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目立つわけにはいかないはず……

 半日ほどのわずかな時間ではあったが、使用人ズは頑張ってこの街の状況を仕入れてきていた。


 前の街のキャドーの情報と合わせると、レストゥス地方を治める伯爵家が代替わりした5年ほど前から、伯爵側とこの街を預かる代官との関係が悪くなり、ついに3年前には代官も交代。

 街の治安を守るはずの兵士長も同時期に辞めて、そこからどんどん街の空気がおかしくなっていったのだという。



 ならず者が集まってくるようになり、もともと観光ではなく商業で成り立っていた街は見る間に寂れてしまった。


 被害を受けた住民は街を逃げ出し、隣の領でやり直す事もできずに浮浪者となり、最近ではスラムが形成されつつある。


 以前は街を通る旅行者には手を出さなかったが、最近ではタガが緩んできているのか、強い後ろ盾を持っていそうにない平民相手だとその限りではないのだそうだ。





「レストゥス伯爵は若くして亡くなった。今の当主はまだ未成年のはずだ。その後見人が好き勝手をしているんだろうな」


 兄は淡々とそう言った。


 お貴族様あるあるですね、分かります分かります。


「だがそれで街の兵士が取り締まりをしないというのは解せん」


「新しい代官と兵士長がバカなんじゃないでしょうか」


 わたしの言葉に、兄は不機嫌そうに目を細める。

 その目はわたしではなく、この部屋の中のものでもない、なにかを睨むように光っていた。


「その線もあるだろうが、普通に考えて預かっている街の価値を下げるというのはあり得ない。何か理由があっての事だと考えるのが普通だ」


 そっかなー。

 割とけっこう、頭の悪い犯罪者とかいそうな気がするよ?

 何もあと先考えてない感じの。


「教育を受ける機会のなかった孤児や貧しい家庭ならまだしも、代官や兵士長となれば貴族か裕福な平民だ。そうでなくとも能力を認められて取り立てられたならば、その面の心配はないはずだ」


 オーリ兄様の下で働くならそうだろうな、とわたしは兄から視線をそらす。

 この兄ならめっちゃ厳しく対応とかしそうだし、自分と同じようにできて当たり前、やって当たり前とか要求してそうだ。


 兄ちゃん、わたしはあんたの下では絶対働きたくないよ。

 過労死する前に精神がやられそうだ。



 こんなときはアレである。


 やわらかチタンでできている戦わない車……つまり戦車のように全力撤退するであります。

 あ、でもあれ、人の言葉でも腐るんだったっけか。



 わたしが撤退を決めたのを、納得したと思い込んだ兄はそれ以上この話を深める事はなかった。

 とりあえずわたしはひとつ、大事な事を理解した。

 兄のところは絶対ブラックだ。



 



 


 

「でも兄様どうされますか。この街を出るのはすでに難しい気がします」


「そうだな。ゆっくり観光しながら冬になる前に北の別荘に入っておくつもりだったんだが」


 兄が知人から巻き上げたという別荘は、冬になると隣の街へ行くのにも難儀するほどの豪雪地帯らしい。山の上のほうにあり、毎日雪かきしないと大変なんだとか。


 なんでそんなところにわざわざ行くんだ、と思ったら、冬に外からやってくる旅行者は目立つので、スパイや暗殺者などの対策には丁度いいんだと言われた。


 情報が漏れる事はないだろうが、念のため今度の冬は雪解けまでその別荘で過ごす予定だそう。


 ……その雪かき、わたししなくていいよね? 




「しかしひと冬過ごすのに領主が信頼できないとなると問題だな」


「この街を逃げたところで指名手配とかされそうですよね」


 しかもやってもいない殺人の罪とかかぶせられそう。

 普通の手配書より効果がありそうだとかそんな理由で。

 死体はきっと昨日の3人のうち誰か。多分最初に話しかけてきた下っ端っぽい彼。


「いっそ誰か知らんがバックごと潰すか」


 めんどくさそうにそんな事をサラッと言う兄。

 おそらく彼の中では本来その作戦一択。


 でも現状そういう訳にもいかないのです。

 なぜならわたし達、目立ってはいけないので。


 そこ気にしなければバックごとで良かったのにねー。残念。


「非常に素晴らしい案かと思います」


「わたくしも同意いたします」


 そこにフォグとアレイシャが兄の前にひざまずいて目を伏せた。

 ちょっと何言ってんの!?


「よし。教会へ使いを出せ。1人はここから1番近い神殿騎士団へ。1人はこの街の教会へ、今から行くのでしばらくかくまって欲しいと伝えるように。さあ、移動するぞ!」


 ご機嫌で両手を打った兄の笑顔にうすら寒いものを感じつつ、わたしはあんぐりと大口をあけた。


 それ思いっきり目立ちません!?












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