現場からミリアムがお送りします
皆様こんにちは!
現在わたくしミュートウ領にほど近い丘の上におります。
ここには今、帝国と教会の合同ミュートウ子爵討伐軍の作戦指令本部があり、そこで父と兄その2に両側を挟まれ肩身の狭い思いをしている最中。
あと兄その3は我が家の騎士団を率いて最前線で待機中です。
さてしばらく前、皇帝陛下よりミュートウ子爵呼び出しのうえ、爵位剥奪と領地没収の御沙汰が下りました。
子爵はその場で領内を乱した罪で捕えられましたが、もちろんそれでおさまるはずもありません。
だって領地にはユニコーンと聖女様が控えてますからね。
戦って勝てなくとも少なくないダメージは与えられるし、上手くいけば痛み分けで話し合いに持ち込めるかもしれない。
となればやるしかないわけですよ。
領地の人間も結構な数罪に問われますからね。
言うまでもないわけですが、理由は教会で天使様からご神託があったからでございまして。
わたくしミリアムまだ5才が主犯として聖女に祭り上げられ、こんなところまで出張ってくる羽目になったわけでございます。
現場からは以上です。
いやマジ勘弁して。
あの日、教会でリュゼ様が突然ご降臨されたと思ったら、『聖女よ、そなたに力を授けましょう』ときたもんだ。
しかも、なんか新しいスキルでもくれんのかと思ったら特に何もなかった。
まあ『天使召喚』とかいろいろヤバいのもらってるからね。
それで十分でしょって言われたら確かにそうなんだけど、もうちょっと穏やかなスキルが欲しいのです。
そんでもって、授けた力でミュートウ子爵を討伐せよ、と。
どうやら子爵、民が崇める天使の子孫である聖女の血を絶やして、子爵家で聖女任命の権利を持とうとしたらしい。
子孫の男子が最後の1人になったのは不幸な偶然でもなんでもなかったってヤツだね。
あと、自領だけでなく近隣の領地からも見目麗しい少女や幼子をかき集めては、聖霊殿なる宗教施設に聖女見習いやら下働きやらで送り込んでいたんだとか。
聖女は一生宗教施設に閉じ込める。
もちろん子供なんて絶対産ませない。
その他の女達は美しく成長したら『外へ出るためには処女を失う必要がある』とかなんとか言って好き勝手やってたようだ。
しかもそこまで言いなりになっても、無事に家に戻れるとは限らない。
見た目が良ければ孤児も引き取っているわけだけど、成長したその後の扱いがあんまりすぎる。
これらの身勝手なやり様に、神が怒り心頭、神託を降ろしたというのが筋書きだ。
……わたしは言われるまま、『仰せのとおりにーー』とリュゼ様に祈りを捧げた。
間違っても、神がユニコーンだけはなんとか助けようとしたとか、ユニコーンを殺すなら領民ごとミュートウを始末すると言ったとか、そんな事は口にしない。
操り人形ミリアムとはわたしの事。
ミナノモノ、シンテキヲメッスルノダーー、と言って帰ってくるまでがわたしの仕事なのだ。
いやあもう帝国の騎士団も公爵家の騎士団も教会の騎士団も、みんな久しぶりの神託とあって張り切る張り切る。
ミュートウ領の騎士団を質も量も圧倒していて、戦う前からどことなく戦勝ムードだった。
なにしろ今回、天使が降臨している。
正義は我にあり、だ。
うちの家族は父を筆頭に、わたしを戦場に連れてくる事にそれはそれは反対した。
身分社会何するものぞ、という感じだ。
平民なら処されて終わりだが、地位も権力もお金もあるのでやりたい放題だ。
貴族なんていうのはミュートウ子爵のとこも我が家も、どこも似たようなもんである。
だがそこはご神託という事で教会さんが頑張った。
わたしも大体何をやらされるかは想像がついていたので、父と兄達になんとか頼み込んだ。
聖女(笑)だからね。一応ね。
で、ひとあたりやってみたところで、むこうはあっさり崩れて退いていった。
そしてやってきたわけです、ヤツらが。ユニコーンが。
ほんと、なんで出てきちゃうかなあ。
大人しくして聖女引き渡せば済む話なのに。
ユニコーンはとても美しい生き物だった。
あの美しい生き物を殺してしまうのは確かに気が咎める。
こちら側の作戦本部と騎士達に緊張が走った。
ミュートウ子爵がこれまで好き勝手できたのは、ユニコーンの守護があったからだ。
一頭で一軍を相手にできる強さを持つ精霊が、何十頭と群れを作ってミュートウを守っている。
だからこれまで誰もミュートウに手出しができなかった。
作戦本部内にいる人々の目がわたしに向けられる。
分かっているよ。
わたしの出番だね。
わたしは覚悟を決めた。
いくらリュゼ様でも、何十頭もいるユニコーンと戦ったりはしないだろう。
まずは話し合いから始めるはずだ。
神もユニコーンを滅ぼさないように手配してたわけだし。
行け、わたし!
わたしは丘の上で高々と手を掲げ、宣言した。
「『天使召喚』!」
戦場を見下ろす広大な空がまばゆいばかりの光を放った。
そして光がおさまったとき、そこにいたのは。
「「「「「おおおおおおおおっっっ!!!!」」」」
騎士達の歓声が響く。
貴族も神官も、ひざまずいて涙を流しながら祈りを捧げた。
白いおひげの大司教様が震える声で言った。
「リュエール・デ・ゼトワール様とその配下の天使団様……!!」
100人くらいいそうな天使がみな、思い思いの鎧や兜に身を包み、手にはごっつい武器を持って現れた。
呼んでないのに大量に来たーーーーっ!!
わたしは叫び声を必死で抑えた。
わたしは聖女、わたしは聖女、こんな事はよくある事っ!!
『ものども、かかりなさい!!』
リュゼ様の命令一下、天使達が雄叫びを上げてユニコーン達に襲いかかる。
ひいいいいいいっ!!
天使達のあまりの恐ろしさにわたしは震えた。
逃げてっ!
ユニコーンたち逃げてっ!!
それヤバいヤツだから、フリじゃないから、お願い逃げてえっっ!!!




