5歳児には無理ゲーです
『帝国に咲く薔薇』。
主人公、フィリア・フェイリィがアスターク公爵邸にやってきたところから物語は始まる。
騎士として仕える辺境伯領がスタンピードで壊滅的な被害を受け、帝都の学院へ娘を通わせる余裕が無くなったフェイリィ家は、末娘のフィリアをアスターク公爵家で働かせる事にした。
アスターク公爵家にはフィリアと同い年の娘がいる。公爵の妹であるミリアム・アスタークだ。
その侍女をちょうど募集していたのだが、これが癇癪持ちのとんでもないワガママ娘で側付きの使用人が長続きしない。
フィリアは初日の顔合わせから、彼女にキツく当たられてここでやって行く自信を無くしていた。
屋敷にはアスターク公爵とミリアムに会いに様々な人物がやってくる。
公爵の友人2人、ミリアムの婚約者候補である親族の男性3人。
このほかに屋敷に一緒に住む執事。
この6人が攻略対象である。
『帝国に咲く薔薇』が異色だったのは、バッドエンドがない点。
6人分のハッピーエンドと友情エンド、それに逆ハーエンド。
普通にやっててクリアできるそれら全部の、13種のエンドとスチルをコンプリート、さらにとある条件をクリアしたら見られる特別エンドがある。
わたしはその14種類を完全制覇した。
で、思ったわけだ。
おいヒロイン、おまえお嬢様の世話どうした(2度目)。
ツッコミどころ満載の乙女ゲーム。
そういうもんだと受け入れる事もできるだろうが、普通乙女ゲームというものはそのあたりもしっかり必要な事をやっているはずなのだ。
お仕事でレベルアップとか、自分磨きでレベルアップ、とか。
いや、もしかしたら時代が変わっていたのだろうか……。
いろいろと思うところはありながらも普通にゲームとしては面白かった。だから頑張った。
いやよく頑張ったと自分でも思う。
おうち時間が長かったからできたことだ。
あとゲームが簡単だった事もあるだろう。
おかげでわたしの記憶にはアスターク公爵家の人間が1人1人不幸になっていくその理由と経緯が入っている。
現在の両親はわたしを可愛がってくれている。
兄は3人いて、次男は現在別の大陸にいて、三男は軍に入隊。
使用人達も含め、わたしの大事な家族だ。
ゲーム中は他人事だったそれら全てが、今のわたしを構成する大切なもの。
お人好しで平和主義な、貴族に向いてない彼らをわたしが守らなければいけないのだ。
「いや待て、魔法チートって5歳児に魔法チートはムリだろ」
「あ、そこ気がついちゃった?」
バチコーーーン、と音がしそうなほどのウインクをかましてきたのは我が神チャラ男様である。
希望としては、胸ぐらを掴んで『てめえこのやろう』と気が済むまで罵ってみたいものだが相手は神だ。
わたしは「あははーー」と笑って冗談のフリで、すねを蹴飛ばしてやった。
「いたい、いたい、すねはダメだよーー」
「5歳児に蹴られたくらいで泣きごと言わないでよ。今無理なら2年後も無理でしょ」
昔読んだ小説には赤ん坊の頃から魔法で俺tueeeとかしてるものもあったが、この世界ではそうはいかない。
魔力が安定して使えるようになるには体も心も成長していなければならない。
中身がアラサーなので心のほうはなんとかなっても、体の成長はまだまだこれからだ。
レベルアップとか言っても限度がある。
「大丈夫! その説明をしに今日は来たわけだから!」
ものすごくいい笑顔でそう言われて、わたしはもう一度やつのすねを思いっきり蹴飛ばしたのだった。