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正しくTS

「では明日朝1番で迎えに来ますので、どうぞよろしくお願いします」


 食事の後、兄はわたしと数人の使用人を置いてアイラと宿へ戻って行った。

 幼女を1人にするとかどうかとおもうのだが、それだけ残した使用人たちを信頼しているのだと思いたい。


 しばらく居間で伯爵夫人たちとキャッキャうふふして、わたしはようやくお休みの時間になって、部屋へやって来たロゼリアと2人きりになる事ができた。


「初めまして我が懐かしの故郷の友」


「会えて嬉しいよ、ジョーイと呼んでも?」


「もちろん!」


 イケる口だなこいつ!







 そこからしばらくお互いの状況を話し合ったが、やはり彼は地球の記憶がある青年で、ムキムキマッチョではなくお笑い芸人志望の23才だったらしい。


 彼はわたしがアラサーだと知って、ベッドの上であぐらをかきながら驚いたように言った。


「ジョーイじゃなくてシェーンのほうか。リリィとどっちで呼ばれたい?」


「そっちも本名じゃないからお好みで」


「本名じゃないんだ? じゃあ紛らわしいからリリィで」


「じゃあわたしもロゼリアで」


 まあ確かにいくつも呼び名があると紛らわしいよね。

 特に新しい名前に慣れようとしてるなら尚更ね。


「ロゼリアはいつから記憶あるの?」


「一年くらい前かなあ。病気で死にかけてさ、それまで太ってたのにどんどん痩せてって、走馬灯がぐるぐる回り出して、『あ、もうダメだなこれ』って思ったらなんか声が聞こえてきてさ、『生きたいですか』って言うから『生きたい』って返したらこう、ぐわあーーーーって記憶が流れ込んできてさ。『あ、俺、俺だった』って。気がついたら病気治ってたんだよね」


 簡単だなあ。『俺だった』ってお前。

 でもなんか分かるよ。

 同郷の人間と話してる感じがする。


 しっかしこれ……。



 わたしは目の前のあぐらをかく金髪美少女をとっくりと眺めた。


 滑らかなたっぷりとした金の髪。

 美しい緑の瞳。

 憂いを帯びて整った顔立ち。

 白い肌。


「めっちゃ正しいTSだな」


「俺も自分のことじゃなかったらウケてたよ」


 涙を滲ませる豪ちゃん、じゃないロゼリア。


「そっちは?」


「うーーん、もとの女の子の魂が体から離れちゃってね。代わりにわたしが入ってる。やっぱり一年くらい前」


 多分、光と闇と中立と、全部の勢力に転生者の権利が与えられたんだろうなあ。

 この世界、そういうとこ変に平等だから。

 そうすると、「どちらでもない」側の勢力ってのもあるのかな。


 ロゼリアがどの勢力の人間かは分からないが、もしかするとあと1人くらいはいるかもしれないのか、転生者。


 こっち側の味方に引っ張り込める人間だといいなあ。


「おんなじくらいの時期なんだ。なんか理由でもあんのかな」


「うん多分ね」


「なんか知ってる?」


「うん、まあ。話せそうなら今度話すよ。言っていいか聞いとく」


「聞いとくって誰に?」


「うちの怖い天使様」


「え、天使怖いの」


「この世界のはね」


 地球のイメージでいると泣きを見るぞ。


「そういえばさ、ロゼリアは誘拐されそうになった理由とか分かってる?」


「そうそれだよ、それそれ。いやもう参っちゃってさ。俺、病気する前は太ってたんだよ。親父がぽちゃ専でさ」


 うんうん、伯爵夫人ぽちゃってたよな。

 自分の母親や姉を◯ってるとか◯◯専って言いたくない気持ちは分かるぞ。


「うちの姉2人も母親似で、縁談は成人後にデビューしてからでさ、俺もそうなるはずだったんだよ。それが病気で痩せてから釣り書きが山のように舞い込んできてさ」


 うんうん、そりゃ大変だ。


「多分その中の誰かだと思うんだけど、どいつもこいつもあやしくて。それでとりあえずこの街に避難してきたんだ。家にいるとあいつら押しかけてくるからさ」


「うん、なんていうか、お疲れ」


「ほんとだよ。なんで俺が男と結婚なんてしなきゃいけないんだよ」


 ロゼリアは転生前の記憶を思い出したタイプのようだが、病気で死にかけたせいなのか前世の豪ちゃんに偏っているようだ。

 意識は男なのに男から縁談が山のように降ってくるって地獄だな。

 しかも中には変態ヒヒじじいや犯罪行為にためらいのない奴までいるときた。


「うーーん、あのさ、ロゼリアは結婚自体ムリ?」


「ムリだよ! 何がどうなってもムリ! 絶対! 俺男だし!」


 中身はな。

 そのうちほどよく混ざって女寄りになるかもしれんだろ。


「じゃあさ、ひとまず教会にでも入っといたら?」


「シスターになるのもムリ。考えたけど、質素倹約、清貧に努めるとかほんとムリ。間違いなく死ねる」


「それは同感だよ。清貧ってあれ、貧乏人誤魔化すためのウソだからな絶対。じゃなくてさ、聖女になるんだよ。そうすりゃ好きなだけ独身でいられる。そのうち女でいるのに慣れて結婚してもいい気になったら聖女やめればいいし」


「え、聖女ってそんな簡単なの? 一生独身って聞いたけど」


「前はね。今はお手軽超簡単システム。教会かユニコーン、どっちかに聖女認定もらえばオッケー」


「え、でもお高いんでしょ?」


「ミュートウ子爵家が滅んだ今ならなんと! タダ! このわたくしリリィちゃんが口利きすれば、全ての手続きは不要であなたも明日から聖女の仲間入り! お客様にやっていただくのは日々の祈りと奉仕だけ! いい人のフリをして生きていればあとは何もする必要なし! さあ今だけあなただけのこの特別な機会に聖女になりませんか!」


「ステキ! ボーナス一括まとめ買いでお願い!」


「はーーい、1名様ごあーーんなーーい!」




 こうして1人、ハイドライド地方の歴史に名を残す聖女が誕生したのだった。


 いやあいい事したなあ!










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