その天使、◯◯につき
「昨日はお見苦しいものをお見せしました」
訪ねてきたクール系カッコ可愛い天使はそう言って、どうぶつのドーナツの詰め合わせを差し出した。
この天使、できる。
わたしはどうぶつのドーナツを受け取り、深々と頭を下げた。
「いえいえとんでもございません。こちらこそ失礼いたしました」
「上司はしばらくこちらへ来る事ができませんので、その辺りについてもご説明させていただきたいのですが」
どうぞどうぞと部屋に上がってもらい、アールグレイを淹れる。
この天使には何か逆らってはいけないものを感じるのだ。
せっかくなのでどうぶつのドーナツをお皿に飾り、一緒に眺める事にする。
もちろん後で食べるのだが、まずはこの可愛さを愛でるべきなのだ。
すると天使はくすりと笑った。
「上司もこのドーナツを眺めたのちに食べるのが好きなのですが、あの方はそれがもう本当に長くて長くて」
ああうん分かるななんか。
どれから食べよう、ああでも可愛い、食べられないとかうっとおしい事をずっと言っていそうだ。
「横から取り上げてさっさと食べると、とてもショックを受けた顔をするのです。それがまた楽しくて」
やべえ、こいつもサドだ。
「わたしがいない時を狙って取り寄せるのですよね。でものんびり見てばかりなので、結局わたしが帰るまで手付かずだったりするんです」
くすくす、と笑う天使。
天使?
「えーーと、あなた様はどういう……そう、名前! お名前はなんと言うのですか?」
「これは申し遅れました。わたしは天使のリュゼ。神の補佐をしています」
リュゼって確かフランス語だと狡猾……。
いやいや、国が違えば言葉も違うもんね!
きっとどこかの異世界では愛とか優しさとかそういう意味があるんだよきっと!
「実は神はここのところ、とある仕事の決断をするのが嫌で逃げ回っておりまして」
「はあ」
あーー、そういう事やりそう、あの神。
「そこで今、『全ての決済を終わらせなければ出られない部屋』に閉じ込めています」
マジか……。
頑張れ、神。
しかしそんなに嫌がる仕事って一体なんだ?
「その間は、わたしがレベルアップとスキルゲットのお手伝いをさせていただく事となりますのでご理解ください」
「あ、はい、了解です」
ていうか今の、わたしに拒否権なかったよね。
「つきましてはこちらのゲームをクリアしていただきたいのですが」
次のゲームの指定まで当たり前のようにしてきました。
でも分かってる。
これ逆らっちゃいけないヤツ。
「かしこまりまして」
へへえ、とありがたく両手でもってそのゲームを受け取り、わたしはおそるおそるそのタイトルを確認した。
果たしてどんなクソゲーか、はたまた地獄の無理ゲーか……。
!!!!
これは……!
神や悪魔を使役する、長く続くシリーズの最新作!
いや、正確には最新作は続編だから、その更に一本前、追加前のオリジナルのやつだ! そう、シンプルに5!
「これをただクリアするだけで結構です。特に面白さは求めません。さくさくレベルアップしていただきたいのでスピード感を大事にしていただきたい」
「マジっすか……」
わたしはこれを一度クリアした事がある。
なので正直、そこまでこだわりはない。
急げと言われたらまあやれる。
「むしろやり込みやこだわりは追加版、または最新作のために残しておいたほうがいいでしょう。神はこのゲームであなたにあげるスキルを、あれもいい、これもいい、いややっぱりこれも捨てがたい、と楽しく悩んでおられたようですから」
「え、そんなやつを先にやっちゃっていいの?」
選べるスキルが減っちゃって泣くんじゃない? 神。
「もちろんです。どうしたらいいのかと嘆く神。その背中でごはんが進みます。それに、神の与えるスキルよりわたしの与えるスキルのほうが絶対お得ですよ?」
「やらせていただきます!!」
やつの考えるスキルなんざろくなもんじゃねえ!
「結構です。わたしがこのゲームであなたに与えるスキルは『天使召喚』。喜びなさい。わたしの能力は事務処理と戦闘に特化しています」
戦闘スキルキターーーーーー!!!
間違いなく最恐スキル! おっと誤字じゃないぞ!
ゲットするしかねえ!!
こうしてわたしは天使リュゼとともに多くのゲームをクリアし、レベルアップし、そして有用なスキルをいくつもゲットした。
スキル『天使召喚』
スキル『フライ』
スキル『武器召喚:デスサイズ』
スキル『従魔召喚:ケルベロス』
スキル『召喚:鉄の処女』
……何も言うな。
分かっている。皆まで言ってはいけない。
ケルベロスは彼女のペットで、鉄の処女は地球のとある道具が意思を持つようになったものだという。つまり付喪神みたいなもの?
彼女の忠実な部下だそうだ。
得意技は……、彼女を召喚する日が来ない事を、わたしは願っている。
神!
早く帰ってきてえ!!(号泣)




