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神の代理人

いつも誤字報告ありがとうございます!

バタバタしてるので書き忘れたりしておりますが、いつも本当に感謝しています。ありがとうございます!

 レストゥス地方の半分以上を占める湖水地方だが、領境からは離れた場所にある。


 領都レシャからさらに奥へ向かうと景観が段々と変わってくるのが楽しいらしい。


 行くなら花の咲く春、そしてベストシーズンは6月から9月。

 公爵家の別荘があるらしいが、今回そこは使えない。


 どうするのかと思っていたら、湖水地方の北部に兄が個人的な屋敷をこっそり持っているという。

 なんでも、賭け事にハマった知人から安く買い叩いたんだとか。


 ゲームで病死した事になっていた兄だが、きっとヤツを殺したいほど恨んでいた人間は星の数ほどいたに違いない。


 今は自分がしっかり管理して、いずれは買い戻させてやるつもりだと言う。


 その知人が今どうしているか聞いてみたが、親に縁を切られて10年契約で船の上だそうだ。


 船乗りなんて博打打ちしかいない気もするが、その商船の船長は親が博打打ちで辛酸を舐めて育ったため、船員に賭け事全般を厳しく禁じているらしい。


 案外、知人が真人間になって帰ってくるのを兄は信じているのかもしれない。


「でも兄様、賭け事嫌いでしたっけ?」


「いいや。だが負ける賭けはしない主義だ」


 うん、そういう人だよね。








 領都レシャまではまだ数日かかる。


 あちこちをゆっくり見て回りたい兄は、レストゥスに入ってすぐの街で3泊すると決めた。


 街の名前はオルダート。

 キャドーよりもさらに空気が悪い。


 なんでわざわざこんな場所で3泊もするんだと言ったら、何をどうしてここまで街の雰囲気が悪いのか分かれば反面教師にできる、とのたまった。

 

 兄は我が家からの爵位は継がないが、母方の伯爵家を継ぐ事に決まっている。

 わたしの母は父にとって2番目の妻で、最初の妻は3人の男子を産んで亡くなった。

 彼女はアルエット伯爵の一人娘で、長男にはアスターク家を、次男にはアルエット家を継がせる約束をして嫁いできたそうだ。

 

 余談だが三男にはアスターク家の爵位付き領地を与える予定だったが、海軍に入隊するため家出したので保留になっている。


 まあだがそんな理由から、次男兄は娘のいる貴族家から引く手数多である。


 確かに顔はいいし、頭もいいほうだ。


 だがこの性格である。

 絶対あとで泣きを見ると思うのだが……。


 いや、きっとそんな事はどうでもいい。

 それが貴族の結婚というものだし、それに兄と結婚するご令嬢に被虐趣味でもあればわりと上手くいくだろう。



 嬉々として使用人達を情報収集にやる兄を見ながら、これ単なる趣味のような気もするな、とわたしは考えていた。








 宿の部屋の中でじっとしている必要もないので、わたしはフォグを連れて街へと繰り出した。


 男児の格好をするようになって以来、毎日が楽しくて仕方がない。


 通りに並ぶ店で果物を買い、それを食べながら歩く。


 この美少年の見た目で笑顔で話しかけると、疲れた様子の売り子のおばちゃんも小さく笑い返してくれる。

 さらに「ありがとう!」と満面の笑みでお礼を言えば、「こちらこそ、ぼっちゃん」と弱々しいながらも応えてくれた。


 悪い人じゃないのは間違いなさそうなのに、なんで辛そうなんだろうな、と思いながらもうひと口。

 うん、うまい。


 フォグにも1個あげて、2人で並んでシャリシャリやっていると、後ろから可愛らしい声が聞こえてきた。


「……ト、リュート! 待って、わたしも一緒に行くわ」


 アイラの声だ。

 危ないかもしれないから置いてきたのにどういう事ですか!


 振り返ると、アイラがアレイシャとマールの3人で足早にやってくる。


 最近のアイラは生き生きとして幸せそうで、孤児院にいたときよりも倍くらい綺麗になった。

 ゲームの時の様子と比べたら10倍だ。


 

 ダメだいかん、これ宿に返品しないと。



 そう思った次の瞬間、わたしとアイラの間に立ち塞がった人物がいる。


「そこの女2人、ちょっとこっちへ来い」


 言わんこっちゃない。


 わたしがアイラのほうへ一歩踏み出すより先に、マールがアイラとその男の間に入った。


「なんだ? 使用人か? どけ、邪魔するとただじゃすまんぞ」


 悲しいくらいの陳腐なやられキャラのセリフだな。

 ゆっくりと近づいていって、わたしはアイラのそばに立つ。


 男はニヤニヤ笑いながらマールに言った。


「ほらどけ、逆らわないほうがお前のご主人様のためだぞ?」


 お前こそうちの使用人には逆らわないほうが身のためだぞ?

 確かにマールは一見細身だが素早さと暗器の扱いには定評があるからな。

 ちなみにヤバいくらいの細マッチョだ。


 アレイシャがそっと耳打ちしてくる。


「フォグが助けを呼びに行っています。どうか短慮は起こしませんように」


 オッケーオッケー、短慮はナシね。任せて任せて。

 わたしがうなずくと同時に、男のガラの悪い怒号が響き、マールの体が地面に倒れた。

 苦しそうにうずくまるマール。


 わざと殴られたんだって分かってても気分悪いなあ。


 わたしが眉をひそめると、近くの屋台の店主がアレイシャに声をかけてきた。


「あんた、詰所の兵士はやって来ないよ。金をやって逃げないと酷い目にあうよ」


 何だそれ、カツアゲも兼ねてんのか。

 で、金がなけりゃ女を置いてけ、と。


 それって後で女も持ってかれるパターンじゃね?

 それともそんな行儀いいの、コイツら。


 相手の男の顔をじっくりと眺めてみる。


 アイラとアレイシャを見る目つきが気に入らない。

 金を払うだけムダのような気がした。


 しかし兵士が来ないってのはどういう事だ?

 神ですら『仕事を片付けないと出られない部屋』に頻繁にこもっているというのに、人間風情がなんたる事!


 するとピコーン、と電子音が響いた。


『神から感謝の言葉とクエストが届いています』


 おおっ!


『新しいクエストは『神に代わってお仕置きよ!』です。この言葉を唱えながら兵士に暴力で反省を促してください。クリア報酬はカラフルで丈の短いセーラー服です』


 拒否!!

 断固拒否!!!


 コスプレはともかく誰がやるかそんなクエスト!!

 

『歌いながらでもいいそうです』


 イヤじゃボケェっっっ!!!















今日が十五夜だって、とある詩で気がついたので……。

そう、これ帰ってきてからギリギリで書いてます。

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