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右、左、右、左

いつも誤字報告ありがとうございます!

 さて。


 今、わたしの目の前にはあまり品のよろしくないニヤニヤ笑いを浮かべた、これまたあまり品のよろしくない成金的豪華衣装の人物がいて、アイラの腕を強く握ってその体を引き寄せている。


 ちなみにここは教会の中の信者の宿泊施設、そこの女性と子供専用の部屋である。


 わたし達はあれからすぐに冒険者達も連れて教会に助けを求めてやってきた。



 なのに、助けを求めたはずの教会でなぜこんな事になっているのか。

 教会もすでに腐ってたからだよ、クソが!!



「あのさあ、どうでもいいからうちの姉様のこと離してくれないかな」


 うんざりした気分でわたしが言うと、相手はやはり鼻で笑った。


「お前みたいなガキの言うことなんぞ誰も聞くはずないだろう。この女は俺がもらう。安心しろ、当分いい思いをさせてやるさ」


 アイラは怯えて今にも泣き出しそうだ。

 その様子が気に入ったのか、腰を抱いていた手で彼女の胸を強く鷲掴みにする。

 アイラが悲鳴を上げた。


 ああもうほんとさあ……。



 わたしの現在の能力は、騎士の1人くらいなら軽く相手にできるだけのステータスがある。

 匣の中の世界でわたしは頑張ったのだ。

 5歳児のなかなか伸びない能力値で、神に『つまらない』と苦情を言われつつ、とにかくステータスを伸ばすために頑張った。


 今なぜこんな話をしているかというと、目の前の貴族というよりは成金の息子と言ったほうがピッタリの男は、筋肉もついておらず、ステータス値も低く、取り立てて目立った能力やスキルもない。


 つまり、こんな時のために努力してきた事が今こそ試されているというわけだ。



 わたしは無言で床を蹴って高く飛び上がると、足を思いっきり振り抜いた。

 やつの顔面めがけて。


 鈍い音とともに男は意識を失い倒れる。


 その周囲にも数人、護衛みたいな連中がいたが、我が家の優秀な使用人達が全て取り押さえていた。

 女性冒険者も呆気に取られるレベルの鮮やかさである。



「姉様、大丈夫ですか?」


 アイラは目を大きく見開いて、こくこくとうなずいた。

 それを聞いて安心したわたしは、男を仰向けにして馬乗りになった。



 そしてリズミカルに、右、左、右、左、と拳で殴りつける。



 子供の手でそんな事をしてはいけない? 大丈夫!


 こんな事もあろうかと、スキルTSを手に入れてからは使用人様方から武術を教わっている。

 そして!!

 今日の朝1番でわたしの元へ届いた例のブツ、それが!!


 この、空手などでよく使われる『拳サポーター』と、局部を守る『股間サポーター』!!


 21世紀を生きるオタク舐めんなよ!?


 以前読んだとある海外のSF小説で、女性から男性に性転換した人物が、局部を怪我したさいに苦しみながら言った言葉がある。

 その内容は、幼い頃の痛みに対する無理解な大爆笑を、幼馴染の男性に詫びるものだった。

 すっげえシリアスな作品のシリアスな場面で、コメディかとツッコミそうになるが、きっと違うのだ。

 男には生理や出産の痛みが理解できないように、女には理解できない痛みが男にもあるという事なのだろう。



 という訳で準備してみましたサポーター!



 どちらもメイド・イン・天界!

 ぷ◯ぷ◯クッションと同じ素材を使用しているため、安心安全、信頼のひと品!

 そう、もちろん神のハンドメイド!

 いくら殴ってもわたしは平気!


 というわけで心置きなく。



 打つべし! 打つべし! 打つべし!!



 笑いながら神の逸品の素晴らしさを味わっていると、被害にあったはずのアイラがわたしの腕を掴んで止めにかかった。


「もうそのくらいで!!」


「えー、なんで? 今ここで世間ってやつを厳しく教えとかないと、これから先こいつ何するかわかんないよ? すでにひどい目にあってる人もいるだろうし」


「でもいけません! もうこれ以上は死んでしまったらどうするんですか!」


「大丈夫大丈夫、死なない程度にするから」


「お願いですから!」


 アイラの話し方が弟への言葉遣いではなくなってきたので、わたしはこの辺にしといてやるかと男から下りた。


 アレイシャ達が淡々と襲撃者達を縛り上げる。

 しばらくして兄が部屋に姿を見せた。



「なんだこれは。リュート、説明しろ」


「はっ!」



 わたしは足を肩の広さに開いて立つと、腕を後ろで組んで胸を張り、報告をする姿勢を取る。


「そこの成金貴族みたいな服装の男が部屋に押し入り、姉様を捕まえて連れて行こうとしたため、離すように説得しましたが聞き入れられず、やむを得ず力ずくでとめました!」


「アイラを? アイラ、無事なのか」


「はい、わたしは問題ありません」


「手の跡が残るほど強く掴まれて、腰を抱かれて胸を鷲掴みにされていました」


 わたしがしっかり報告を続けると、アイラが真っ赤になってわたしを見ながら口をぱくぱくさせている。

 ごめんね、嫌だよね。

 でもこういう事はちゃんと伝えなきゃいけないのよ。

 

 アイラの腕を確認した兄は、顔色ひとつ変えずに、


「よくやった」


 と告げた。

 うわー、この兄に褒められるとなんだか妙な気分だよ。


「目的はアイラか」


 わたしは鑑定、のち神眼でやつの目的を確認。


「……市場で見かけて気に入ったみたいですね。連れて帰って閉じ込めるつもりだったようです」


 実際にはもっとひどい事が書かれている。

 犠牲者は他にもいるようだが、全てこの街の娘達だ。

 アイラは、見た目がいいという事もあるが、その優しげな雰囲気なのだろうか、あまり性格のよくない人間を惹きつけるところがある。


「そうか」


 兄はそう言うとアイラを抱き寄せた。


「無事で良かった」


 アイラの顔がさらに赤くなる。


 この場には冒険者の女性達も一緒に避難してきている。その前での兄の行動にアイラは動揺しまくりだ。

 というかわたしもびっくりなんだが、あの兄の様子は一体なんなんだ?

 確かにここのところわたしが馬車に乗っていないので、中でずっと2人だったようだが、いつのまにこんなに仲良くなってんの?




 ……って、ああ!!

 そういえばうちの兄貴も性格悪かったよ!

 

 アイラあああああ!

 ごめんよおおおお!











「装着!」と言わせたかった……。無念。

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