表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/127

こんにちは聖女です(涙)

 そこからはそれはもう酷かった。


 ユニコーンは、この世界では精霊である。


 モンスターではない。

 神獣でもない。

 ただの精霊。


 精霊の中ではかなり力があるし、人間よりもかなり強いけれど、天使と比べたら全然強くない。



 そんな精霊が自分たちより数の多い、しかも武装した天使達相手に戦って勝てるか。

 勝てるわけがねえべさ。


 天使達が各々武器を振り回し、ユニコーンに打ちつける。


 舞い散る羽根。


 天使がこれだけいて飛びまわっていれば、それはもう紙吹雪か桜吹雪かっていうくらいに舞うんだけどさ、よく考えたら白いんだから普通に吹雪でいいよね。


 そして血飛沫も飛び散りまくり。


 羽根が血を吸って舞い散るってそれってどんなホラーって感じだよね。


 いやもうこれがぱあああっ、とね。

 グレートカブキがどこかそこら辺にいるのかってくらいにね、辺りに赤い霧が舞うのよ。

 毒霧じゃないよ。血の霧だよ。 


 それを生み出す天使達の顔や体にもユニコーンの血が飛び散って、それを受けて満面の笑みの天使達。


 逃げ惑うユニコーン。

 逃がさない天使。


 やべえ。

 そして怖いよ。

 天使がマジ怖え。



 真っ青になって涙目のわたしを、父上が「見るんじゃない」と抱き寄せた。


 父上、父上! あそこに魔王がいるよ!


『ほほほほほ!!』


 リュゼ様の高笑いが響く。

 

「おお、リュエール・デ・ゼトワール様、なんと美しい……!」


「オムニボテンス様のあの勇壮なお姿も、まさに言い伝えの通り……!!」


 教会関係者様がひざまずき、感涙とともに祈りを捧げている。

 だがその眼前にあるのはヒャッハーな天使の皆様のお姿。


 なんでも、悪魔に虐げられ、モンスターの餌としてしか生きられず、隠れ住む人類をすくったのがこの世界の神と天使なのだとか。


 そのため、人々は戦う天使達の姿に憧れ、感動を覚えるよう洗の……オシエラレテイルノデアリマス。



 そして魔王(リュゼ)様がこっちを向いた。

 いやあああああっ!


『聖女、こちらへいらっしゃい』


 リュゼ様がわたしに手を差し伸べる。


「ミリアム、大丈夫だ。恐ろしいだろうが、あれは天使様だ」


 父上が言う。

 いや魔王だよ!?


「無体な真似はなされない。はず」


 はず言うた!?

 はず言うたよね!? 今!


 大司教様が涙を流しながら微笑んでわたしに言う。


「まさに。あそこにいらっしゃるのは星明かりの君ことリュエール・デ・ゼトワール様。あの方のそばほど安全な場所はないと、神のお言葉にもある。なんの心配もない。はず」


 お前もか、大司教!!


『何をしているのです、こちらへ、聖女』


 リュゼ様の声が若干不機嫌になる。


「はいただいま!」


 喜んでーー!! と、わたしは挙手をして走った。

 生2つ、とかの注文だと嬉しいんだけどなーーー!!








 そしてリュゼ様は、わたしを猫の子のように襟首を掴んで持ち上げ、ユニコーン達の前に突き出して見せた。

 いや苦しくないよ?

 リュゼ様が苦しくないようふよふよ浮かせてくださってるからね、全然苦しくないの。ほんとよ?


『見なさい、ユニコーンども。これが聖女というものです』


 にゃあーって鳴いてやろうか。にゃあーって。


「どうもはじめまして、聖女です」


 真面目な顔でわたしがそう言うと、ユニコーン達は血まみれで傷だらけの、今にも消えてなくなりそうな体を起こそうと必死になった。


『聖女!』


『聖女だ!』


『圧倒的な魂の輝き! 真なる大聖女!』


 はいそうですわたしがシン・セイジョです。

 踊るべきかな?

 それとも口からビーム?


『今まで愚かなお前達は真の聖女と聖なる血を継ぐ人族の違いも分からず、ただ聖なる血を持つというだけで聖女と崇めてきました。笑止!!』


 1番体の大きなユニコーンが崩れ落ちた。

 ぼろぼろの体を地に伏せて号泣している。


 他のユニコーン達もわんわん泣き出した。


 もうやめたげて。

 わたしも泣きそうだからやめたげて。


『そんな愚かなお前達を、我が聖女は救ってやろうと仰せです』


『なんと……!』


『さあ、聖女に服従を誓いなさい。けして裏切らないという魂の契約を!!』


 ひいいいいいいっ!!!


 何それ、何それリュゼ様!!

 なんかヤバいヤツちゃうんですかそれ!!


『契約だ!』


『我らが聖女に魂の契約を!!』


『聖女様万歳! 最高神様万歳! リュゼ様万々歳!!』


 リュゼ様はユニコーン達の前でわたしを高く掲げた。


 もーーどーーにでもなれーーーー。



 ぶらぶら揺れるわたしはきっと、死んだような目をしているに違いない。

 だがそれは、遠く離れた背後からその様子を眺める者の目には美しく輝いて見えたようだ。


 なぜなら、後日『大聖女の契約』とか『ミュートウの奇跡』とかに代表されるタイトルで、絵画や舞台が創作される事となったからだ。


 あれだ、ほんとはみんな、状況知ってて面白がってやってるんじゃないかな。

 そう思うくらいには全く違うものに出来上がっていた。


 聖女からして17、8くらいの超絶美少女に仕上がってたからね。

 目の色が青って辺り、どこかからの何かの意図を感じるよ。





 その後、ユニコーン達の聖女コールにいつしか騎士達の声まで重なって、わたしはもうとにかく早く帰りたかった。



『せ・い・じょ! せ・い・じょ!』


「せ・い・じょ! せ・い・じょ!」



 うっさいんじゃボケェ!!!!














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ