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その名はマックス

「マックス、どこ行くつもりよ」


「え、ぼ、僕は、その、図書、図書室に……」


「今日は街に行くのよ。あなたがいないとお金を出してくれる人がいないじゃないの」


「で、でも、」


「でもじゃないの! 早く支度しなさいよ! ほんっとにグズなんだから」


 わたしがキリを抱っこして中庭へ向かうと、キンキン響くキツい声が聞こえてきた。

 我らがヒロイン、フィリア様だ。


 可愛くないと思うべきか、それとも周りからチヤホヤされる女の子なんてこんなものと思うべきか。


 うーーん、と悩みつつわたしは中庭へ出る手前の廊下で、大きな柱の影に体を隠した。


「だけど、その、僕だってたくさんお小遣いは」


「嘘つきなさいよ! あんたこのお城の跡取りでしょ!? あたしより贅沢できる立場じゃないの!」


「そ、そんな」


 なんかテンプレないじめっ子といじめられっ子の会話である。


 フィリアが話している相手は、エルリシア義姉様の弟で、マックスくん10才。

 相手が気が弱そうだってめちゃくちゃ噛みついてるが、その子、きみの叔父さんでしかも領主の嫡男で皇帝の孫だからな?

 もうちょっと考えよう?


 ていうかこのヒロイン、いくら子供とはいえちょっと酷いんではないんだろうか。


 それとも世間の6、7才ってこんなもの?

 

 わたしがあっけに取られていると、フィリアはマックスの腕を掴んで引っ張ろうとした。

 マックスくん涙目。

 そこはガツンと言ってやらな、キミ。



 仕方がないのでわたしがひと肌脱いでやる事にする。



 わたしはキリを下ろして姿を消すように言うと、柱の影から出た。


「マックス様、こちらにいらしたのですか」


「え、あ、君は」


「あらあなた昨日の」


 フィリアの声の調子があからさまに変わる。

 今さら隠してもムダムダ〜。


 そもそも気付かれないようにしてるけど、このお城のあちこちや、あとマックスくんの周囲には使用人や護衛の目が光っている。

 キミが辺境伯夫人から好かれてないのって全部バレてるって事だからね?


「おはようございます、フェイリィ嬢。マックス様をお探していたのですが、あなたも何かマックス様にお頼りになりたい事でもありましたか?」


 にっこり笑いかければフィリアもにっこり笑う。


「ええ。一緒に街へ行きましょうって話してたのよ。なのにマックスったらわたしと出かけるより本のほうがいいんですって」


 わたしは今、『おまえ騎士家の娘だろうが。辺境伯の跡取り息子様に舐めた口きくとか身分知らずにも程があるんじゃね?』って意味を込めていたんだが、これ気づいてないんだろうな。


 うん、皮肉って相手が気づくように言わなきゃいけないんだな。失敗、失敗。



 だがマックスくんには通じていたようで、目を丸くしてこちらを見ている。



「そうですか。街には楽しい事も多いでしょうが、世の中には学ぶ事を好まれる方もいらっしゃるものです。そんな方が次代の辺境伯である事は喜ばしい事なのでは?」


「そうかしら。お母様はマックスが剣の訓練をしないって言ってたわ。辺境伯には戦う力も必要なのよ」


 そうかもしれないけどね、それ外で言っちゃダメって言われてないのかな?

 というか母親が分かってないんだね、これ。


 あんまり小さい子の言うことに目くじらを立ててもいられないので、わたしはさっさと退散する事にした。


「それは確かにその通りかもしれませんね。ですが今日は、マックス様にはわたしにこの城の案内をお願いしたいと思います。では、これで」



 マックスの背中に手を添えて、中庭から離れる。

 わたし達を追いかけて来ようとしたフィリアの足を、キリが引っかけてつまずかせたのを目の端に見て、わたしは意地悪くクスリと笑った。










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