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辺境伯夫人の憂鬱

 わたしは辺境伯夫人と朝食をご一緒させてもらった。

 その際フィリアの話が出たが、夫人はあまりあの子の事を気に入っていないようである。


 まあそれはそうだろう。

 貴族の子供はこの年になれば分別があって当然。


 市井の子供のように自儘に振る舞う事は許されないし、あってはならない。

 そう躾けられる。


 もちろん、身分の差を敏感に嗅ぎ取って横暴な真似をする子供もいないではないが、そんな部分は矯正されるし、残したままでもあからさまに表に出さないよう教育される。

 貴族は遊び暮らす事が身上なのではない。


 責任を負い、義務を果たして生きるものなのだ。

 帝国がいくら豊かだとはいえ、愚かな者を上に立たせるほど寛大ではない。


 帝国における貴族とは人を従える者ではなく、人が自ずから従う者でなければいずれ周囲から排除される。


 そうならないためには、どこぞの子爵のようにユニコーンのような超兵器を持たねばならないのだ。

 それでもいずれは隙を見て排除される、それが帝国貴族なんである。



 辺境伯夫人は現皇帝の娘。

 貴族の在り方については幼い頃から徹底的に叩き込まれ、息をするように上位者として振る舞う。


 フィリアはそんな彼女とは血が繋がっておらず、貴族というよりただの騎士の娘として育てられていた。

 貴族としての躾について苦言を呈せば、騎士の家相手にやり過ぎだと陰で噂される。

 城に来た際は作法を学ぶようにと言えば、貴族ではないから必要がないと拒まれる。

 貴族でないなら城への出入りを控えるようにと伝えれば、継子とその子供に対して情がないとそしられる。


 皇帝の娘とはいえ辺境に嫁ぐのはアウェー感がハンパないようだ。



「ミリ……、ごめんなさい、リュートは本当にしっかりしているわね。帝都にいた頃はこれが普通だと思っていたのだけど、ここでは考えを改めなければならなかったわ。今はこの風土にあったやり取りにも慣れて、あまり気にもならなくなったのだけど、あの子だけは何か違うような気がしてならないのよねえ」


 レイシア・マリ・クストス様はその美しい小さな顔に手を当てて小首を傾げる。


 わたしの礼儀作法もかなり型破りだが、夫人から見れば充分及第点のようだ。


 辺境伯夫人の採点は家庭教師たちと比べれば異常なレベルで甘々だが、それすら突破できないフリースタイル方式のヒロイン、フィリア。

 ヤツはわたしの採点すら突破できなかったので仕方がない。


 

「それで、今日は何をする予定なの?」


「今日は1日こちらの蔵書を拝見させていただく予定です。また、明日以降はできればこちらの孤児院へ行ってみたいと思っています。家族に慈善活動に熱心な者がおりますので、夫人の普段訪問されていらっしゃる院や下町なども紹介していただければありがたいのですが」


「もちろんよ、その時はわたしも一緒に行きましょう。案内させてもらうわ」


「ありがとうございます」


 夫人は嬉しそうに笑った。


 孤児院への慰問を含む慈善活動は、レイシア様がエルリシア義姉様と一緒に長年、力を入れて行ってきた事だ。

 貴族女性には貴族女性なりの社会の中で義務というものがある。


 義姉様はその慈愛の心から、そしてレイシア様は皇帝の娘という立場から、人々の幸福に責任を負って生きているのだ。








 慰問へ行くのは明後日となった。

 さすがに急に「行きます」とはいかない。


 今日は1日読書。明日は護衛で一緒にきたフォグを連れて城下を見て回る。


 頭の中で予定を立てながら朝食室を出ると、キリがどこからかやってきて足に体を擦り寄せた。


「キリ、おはよう。ご飯はもう食べた?」


『食べたよ。ここの料理人はなかなか腕がいいね』


 ご機嫌でぐるぐると喉を鳴らす。


「図書室に行く前に腹ごなしの散歩に行こうか」


 わたしがその小さな体を抱き上げると、キリは『にゃあん』と鳴いて頬を舐めた。


 よし、お散歩決定!









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