うちはブラックじゃありません
わたしを抱っこしている男性使用人、腕や胸の分厚い筋肉からして間違いなく特殊技能持ちのフォグは非常に大柄である。
なので、通りの両はじの店や少し先の方まで見通せて、わたしは結構ご機嫌だった。
アレも欲しいコレも欲しいみんなみんな欲しいと考えてキョロキョロしていると、見てしまった。
道の先、ガラの悪そうな男達が路地の前で壁になって通りを歩く人の視線をさえぎり、キラキラの見事な金髪のお嬢さんを暗がりへ無理矢理引っ張り込むのを!!
おりしも時間は夕暮れ時。
みんな自分の買い物や商売に手いっぱいで、上手くやれば確かに気づかれない。
考えるもんだ。
鑑定したら『ソルシの闇ギルド員』と出た。
闇ギルドかあ。
後ろ暗い事はまとめて万引き受けております、ってとこかな。
どうだろう。殺しちゃっても問題ないだろうか。
悪人でも家族とかはいるんだろうけどなー。
一見誘拐だけど家族から連れ帰る依頼が出てたとかあったら悪いしなー。
だがまあうちの子達の安全が第一。
他人を慮ってケガとかされたらたまったもんじゃない。
彼らには我が家の人間を守ってもらわなければいけないのだ。
方針が決定したところで、こっそり救い出してもらうのにフォグに頼もうとしたら思いっきり横を向かれた。
こいつ気づいてやがった!!
いや、怒るところじゃない、わたし。びーくーる、びーくーる。
自分の仕事を全うするいい使用人じゃないか。
うんうん、ものは考え方しだい。
となると、この状況、わたしのスキルでなんとかなるか?
天使召喚。
そんな事で呼ぶなと怒られそうだ。
ケルベロス。
路地が血の海になりそうだな。大通りは阿鼻叫喚、地獄絵図。
まさしく地獄の番犬。
鉄の処女。
無理だ。どちらにどんな理由があるかも知れないのに、悪夢に放り込む事なんてわたしにはできない。
そう、わたしにも人の心はあるのだ。
仕方ない、ここはうちの使用人達に頑張ってもらおうか、と後ろを振り向く。
彼らはフォグほどデカくはないので道の先の誘拐事件には気がついていないはずだ。
「あなた達の誰でもいいから、この先の左側の路地で女の子を助けてきてくれる? 悪人顔が道を塞いでるからすぐわかるわ。必要なら殺しちゃってもいいから」
すると全員目を伏せた。
拒否か!
強く繰り返そうとするわたしにフォグが言った。
そこらのチンピラならびびって漏らしそうな鋭い眼光と低い声で。
「お嬢様、我々はただの使用人です。お嬢様がたをお守りするのが精一杯でございます」
誰も信じねえよ!
使用人たちも涼しい顔でうんうん首を縦に振る。
そうこうしている間にも、悪人顔たちは路地裏に消えて行こうとしていた。
ああもうしょうがねえなあもう!!
「リオ! マール! 行け! あとで褒美を取らす!」
「「はっ!」」
全く。
命令されたら断れないんだからさ、最初から素直に動いてくれよ。
顔をしかめていると、アイラが苦笑しながらわたしの腕をとって優しく撫でた。
「目立っちゃったわね。あそこのお店で何か買ってもう帰ろうか」
確かに、周囲は好奇の目でわたしをじろじろ見ている。
でもしょうがないじゃん、見たからには放って置けないし。
「うん、お姉さま。わたしおっきいお肉がいいな!」
可愛く答えたはずなのに、さらに不審げな視線が増えた。
なんだよ! 成長期には肉が必要なんだぞ! わたしは間違ってない! ……はず。
屋台で肉と野菜が串に刺されたヤツを全員分買って、他にもいろいろ購入してわたし達は宿に戻ることにした。
そのうち使用人たちも帰ってくるだろう。
彼らには追加で、お菓子と果物を褒美として用意してある。
我が家は業務内容はブラックギリギリだけどね、報酬はブラックじゃないのよ。
多人数の賊相手に戦わされてたったコレだけ、とか思っちゃダメ! あるだけマシなの! これホント。
……なんか強烈にブラック臭が強まった気がする。
いかん、なんとかしなければ。
わたしはもう一軒寄りたいと駄々をこねて、それなりに大きな構えの酒店に向かった。
そこで彼らに1本ずつお高いお酒を購入する。
選ぶのに時間がかかったのはご愛嬌だ。
わたしが飲みたいヤツを選んだからな、喜んでもらえること請け合いだ!
酒が飲めなかった場合、だと?
年末年始の付け届けにでも使やいいんだよ!!
酒は万能のプレゼントなのです! 異論は認めん!!




