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もふもふ案件



「そういえばさ、半年かけても先延ばしにしたかった案件ってなに?」


 神に日本酒を注いでやりながらわたしは聞いた。


「ああ、それがね……。キミの国にミュートウって小さな領地があるの知ってる?」


「確か『精霊の友』とか言われてるとこでしょ? ユニコーンがいる森があって、なんか独特の宗教があるとかいう子爵んとこの」


「そうそう。で、そこの領主がユニコーンと契約してて、戦争とかあると手を貸してもらえるんだよ」


「へえすごいね」


「ただその理由がね、ユニコーンに聖女として大切にされてる女性たちと、彼女たちの住む神殿に仕える女たちを領主が送り込んでいるからなんだ。あ、もちろん全員処女ね」


「なんかろくでもない雰囲気?」


 わたしは手酌で酒を飲む。

 正直、今日の酒が美味ければ、どこぞの子爵の事情なんぞどうでもいい。


「領主はね。でもユニコーンは処女を崇める生き物だから、そこは仕方ないんだよ。周囲が譲歩しないとさ。なのにうちの天使たちときたら、聖女の子孫が絶えるのは良くないとかってユニコーンを領地ごと滅ぼすとか言っちゃってさ」


 それは……周囲が譲歩するべきとこなのかな?

 聖女の子孫が絶えるのはあんまり良くないよね? 普通。


「一定年齢過ぎたら聖女はお役御免とか、変更あったりしないの?」


「それだとさ、若くなきゃ聖女として認めない、みたいなことになっちゃうでしょ? どっかの団体からめっちゃ抗議とかきそうじゃない?」


「まあくるだろうねえ」


「ユニコーンは確かに処女を崇めてるけど、中でも聖女は特別なんだよ。誰でもいいってわけでもないし、年を取ったらダメとかそういうもんでもない」


 なんか微妙にいい事言ってるような気がしないでもない。

 しかし聖女ねえ。


「そのミュートウの聖女ってのはなんなの? あんまり詳しく知らないんだけど」


「あの地方独特の宗教でね、その昔、天使が人を愛して子を生した、その子孫の女性を聖女って呼んでるんだ」


「天使ってまさか」


「リュゼの末妹(まつまい)にあたるかな。天使はみんな家族みたいなものだから」


「え、その子孫が絶えるってどういう事?」


 それめっちゃあかんやつちゃうかな。

 リュゼさん激怒案件とか、そういうやつちゃうかな。

 酒が美味けりゃいいとか言ってる場合じゃ全くない。


「天使の子孫に女の子が生まれると、全員ユニコーンが守る神殿に入れて一生そこで暮らすんだってさ。で、男は放置。けど戦争とか病気とかでどんどん死んでってね。今、神殿の外にいる子孫は最後の1人らしい」


「いや神、なんでそれ放置しちゃうの。リュゼさんなんて言ってんの?」


「リュゼや他の天使もだけど、よその神からも『ミュートウの貴族とユニコーン根切りで』って申請きててさあ」


 領主どころか貴族もなんかやばい事やってるやんけ、それ。

 先延ばしにしたら暗殺されるぞ、神。


 まっ青になったわたしを気にもかけずに神は続ける。


「でもユニコーンは本能に従ってマジメに生きてるだけなんだよ? かわいそくない?」


「いや、まあ、なんていうか……でも決済したんでしょ?」


「うん、突き返した」


 神いいいいいいっっ!!


 自殺する気か神!!


「ちょっとそれヤバいでしょ! リュゼさん来ちゃうんじゃない!?」


「キミほんとリュゼ怖いんだね。大丈夫だよ、きっと理解……」



 ドガシャアアアーーーーンッッ!!!



「来たあーーーーーっ!!」


 わたしは半泣きで神のそばから飛びすさり、ベッドの上に飛び乗って枕で頭をかばった。

 ごめん、神。死ぬなら一人で死んでくれ。



 ベランダの窓ガラスが粉々に割れ、光り輝く羽根を撒き散らしながら天使が部屋に飛び込んでくる。

 いつか見た光景、プレイバック。



 たいそうお怒りのリュゼ様が以前よりも太さのある、めっちゃ攻撃力の上がってる感じの金属の棒をお持ちになり、それを『ぶうん』と振り回した。


 神、逃げられない。


 ぱかっと大口開けた神にクリティカルヒット!!


 ドゴン! という音とともに神は入り口のドアごと吹っ飛んだ。



 ひゅん、と棒をひと振り、リュゼ様がなんの感情もこもっていない目でわたしを見た。

 やべえ、これかなり本気で怒ってらっしゃる。


「ちょっと神と話し合ってきます。あなたはしばらく……そうですね、オーストラリアにでも旅行に行っていてください」


 リュゼ様はそう言ってわたしにぽん、と財布を渡す。


「全部使ってしまって構いませんよ。そうそう、それから」


 リュゼ様はにこりともせずに冷たい目でわたしを見下ろした。


「わたしが与えたスキルを神に話さなかったのは良い選択でした。今後ともこの調子でお願いします」


「ははっ!!」


 わたしは慌ててリュゼ様の足下に膝をつく。

 大変申し訳ないが、神とリュゼ様ならリュゼ様の方が怖い。


 リュゼ様は神を無造作にひっつかむと、ばさり、とその白い輝く翼を広げて飛び立った。


 さらば、神。

 わたしはキミの事を忘れない。


 多分あれだ。

 キミが夜ドSでいられるのは、リュゼ様の宇宙よりも広い愛に満ちたお心のおかげだからな。


 うん、なんていうか、尻は大事にしろ。












 それからわたしはいつのまにか持ってたパスポートとともにオーストラリアの大地へと向かった。


 空港には通訳兼ガイドのNPCがいて、ホテルまで案内してくれた。


 3ヶ月間、あちこち行って楽しく過ごした。

 リュゼ様マジ太っ腹。


 もう今回ずっとこのままでもいいかも、と思っていたが、3ヶ月たったらリュゼ様からお迎えがあった。

 無念。



 神は結局、決定を変えなかったそうだ。

 神、一体ユニコーンの何がそんなにお気に召してお前に命をかけさせるんだ。



 だがそれでも3ヶ月はあまりに短い。

 もっとモメるかと思っていたのだが……その謎はリュゼ様の一言で全て解けた。



「わたしがあなたにあげたスキルは全て非表示になっています。けして神にその内容を告げないこと。いいですね?」



 はい。

 絶対、何があっても告げません。


 ミュートウ子爵とその地に住む貴族たちの余命は、もう秒読みの段階なのは間違いない。

 

 わたしは巻き込まれないよう、リアルに戻ったら教会で天使の皆様に祈りを捧げようと心に決めた。











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