それはきっとAIなんだ
「あ、ああああの、その、僕、えっと」
目に見えて動揺しているマックスくんに、わたしは『もうええから、喋らんでええから』と言ってやりたくなった。
だがずっとそんなわけにもいくまいて、と黙って待つ。
すると彼は、一度大きく息を吸って、吐いて、それからわたしのほうをしっかりと見た。
「あの、ありがとう。ぼ、ぼぼぼ、僕、あの子に話しかけられると、な、なんだかうまく話せなくなるんだ」
うん、知ってる。
前にミリアムとしてここへ来たとき、そして昨日はじめましての挨拶(向こうははじめましてだと思ってる)をしたとき、きみ普通に話してたもんね。
吃音の原因はいくつかあるが、中にはストレスから発症するものもあるそうだ。
マックスの場合は間違いなくフィリアだ。
性格悪いんだろうな、とは思っていたが、いやマジきっついわあの子。
あたくし、ちょっとお友達にはなれないタイプだわ。
子供の頃近くにいたら周りが引くレベルで仲が悪かったはずだ。
ってあれ? そういえばわたしまだ子供だっけ。
訂正、訂正。
地球の幼稚園とか小学校とかそのくらいの年で身近にいたら、が正解だね。
そんで、周囲にどれだけどちらの味方がいるかでどっちかが潰されてただろう。
おとなしい子やマジメな子だといじめられて簡単に弾かれて終わりになるパターン。
あ、これマックスくんの話ね。
ゲームでの彼ってどんなんだっけなー?
ストーリーにはぜんっぜん絡まないんだけど、ヒロインの叔父で辺境伯家の跡取りって事を思えば、ちょっとくらい話に出てきてもいいもんなんだが。
スタンピードで死んだか、帝都の学校に行ってて無事だったか。
どっちにしても辺境は無事ではなくひどい有様になっていたため、彼もロクな状態ではなかっただろう。
まあそれはおいおいなんとかするのでどうでもいい。
重要なのは周囲がどちらの色に染まるかだ。
辺境伯のカラー、ひいては跡取りのカラーか。
それともヒロインのカラーか。
普通に考えればヒロインはなしだ。
その土地のトップ、権力者のカラーになるのが社会というもの。
だが子供は強いものに染まりやすい。
大人は利益があるものに染まりやすい。それが人間。
今、この辺境伯の城に関わる子供達はフィリアに染まっている。
そしていずれは成長していくにつれ、大人たちも彼女に染まっていくのだろう。
今日ここであのガキ行方不明になってもらうか?
いやいやそういうわけにもいかん。
自分がなぜ復讐されるのか、されて当然だと言われて地獄に落とされるのか、分からんままでは意味がない。
ならマックスくんに強い子になってもらうしかないな。
そう考えたわたしは、マックスの強みを確認して伸ばすために彼を鑑定した。
マクシミリアン・クストス 10才
そしておなじみ、名前の横で神眼の文字が点滅している。
神眼スキルを使えという事だ。
なんか使える情報があれば、くらいの気分だったわたしは少し驚いた。
でも驚きつつも神眼発動!
いい仕事してよ、神眼さん!
マクシミリアン・クストス 10才
婚約者なし
生まれた時から常時、ささやかな呪詛で呪われている。そのため疲れやすく運動を避ける傾向がある
ささやかな呪詛って何。
気づかれないレベルでみみっちい嫌がらせを常にされてるって事?
そりゃまた嫌な相手だな。
だけどそれで疲れやすくなってるっていうのは、今の時代に生きる辺境の人間としては致命的だ。
正直、今の帝国はあちこちに問題を抱えている。
乙女ゲームの中では始まる時点でなんとか国の形を保っていたが、現状を知れば知るほど、よく戦争が起きてなかったと驚くほどだ。
多分ゲーム終了後の未来では帝国終了のお知らせとかあったんじゃないかな。
ひとまず、この呪詛をなんとかしよう。
それでマックスくんが元気になれば一個解決だ。
方向性が決まったところで、わたしはよしよし、と心の中でうなずきながら神眼さんの続きを読んだ。
【追記】異世界からの転生者。転生前の世界はアリウス、ネルパ、緑の羽の千年期の終わり。転生前呼称:人工知能グリーン、記憶は封印
……?
人工知能?
人工で、知能。人工…………マックス、おまえ元AIかっっ!!