アニメ回
次の日から我々はテレビの前で多くのアニメを見ることに時間を費やした。
素晴らしき哉、人生。
この部屋のテレビは通常放送も見ることができるが、何より素晴らしいのはparadise earthチャンネルという天界資本のチャンネルがあり、なんと各国の人気番組のリクエストを放送してくれるというすんばらしいチャンネルが存在するのだ。
天界万歳。
神界万歳。
我が親愛なる神々万々歳。
わたしはこの事実を知ったとき、近所迷惑にも関わりなく、ベランダで大声で神々の弥栄を叫んだ。
リアルに戻ったら教会に献金して祈りを捧げる予定。
そして早速リクエストを送った。
たくさんたくさん送った。
仕事が忙しかったり学業が忙しかったり、そんなときは気がつくと見たいアニメも見れずに数年経つことがある。
時にはアニメ化している事すら気がつかなかったり。
そんな不幸を、皆さんは味わった事はないだろうか。
もしや、今まさにそんな不幸に陥ってはいないだろうか。
だが安心して欲しい。
神々はそんな我らを見捨ててはいない。
天国には天国がある。それがparadise earthチャンネルだ。
各国の人気番組、そう、日本のアニメやドラマのみならず、中国ドラマからハリウッドドラマ、なんならボリウッドまでオールオッケーだ。
君なら何を最初に見たいだろうか。
どんな作品をリクエストしたいだろうか。
どんなアニメがあったかすら知らない、だと……!?
分かる、分かるぞその悲しさ!!
わたしがひと足先に晴らしておこう!
まず1作目はこれ!
『しろく◯カフェ』! キミに決めた!!
知人がオススメしてくれた作品だが、なんと悪者が1人もいないという楽園のような世界の話なのだ!!
殺伐とした社畜生には確実に必要な1作であったよな……。
まあもう転生しちゃったけどね!!
さて『しろく◯カフェ』だが、放送当日、我が神が数種のプチケーキとマカロン、各種おかずパイにおフランスのワインを数本お持ちになってご降臨あそばされた。
「リクエスト1作目に『しろく◯カフェ』とは趣味がいいね」
気のせいか後光が差しているような。
めちゃくちゃ気合いが入った我が神は、全話見終えたあと「素晴らしかった」と言って去っていった。
次の日の、天界の誰かがリクエストしたらしい、アニメではないアクション映画特集のときは普通にチーズとハウスワインだったが、『オ◯バーロード』と『犬と猫〜』のときはやはり気合の入った手土産を持参してきた。
どうやら神はもふもふが出るアニメを愛しているらしい。
わたしが至高と考えるのは、女の子がいっぱい出てきて楽しそうに会話してるヤツだ。
だが神の趣味もなかなかいい。
神もわたしの趣味を理解してくれたらしく、わたしのリクエストが放送される日にはウィスキーの高いヤツを手土産にしてくれた。
わたし達はアニメを何作品か見終えるごとにカラオケへ行った。
アニメを見たらカラオケ。
オタクの幸せが詰まった約束のルートである。
そんなこんなで数ヶ月が過ぎて、わたしはそろそろゲームしとかなきゃかなあ、と思い始めていた。
その日、わたしと神はかの有名な名犬が出てくる涙なしには見る事ができないアニメを見ていた。
見終わって、号泣。
「もうダメだ、酷すぎる。人間酷すぎる!」
「あり得ない、あり得ないよ人間!!」
「よし、人間滅ぼそう」
「ナイスアイディア、神」
わたし達は泣きながら手をがっしと握り合わせた。酔っていたのだ。
そこへ。
ドガシャアアアーーーーンッッ!!!
ベランダの窓ガラスが粉々に割れ、光り輝く羽根を撒き散らしながら天使が部屋に飛び込んできた。
そして手に持った細長い白い棒を神に思いっきりひと振り!!
「ぐはあっ!!」
神は入り口のドアまで吹っ飛んだ。
黒髪ショートカット、大きな目にキリリとした顔立ちの可愛らしいのにカッコいい天使は、表情ひとつ変えず神の体にその棒をぐりぐりとねじ込む。
「何バカな事言ってんですか。最近やけに定時で帰りたがると思ったらアホな事ばっかりして」
その美しい天使がわたしのほうを見た。
逆らってはいけない。わたしの頭の中で警報が響く。
「あなたは……ああ、そういう事ですか。このアホは連れて帰ります。あなたもいつまでもバカやってないで早く仕事に戻ってくださいよ」
「はい!」
「では失礼」
天使が大きく翼を広げ、気を失った神の服を無造作に掴むとベランダから飛び立って行った。
その後、窓はキレイに元通りになる。
この世界が作り物だと実感した瞬間だった。
頑張れ、神。
わたしはとりあえず、これ以上のリクエストはやめて今日はもう寝ることにしたのだった。
ちなみに、リクエストで選ばれた作品には神々から関係者に幸運値+1のプレゼントがあるという。
ハーーレーールーーヤーー!!!
そろそろどこかから怒られそうな気がする毎日です。by昼咲




