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夜討ち朝駆け、朝食前は恨み骨髄

 宿に戻ったわたし達を待っていたのは、不機嫌MAXな兄様だった。


 しこたま怒られたが、仕方がない。

 わたしのせいでアイラもアレイシャも危ない目にあって、マールに至っては痛い目にあっている。



 今後のことを考えて、わたしは痛い目にあわなくて済むよう、神に祈りを捧げた。

 神からは軽い感じで返事があったが、ブツが届くのは明日の朝になるので、今日は大人しくしているようにとの事だ。

 

 もう出かけるつもりのなかったわたしは快諾したが、まさか夜のうちに宿が襲われるなんて事はないと信じたい。


 襲われた場合、待ち構えている使用人達が大喜びなので、それはそれでアリかもしれない。

 きっと騒ぎにしない感じで静かに片付けてくれるだろう。


 いつも思うのだが、せっかく公爵家の使用人という新しい身分を手に入れたのだから、荒事とは無関係な穏やかな人生を歩んでいけばいいのに。

 それでたまに「オレなんかやっちゃいました?」と市場かどこかでヘラヘラしていればいいのだ。

 転生してないチート主人公、そんな人生も割と悪くない。









 そんなこんなで何もなかったらしい翌朝、朝食もまだだというのに宿へ押しかけてきたのは、昨日さっぱり姿を見なかったこの街の兵士達だ。

 言うに事欠いて、「住民への暴行容疑で連行する」ときた。


 しかもフォグとマールだけでなく、アイラとアレイシャまでだ。



「釈放を希望する際は保釈金が必要になる」



 と示された金額が驚くようなものだった。

 

 我が家は公爵家なので払えないわけじゃないが、払ってほしくない。

 そんな気持ちを込めて兄を見上げると、もともと色素の薄い黄色い瞳が酷薄なまでの冷たい金色に光っていた。


 あ、これヤバい。


「この金額は法外では? あと妹は不要でしょう」


 言葉少なにキレてらっしゃる。

 原因を作った身としては申し訳ないが、そっちにも非はあるので諦めてくれ。


「そちらは元貴族と聞いています。暴力行為をお金で簡単に解決できると考えられては困ります。また、使用人だけ残して逃げられてはたまったものではありません。ですので、ご令嬢も預からせていただきます」


 すげえ、こいつクソ真面目な顔で言い切りやがった。

 

 兄はその兵士を前に笑みを浮かべている。

 死んだな、こいつ。



「そもそも暴力行為というのが納得いきません。うちの妹も使用人も、誰1人として引き渡すわけにはいきませんな」


「法に逆らうというわけですか」


「そちらが法ならば、ですな」


 冷笑で返す兄。

 やめとけー、名も知らぬ悪徳兵士。

 そいつ公爵令息だからな。身分が下の相手には『自らこそが法』とか思ってても不思議じゃないからな。


「確かに私達は元貴族。ですが元とはいえ、今でも交流のある貴族家はあるのですよ?」


「ほう、ではそちらに助けを求められますか?」


「必要があれば」


「ではすぐに連絡を取られたほうがいい。我らのご領主様は裁きを下すのがお早いのでね」


 相手はそれなりの立場なのだろう、元貴族、つまりは現平民のわたし達をはっきりと見下している。


 ていうかこれ、公爵家の身分を隠しているわたし達だから平気でいられるけど、普通の商人や観光客の平民だとシャレになってないよね。


 多分、最初の市場で絡まれた時点でアウトだ。


 なんかムカムカしてきた、とジト目になるわたしを放置して兄は話を進める。



「どちらにしてもうちに非はないというのがこちらの考えです。誰も連れて行かせませんよ」


「ではまた改めましょう。その時に後悔する事にならないとよろしいですが」



 相手はニヤリと笑った。

 もう本性隠す気なしだな。

 元貴族を痛めつけて踏みにじれるとか、楽しみでしょうがないんだろう。



 わたしと兄の後ろでは、アイラが真っ青になってガタガタ震えている。

 そんな心配しなくても、うちだって貴族だからね。

 大丈夫、大丈夫。


 しかも公爵家だからね、と思うのだが、きっと彼女はわたし達に迷惑をかけたと怯えているに違いない。


 いやいや、上司なんて迷惑かけられてなんぼでしょ。

 部下を育てて尻拭いをするのが上司。

 そういうふうに世界ができていれば、パワハラ上司とか少しは減るんじゃないかな。



 上司は部下の管理をして書類仕事をしてアレもやってコレもやってノルマも持って、とかするから世の中がおかしくなるんちゃうかな、ってアラサーのおばちゃんは思っちゃうのであります。

 1人の人間にあれもこれも押しつけすぎだろブラック。



 まあそれはそれとして、アイラと対照的に平然としていたのが特殊技能持ちの使用人ズ。

 お前ら冷静すぎだろ。


 この職を失ったとしても特技があるから大丈夫……なんて話じゃないのは皆様ご承知の通り。


 あれきっと、なんかあれば皆殺しにしちゃえばいいから大丈夫、って思ってんだよきっと。

 そして朝食もまだでイライラMAXの兄はきっと、自分の気が済む範囲で皆殺しにする気満々。



 悠々と帰って行く兵士達の背中を見送りながら、わたしは祈りを捧げた。



 次生まれてくるときは、犯罪者以外で生まれてくるんだよ。


 あ、でもそうしたら犯罪被害者になる可能性があるのか。


 ……。

 …………。

 ………………。



 よし、合掌!!

 お祈り終わり!!









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