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人生って自助努力なのね

 わたしが1人でキレている間に、相手の男はマールを踏みつけにし、アイラの前に立つアレイシャにニヤニヤ手を伸ばす。


 アレイシャは涼しい顔でポケットからお金の入った小袋を取り出した。


 わたしを庇って抱きしめるアイラの手に力がこもる。


「このお金で見逃してはくださいませんか」


 男はアレイシャから引ったくるように小袋を手にし、中を確認する。


「ふん、まあそれなりだな。そっちのお嬢さんは帰っていいぞ。だがあんたはダメだ。一緒にこい」


 予想通りのセリフを吐く男。

 そんできっと、夜か明日にはまたアイラが襲われるんだろうな。


 必要かな、こいつ。

 世界に。



 きっとバックがあるから強気になってるんだろう。

 だがこっちのバックは公爵家だ。

 

 お互いの虎の威で言えば、うちのほうが強力な個体なんである。



「アレイシャ、行っちゃダメだよ」



 わたしが声をかけると、アレイシャは少し驚いたような顔で振り向いて笑った。


「大丈夫でございますよ、ぼっちゃま。ご心配になるような事はございませんから」


 そう言って男のほうへ一歩近づく。

 男は品のない顔でヘラヘラしながらわたしを見た。


「だってよ、()()()()()、ガキは大人しく姉ちゃんのスカートの下に隠れてな」


 別に腹は立たない。

 この程度のあおりで腹をたてるほど中身のわたしは若くないんである。



 社畜やってりゃもっとひどい言葉で罵られた事だってあったし、何より社員という社会的立場を持たないパートやバイトや派遣・日雇いなんて、世間からすれば生きてるサンドバッグだ。


 日々のストレスでおかしくなった誰かが弱者を踏みつけにする。

 そしてその誰かを他の誰かが正義を盾に踏みつけにするのだ。


 誰かが誰かを踏みつける事で、みんなかろうじて息をしている。

 そんな社会にわたしは生きていた。


 だからこの程度は鼻で笑っちゃうくらいの可愛らしい噛みつきなのだ。

 腹は立たない。

 ただ、助けも来ないらしいしアレイシャはどうするんだろうと考えていた。



 もしも大人しくついていくなら止めなければならないし、さくっと倒す予定なら怯えて泣き叫ぶぼっちゃまを演じるべきだろう。後のことはオーリ兄様がなんとかしてくれる。


 後者の場合、不憫なのはマールだ。

 殴られ損の上に踏まれ損である。

 後で美味しいものでもおごってあげよう。



 するとそこへさらに2人、男がやってきた。

 やはりというか、どう見ても兵士ではない。


「おい、そこの若い女のほうも連れて来い。いいとこの娘みたいだからな、使用人より楽しめそうだってよ」


「でも金もらっちまったぜ?」


「どれ見せてみろ」


 後から来たほうは袋の中の金を数えて笑った。


「これっぽちかよ! 全然足りねえ。今日の酒代にもなりゃしねえ。悪いな姉ちゃん、あんたもあんたのお嬢さんも一緒に来てもらうぜ。ついでにそっちのガキもな」


 そう言って男がアイラに近づいてくる。

 わたしはテンプレな展開にうんざりしながらアイラの腕の中から男を見上げた。



「もうそのくらいにしといてくれないかな、おじさん」


「ああ?」


「この街じゃさ、他人からお金を巻き上げないとか、他人に暴力を振るわないとか、女性に下品な真似をしないとか、そういう常識的なルールはどうなってんのかな」



 必殺、正義の盾!

 兄がここにいたら気持ち悪いと顔を歪めていただろう。

 だがそれも仕方がない。なにしろわたしに純粋さなどカケラも存在しない。

 自覚はあるのよ、本当よ?



「なんだと!? ふざけんなこのガキが!」


 1人はカチンときたようだが、別の1人がその肩を押さえた。


「おいおい、常識がいつでもどこでもおんなじで通用するとか、ガキの頭はめでてえなあ!」


 そう言ってゲラゲラ笑う。

 なかなか上手くかわすじゃないか、と感心していると、アレイシャが淡々とわたしに告げた。


「ぼっちゃま、彼らは常識というものを教えられずに育ったかわいそうな人なのですよ」


「なんだとこのアマ!」


「てめえ2度とそんな口がきけねえようにしてやろうか!?」


 アレイシャの言葉は皮肉や嫌がらせに聞こえるのだろう、男たちはアレイシャに掴みかかろうと手を伸ばす。

 しかし彼女はそれをわずかに体を逸らしてよけた。


 多分彼女は自分達の過去と重ねてあれを本気で言っているのだろうが、その優しさは絶対に伝わらないよ、アレイシャ。


「てめえ、この、クソ!」


 アレイシャは男の手からひらりひらりと無駄のない動きで逃げる。

 残りの2人は、そんなアレイシャより与しやすしと見たのか、わたしとアイラのほうへ向かってきた。


 1人は、ダメージを感じさせない様子で立ち上がったマールが、腕をひねって行動を封じる。


 もう1人は、目を閉じたアイラの腕をすり抜けたわたしが足をかけ、通りに転がした。


「なっ……!」


 驚き慌てつつも起きあがろうとした男の背後に近寄ると、わたしはスキルを発動させる。

 そう、全てのオタクの憧れ『なんかトンってするやつ』!!



 トン、


 男は通りに仰向けに転がった。



 トン、


 アレイシャに掴みかかっていた男の背後に忍び寄り、意識を刈る。

 男は膝から崩れるように通りに突っ伏す。

 尻を高く上げた無様な姿に思わず失笑。



 トン、


 マールが抑えていた男の首筋を狙う。

 あっさり3人が大通りに沈んだ。



 またつまらぬものを叩いてしまった……。

 なーーんて!

 たーーのすぃーーー!


 ていうかほんとに最後まで来なかったな兵士! どういう事!?


 

 フォグがリオと一緒に駆けつけてきて、「ここの兵士に突き出しても意味はないし、さらに酷いことになる」と告げられて、わたしは3人をその辺の路地に放り込んで置くように指示、宿へと戻った。


 途中、「早くこの領から出て行ったほうがいい」と店の人たちに声をかけられ、わたしはさらに首をひねる。



 街からじゃなくて領そのものからなんだ?

 ふーーん?











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