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新しい名前で出ています

 宿を出発したわたし達は、ギルド前で契約した冒険者チームと合流。

 顔合わせもしないまま街を出た。




 昼まで馬車を進め、休憩をとる事にしていた地点まで着いたところで、ようやく互いの紹介をする。


 兄はギルドに着く前にはすでにわたしを男児の服に着替えさせており、冒険者たちには弟だと紹介した。


 契約時には『妹たちがいる』と曖昧な説明をしていたらしい。

 確かに、わたしは妹だし、他のメンバーをひと括りで『たち』にしてしまえば嘘は言っていない。


 さすがだな兄ちゃん、そういうとこほんと人としてどうかと思うよ。



 まあともかくわたしはこうして無事、男子としての居場所を獲得した。


 何がいいって馬車の中で大人しくしている必要がなくなったって辺りだ。


 わたしの身の安全は使用人達とユニコーンによって保証されている。

 だがちょろちょろされると周りに迷惑だし、世間一般の令嬢はたとえ幼女といえど気ままにうろついたりはしないと、兄にきつく監視されていたのだ。


 それが変わった。


 男の子の姿を取るようになってから、兄はわたしの事を半ば放置している。


 嬉しいような悲しいような。



 ごめんうそ。



 めっちゃ嬉しい。

 わたしはユニコーンの背中に乗って、他の使用人たちと一緒に馬車のそばを歩かせた。


 天気はいいし、自由だし。


 もう最高にご機嫌である。


 


 新しい名前はリュート。

 前がリリエラだったので、なんとなく決めた。




 そこからはしばらく、何事もなくのんびりとした旅が続いた。

 ハイドライドの領都は迂回し、周辺の街や村を観光がてらゆっくりと進んでいく。


 兄が何を考えているのかは分からないが、急ぐ旅でない事は間違いない。


 時折、のどかな田園の風景を馬を駆けさせながらわたしは非常に満足だった。








 そう、満足だった。

 人生山あれば谷あり。

 やはりというか、街道沿いが不穏な空気に変わったのは、レストゥスのひとつ手前の町での事だ。


 領境というのは、良くも悪くも自領だけでなく境向こうの地の影響を受ける。

 そしてここキャドーという街では、それは悪いほうに表れていた。


 ここまで通って来たいずれの町や村と比べても、雰囲気が暗く荒んでいる。


 その大きな理由は街角にたむろする目つきの悪い男たちや、細い路地に隠れる浮浪者や孤児たちだ。

 通りを行くわたし達を値踏みするように、あるいはうつろな視線で見つめている。



 もしもここが我が家の治める地域であれば、兄は情報を収集して街を預けている人間の元へ説明を求めに行っていただろう。


 だがこの街はロゼリアの父であるハイドライド伯爵が治めている。

 わたし達にできるのはせいぜい手紙で見たものを知らせる事ぐらいだ。


 わたしが通りに連なる商店の奥を伺いながらゆっくりと馬を歩かせていると、冒険者チームのリーダーが兄の乗る馬車に近づいた。

 何やら小声で話している。


 引き返すかどうか聞いているのだと、聞こえずとも分かった。


 わたしはそれを興味のなさそうな表情を作ってぼんやり眺める。


 兄は引き返さず、今日はこの街で宿泊する事にしたようだ。

 めんどくさかったからだな、絶対。


 今日の宿は一応この街1番の宿屋だ。

 

 冒険者チームは、馬車のある馬屋で交代で見張りをする事になった。

 いくら宿屋の馬屋とはいえ、安心できないと考えたらしい。


 でもごめん、うちの馬車と馬達はそんな心配する必要ないから。

 自動迎撃システム付きなの、うちの(ユニコーン)

 むしろ襲った側の人間が心配なくらいだから。


 真剣な顔で馬屋のそばに立つ冒険者たちに、わたしは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。






 


 翌日、何事もなく一夜が過ぎて、わたし達はキャドーを出た。

 振り向くと、路地から恨めしそうな、疲れきったような視線が追いかけてくる。


 次はレストゥス地方。

 領内に多くの湖を抱え、湖水地方として昔から観光で有名な土地である。


 特に何もせずとも毎年利益が上がってくる、治める側としては羨ましい地方だ。


 明るい、爽やかな美しい土地。


 湖はまだ遠く、周囲は林が続く穏やかな道のり。

 だがその静かな風景の中で、わたしはキャドーで見た人々の暗い目つきを思い出していた。











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