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マッドじゃなくてデリケート

 まさかの元AI、マックスくん。


 人も動物も転生するとは思ってたけど、人工知能まで異世界転生しちゃうもんなの?

 あとでちょっと神に確認しとかなきゃ。


 いや実際、目の前にいるんだからするのは間違いないんだけどさ、なんか気になるじゃない?

 これって普通のことなの?



 そんなわたしの内心の動揺を尻目に、マックスくんはその細い体をうつむきがちにして話しだした。


「ま、前は、あんな感じじゃなかったんだ。よよよよく一緒に図書、図書室で絵本とか読んだりしたのに、びょう、びょう、き、病気になって、それから、」


 マックスはもう一度大きく息を吸う。


「それからあんなふうに怒りっぽくなって」


 それだけ言うのに力を使い果たしたみたいに、マックスは肩を落とした。


「わ、わわわ悪い子じゃ、ないんだけど」


 いや、悪い子だよ。


 彼女きみの知ってるフィリアじゃないしね。

 


 隣を歩くマックスくんは、わたしのほうを見てたずねた。



「リュートは、ぼぼぼ、僕に、何か用?」


「いえ、食後に散歩をしていたら、たまたまお2人の会話が耳に入りまして。マックス様が図書室へ行かれるのであれば、ご一緒させていただこうと思ったのです」


「う、うん、いいよ」


 マックスは安心したようにちょっぴり笑顔になる。


 その隣に並んでしばらく歩く。

 会話は全くと言っていいほど無かった。

 わたしは、会話が無いことよりもマックスの歩く速度のほうが気になり、ちらりと横目で彼を見た。


 体力がない。

 気力もない。

 常にだるくて疲労感があるので本能的に体を動かさないようにしている。

 そのため筋肉もつかない。


 うん、まずいなこれ。


 10才の男の子とかいたずら盛りで、何も考えずにそこらを走り回ってるのが普通。

 辺境の子供なんぞ本を読むより棒きれでも振ってるほうが多いはず。


 そんな中でこんな大人しいオタク予備軍は負け組確定だ。


 本ばっか読みやがって、といじめられる未来が目に浮かぶ。

 腐っても跡取りだから、そこまであからさまな真似はしないだろうが、訓練と称して暴力を振るうとか、力こそ全てと威圧的に振る舞われるとか、筋肉集団の中ではありそうな話である。



 せめてうちの次男三男くらい根性が悪かったらなんとかなるだろうが、あのフィリアをかばうとか彼は聖人なのか。



 うちの兄ちゃん達に見本を見せてやってほしいもんだが、あいつら他人に基本興味無さそうだしな。

 弱っちいガキとか骨までしゃぶられてろとか言いそうだ。

 教育上よろしくないのであんまり会わせないほうがいいな、きっと。





 本物のフィリアは5才のときに熱病で亡くなった。

 辺境では数年おきに熱病が流行る。


 なんとなくインフルエンザっぽい。


 と言っても、この世界のインフルエンザはそこまで危険な病気ではない。

 回復魔法もあるし、よく効く薬草やポーションもある。


 問題はそれらが無かったときだ。


 当時、この辺境ではたまたま回復魔法が得意な神官が少なく、たまたま薬草が不作で、その影響でポーションが品薄だった。

 たまたま、そうたまたま。

 誰かの悪意を感じる偶然だ。


 熱病にかかるのは大体農民や森で仕事をする人間からだ。


 そして体力の低い子供、体の弱っている大人や年寄り。


 身分が上のほうになればなるほど、かかる順番は後ろのほうになる確率が高い。



 フィリアが熱病にかかり回復し始めた頃、マックスが熱病にかかった。

 あっという間に重症化して、何日も生死の境をさまよったという。


 命だけはなんとか助かったものの、その代償のように頻繁に寝込むようになり、周囲は「鍛え方が足りない」という筋肉最強派と、「周りが支えればいい」という忠誠派、後継者を変更するべきだという過激派、しばらく見守ろうという穏健派、と、辺境では現在あちこちで論争がおきている。



 きっとそれもマックスの精神に負担を与えているに違いない。


 そんな中、フィリアが傍若無人に振る舞ってマックスを下に見る様は、周囲から彼への期待を奪っていくのだろう。


 とりあえずフィリアの母親がダメなのは予想がついたが、父親のほうはどうなんだ?



 わたしはマックスがゆっくり歩くのに合わせながら、さらにゆっくりとしたテンポで話しかけた。



「さっきのフェイリィ嬢ですが、確かマックス様の姪にあたる方でしたよね。父親は辺境伯に仕える騎士のはず。その彼とは普段会うことはないのですか?」


「トーマス・フェイリィだね。彼は父上の騎士団の副団長だよ。騎士団長は僕の兄のカルロスで、2人は親友なんだ」


 これまでとは打って変わり、マックスは落ち着いたように静かな様子で言葉を返す。


「兄上もトーマスも、いつも僕の事を心配してくれて、無理しなくていいから少しずつ体を鍛えていこうって言ってくれるんだ。申し訳ないくらいだよ」


 そして顔を輝かせてわたしに笑いかける。


「今日は昼食後に訓練に参加しないかって誘われてるんだ。もし良かったら君もどうかな」


 わたしはそのお誘いに笑顔で返してうなずいた。


「もちろんです、マックス様」




 呪いをかけてるのが誰か確認しなきゃいけないしね!!










 

いつも誤字報告ありがとうございます。

本当に本当に助かっています。


いつもお読みいただき、そして誤字報告までいただき、本当にありがとうございます!



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