ライダー、ゴー! ライダー!
こんにちは。
わたくしミリアムようやく6才。
現在絶賛軟禁中です。
誕生日パーティ?
なんのことかしら。
もちろん中止でございましたわよ。
時系列はこうだ。
賊に襲われたのが誕生日の3日前。
それにより誕生会が中止。
教会で聖女認定され、ミュートウ子爵の爵位剥奪劇が行われている最中にわたくし6才に。
ミュートウ子爵領でユニコーンと契約。
ユニコーンがアスターク公爵領へ移動。
我が家も揃ってお引越し。
外出できないうえ家庭教師もつけられないので屋敷の奥に軟禁中。←いまここ。
家庭教師がいないのは嬉しい事だが、なにしろする事がない。
出された課題?
なんでせにゃいかんのじゃ。
よく考えてね?
行方不明の人間が課題なんてこなせないでしょ?
だからこれでいいの。
大体、せっかくのリアルの時間を無駄に貴族令嬢の勉強なんかして過ごすわけにはいかんのです。
1番チョロそうな義姉に助けを求めたところ、同じように軟禁中のはずの義姉は不思議そうに首をかしげた。
「ミリィちゃん、退屈なの? 一緒に刺繍をするのはどうかしら」
慌てて逃げ出して母に助けてくれと訴えたら、お姉ちゃんになるんだから我慢しなさいと言われた。
そういう問題かなあ!?
誰も助けにならないと悟ったわたしは実力行使に移ることにした。
マジで行方不明になってやる!!
と思ったが、準備段階で使用人達に見つかって家出道具を没収された。
やたら優秀な我が家の使用人達は元暗殺者。
スパイ活動もお手の物。
そんな彼らに隠れて何かしようなどできるはずもない。
不貞腐れてピアノを弾いていたら、オタ候補生である我が兄が珍しく音楽室までやってきた。
「つまらなそうだな」
「他にする事ありませんからね。屋敷の奥から出るなって父上の言いつけなんです」
めんどくさいので曲を弾く手を止めずに答える。
「何の曲だ?」
訊かれてわたしは黙った。
言えねえよ、『◯ケモトピアノの歌』だなんて。
この体は物心つく前からピアノを習い続けている。
そこへ小中高と音楽の授業を受け、幼い頃からのカラオケとテレビとCDによる英才教育を受けたアラサーのわたしの魂が入った。
しかもこの1年くらいは悪魔のような淑女教育。
その中にはもちろんピアノ含めた音楽の教師もいたわけだ。
おかげで今では簡単な曲なら耳コピで再現可能。
各種マイフェイバリットソングスを弾きまくっては使用人達にドン引きされている。
時代がまだわたしの耳コピについてきていないのだよ。
けしてわたしの腕のせいで騒音に聞こえるのではないと思いたい。
「即興か? 案外、音楽関係に才能があるのかもしれんな」
いいえありません。
教師の皆様のスパルタのおかげです。
「まあいい。毎日暇なんだろう? 一緒に出かけるか?」
「本当ですか兄上!」
「ああ。俺もずっと家の中にいると気が滅入ってくるからな。変装なら得意なやつが使用人の中に何人もいるし、問題ないだろう」
「兄上ステキ!」
抱いて! はマズイな。
だが『抱っこ』くらいならいいんじゃないかな。
そう判断したわたしは椅子に登って兄の首に飛びついた。
「やめろ! 椅子に登るな! そして抱きつくな!」
やだなあもう、兄上ったら恥ずかしがり屋さん!
そして1ヶ月後、わたしと兄は隣の領へと向かう馬車の中にいた。
今回サヴァは奥さんと子供達と一緒にお留守番である。
代わりにキリがわたしの膝の上にいる。
普通の子猫のフリをしているときのキリはとても可愛らしいのですごく嬉しい。
ほくほくのわたしと、向かいに座る兄は、暗めの赤毛のカツラを被っている。
わたしの隣にはやはり赤毛のカツラのアイラ。
兄とアイラとわたしと3人兄妹という設定だ。
御者と従者と従僕、メイドはもちろん、全員元暗殺者。
そしてさらに馬車を引くのは姿を変えたユニコーン達という完璧な布陣だ。
これで襲ってくる賊とかいても無問題!
まだ見ぬ景色と出会いがわたしを待ってるの!
わたしは膝の上のキリを撫でながら鼻歌を歌った。
気分はポルノの『ハネウマライダー』。
心の向くまま気の向くまま、行けよ、キミ!
自由は若者の特権なのだ!
「念のため言っておくが、俺の目の届く場所にいろよ? 自由に暴れ回ってみろ、特別厳しい家庭教師付きで送り返してやるからな」
こ、心だけは暴れ馬のように生きてやる……!!