フッ……またいい事をしてしまった……
ソルシで見つけた和食?料理店が気に入りここのところ入り浸っていたわたしだが、ユニコーン達も到着したのでそろそろ次の街へ行こうと計画を立てていた。兄が。
護衛を1チーム雇い、ハイドライドを出て次の土地、レストゥスの領都まで同行をお願いする予定だ。
一応、元貴族の馬車列ともなればそれなりに目立つ。
そこに御者と使用人しかいないと分かれば、見る人によっては『美味しい餌』なんである。
さらに見る人が見れば元暗殺者集団と武闘派精霊チームのアンタッチャブル案件なのだが。
だが悲しい事に人は見かけでしか物事を判断できないのだ。
いっそ餌になって道中の犯罪者を一掃する手もあったが、何しろわたし達はお忍びの旅である。
一般旅行者に紛れるためにはここらで護衛を雇っておこうという事になった。
まだ契約していないが、受付嬢からお薦めのチームがあった。
男性3名、女性2名の5人編成で、平均年齢が約27歳。30代のベテラン冒険者3人に、若手と新人の兄妹2人なんだそうだ。
うちは若い人間や女性が多いので、強面だけじゃなくて親しみやすい人員もいれたんだとか。
受付嬢にしてみれば当たり前の気遣いだったんだろうが、すまん。
うちには内面的に強面の人間がほとんどだ。
多分普通の人間はわたしとアイラだけじゃないかな。
あとは賊だろうがモンスターだろうが全然怯まずに立ち向かっていける鋼の精神ばっかりだと思う。
兄?
やつは一応冒険者資格を持っている。
三男兄のトロィエのように筋肉至上主義ではないが、剣も魔法もバランス良く使えるタイプだ。
明日は冒険者と顔合わせをして、お互いに条件に納得できれば契約。
そして夜はロゼリアとその家族と食事をして明後日には出発、と予定が決まった頃、街で情報を仕入れてきた御者の1人が報告してきた。
ロゼリアに求婚している貴族の1人が街にやってきたという。
詳しく聞くと、50歳以上年上の領地持ちの伯爵だった。
もうこいつクロなんじゃね?
キリに頼んで様子を見てきてもらったら、ロゼリアの宿泊している宿屋を襲撃する計画を立てていたそうだ。
オロカモノめ……。
深夜、街1番の高級宿周辺と、治安を守る兵士達が騒がしかったが、わたしは気にせずぐっすり夢の中だった。
何が起こってどうなるかなんて、分かりきっているのに騒いだりしないのだ。
どうよこの大物感!!
翌朝。
ハイドライドから遠く離れたパルミットの領主、イエーディエ伯爵が街の治安を乱し、聖女誘拐を企んだとして捕まった。
イエーディエ伯爵は教会から破門され、手下の賊ともどもユニコーン達に重傷を負わされ、散々な状態である。
帝都からの沙汰を待つとの話だが、そこまで持たないだろうという話だった。
ユニコーンども、絶対生かさず殺さずで苦しみが長引くようにしたに違いない。
いいセンスしてやがる。
噂では、彼は領地に大勢の若い妾を囲っており、その多くが犯罪紛いの方法で手に入れた女性で、年嵩になるとろくに手当もやらずに放り出されるのだという。
そのクズの命の火が消えかけている。
これでロゼリアの身も安全だし、世界がまた1つ美しくなった。
なんと素晴らしい。
さすがわたし。
何もしてないとか言っちゃダメ。
わたしがいたから、わたしのおかげでこの結果が導き出せたの。
素晴らしいわたし!!
人生のコツは自分を褒める事である。
何は無くともとりあえず褒めろ!
なんか違う気がしても気にせず褒めろ!!
人生は自分を褒めずに生きていけるほど甘いもんじゃないんだ!
イエーディエのようなクソは別として、毎日マジメに慎ましく生きてる我々一般人は全てにおいて褒められるべきなのです。これ絶対。
慎ましさとはなんぞや、だと?
わたしみたいな人間の事だよ!!
自分を疑うな、世間を疑え! 真実とは常に隠されているものなのだ!
ふと思い出したが、前にやったゲームで思った事がある。
真実って言ったもん勝ちなとこあるよね、マジで。
街で騒ぎがあったため、冒険者との顔合わせは兄と使用人だけでさくっと済ませてきた。
契約内容は、馬車4台を守るというだけのもの。
わたし達のうち3名は偽名で身分を詐称しているので、契約書には詳しく書けないのだ。
長期になる可能性があるので期間は定めていない。
冒険者には秘密遵守の義務があるので、ある程度は信頼できるのだがやはり事情を知る者は少ない方がいい。
最初に、もしかしたらレストゥスより先もお願いするかもしれないと伝えてあるので、きっと問題はないだろう。
というか兄ちゃん、一体どのくらいの期間の旅行を考えているんだ?
わたしとしては、家に戻るとまた軟禁生活なので長ければ長いほどありがたいのだが。