫、うちの開発した筋肉んはステルス筋肉なので!」
「いや意味わからん」
「目に見えないけどいつもキミのそばでキミを守ってくれるんだよ。今天界のイチオシ商品でね! このテストが上手くいけば、他の神々やよその世界にも売り出して重要人物を呪いからがっちりガードできる人気商品になるはずなんだよ!」
神の目はお金の色に輝いている。
だが確かに話を聞けば良さそうだ。
問題は平和に生きてる博愛主義者のわたしには呪いとか関係無さそうってとこだな。
「それってわたしにしか使えないやつ?」
「ノンノーーン! 指定した相手に装着が可能で、しかもレベルが上がれば1度に複数の対象を選ぶこともできるスグレモノ! その上、筋肉なので肉体強化の効果もプラスされているという、まさに夢の逸品!」
イラッとくる動きで説明されたが、だがこれはかなり使える。
わたしはこのクエストを受注する気になっていた。
「お申し込みは今すぐ、試作品のため先着1名様のみ!」
「買ったあああああーーーー!!」
「毎度ありーー」
カランカラーーン、とチープな鐘の音が響く。
今度は騙されてない、はず……!!
その後しばらく、わたしは神からクエストの内容や、最終的に何をさせたいのか、他にもクエストが隠されているのか、前みたいに変更があるのか質問した。
神はほとんどの質問に笑って答えなかったが、マックスはこの後継者問題を解決しないといずれ死んでしまうことはわかった。
やばいやんマックスくん。
「そういえばさ、人工知能も異世界転生するんだね」
「付喪神とかよく言うでしょ。人工知能にも魂は宿るんだよ」
「なるほど、なんか納得」
「あの子は特に前の世界で長く社会に尽くして働いてたAIでね。人間として生を学ぶ事で、次は昇神する予定なんだ。前の世界の知識はここにはまだ早すぎるから封印してるけど、人工知能では手にできなかった肉体での生を味わい、人との関わりを経験して欲しいんだよね」
「だから長く生きて欲しい、と」
「そういう事」
神はにこにこ笑ってうなずいた。
「後継者問題ねえ。敵は内にも外にもいそうだよね、これ」
「いるねえ」
「よその国とかさ、戦争仕掛けてきそうなとことかあるんだけど、やっぱ戦争はマズイよね?」
「いや別に?」
さらっと神は答える。
「全ての国に平和であって欲しいとは思うけど、全体を見てダメなとこは取り除くでしょ? 盆栽とおなじだよ、世界を育てるのなんて」
ひでえ。
「もっと愛と平和とラブアンドピースでいこうよ」
「そもそも僕の根っこは精霊や動物達のほうにあるからね。人間は世界の端っこで小さい集団でも作って細々とやっててくれていいっていうのが本音だよ」
大量繁殖してデカい顔すんなって事か。
「おかしな方向に進んだら枝を切り落とす。地球の神は人間中心のきらいがあるけど、ここはそうじゃない。それをちゃんと分かってる人間も結構いるけど、最近また分かってないのが増えてきてね。まいるよほんと」
神は全然困ってない表情でそう言った。
地球でも天変地異で何度か人類滅亡しかけてるっぽいけど、やっぱその時は計画通りに行かなかったって事なのかな。
そこでわたしはふと、ある女の子が主人公のゲームを思い出した。
あれでは上手く行かなかったから人類ごと世界を滅ぼしたんだっけ。それも何回か。
たまたまそこで生きてる人間には迷惑な話だよなー。
まあでも、そうならないよう人類の方向性が歪まなければ問題ないという事なのだろう、きっと。
世界の片隅で地味に生きてるぶんには見逃してくれそうだし。
人類への愛とか薄そうな神の笑顔を見ながらわたしは、『バカが減りゃ問題解決するんじゃないかな?』と身も蓋もない事を考えていた。




