新宿に似合う店
もうアホかというほど長い時間をかけて、わたしはそのゲームをやった。
そして気づいた。
こんだけやっても上がるレベルは1つだけだという事に。
まあそれはしょうがない。
1クリアで1レベル。
それがこの世界のお約束だ。
それに追加コンテンツのイベントクリアも1クリアとして見てくれる事を思えば、けして全てが無駄でははない。
問題はご褒美だ。
今回、ダークファンタジーRPGで手に入れたスキル。
それは、『召喚:ウィルオーウィスプ』だった。
ゲーム中、絶対勝てないとびびって逃げてるときのわたしの逃げっぷりが良かったらしい。
無事ウィルオーウィスプから逃げおおせたあとの『ここどこっ!?』でやつは大笑いしやがった。
暗闇で道に迷わないようにとか言ってたが、普通に考えて公爵令嬢が夜中1人で外出とかしないからな?
万が一出かけても絶対1人じゃないからな?
使いどころが全く思い浮かばないスキルをドヤ顔で与えてくれる、神のイラっとする感じにももう随分と慣れたもんだが、慣れたからといって腹が立たないわけではないのさ。
しかもやつ絶対狙ってやってるからな!?
かえすがえすも口惜しいのは、辺境領でヒロインの鑑定ができなかった事だ。
あのゲームは最低でもレベルが20ちょっとくらいあればクリアできるはずだ。
やり込み派にもストーリーを追う派にも喜ばれる親切設計。
育て方でもいろいろ違うだろうから、本当は機会があればヒロインの状態を確認しておきたかった。
だが熱病で一時は心臓が止まった彼女は、自宅で静かに暮らしているとの事で、直接お宅訪問とかするわけにもいかずに偶然出会う奇跡に頼っていたのだ。
次回こそはと心に誓いつつ、わたしは次のゲームをセットした。
今度は、元極道さんを主人公にした有名シリーズの最新作。
最新と言っても、出たのはわたしが死ぬ少し前だ。
シリーズ全部をやったわけではないし、主人公がそれまでと変わってしまって、しかも「え? マジ?」という主人公とはとても思えない髪型だったため手を出さなかった。
よく考えればアフロが主人公って結構あった気がするけど、それまでの主人公達から考えるとつい手が出なかったのだ。
おまけに舞台が横浜。
いや嫌いじゃないよ? 好きだよ? 横浜。
山手の西洋館とかちょー好きだし、なんなら学生時代は西洋館巡りもしたし。
だけどゾンビであのシリーズにハマったわたしとしては、やはり舞台は新宿であって欲しかったのだ。
それも歌舞伎町。
だがまあせっかくなのでやってみようとアフロに決めた。
結果。
めっちゃ良かった。
アフロ主人公いいね、最高だね!
あの髪型には漢のタマシイが宿ってるんだね!
見れば見るほどカッコイイんだこれが。
わたしは全国、いや、世界中のアフロに謝りたい気分でいっぱいだった。アフロ最高!
どこか見覚えのある懐かしい風景もいい。
あの川の感じなんかもう最高にいい。
街をうろつきながらわたしは胸をときめかせた。
神がそんなわたしに与えてくれたスキル『アフロ』にも、わたしは感動して涙を流し、感謝の言葉を捧げたほどだ。
次のゲームを始めてしばらくしたら冷静になって、またゴミスキルをゲットしてしまった、と悲しみに暮れたりもしたが。
だが、わたしはあのゲームをやり遂げた事を心から誇らしく思っている。
そういえば次回作の噂があったようだが、その後どうなったのだろうか。
次が出たさいにはわたしはここでそのゲームをできるのだろうか。
確か以前、神は『わたしが死ぬまでのゲームは全部』と言っていた気がする。
ていう事はあれだな、レベルだな。
なんかもう最近聞かなくとも分かってきたよ。
どうにかして9割引させてやろう。
ああ、だが。
だが一点だけ。
たった一点だけ、わたしはあのゲームでモヤモヤして仕方がなかった事がある。
それは、主人公が会社経営に乗り出すさいのあのお店だ。
あれは、新宿にあるべき店だ。と、わたしは思う。
それも歌舞伎町にあるべきだ。
店の店主は美貌の人探し屋であるべきだ。
一人称は「僕」と「わたし」を使い分けて欲しい。
さらには美貌の天才医師に愛されていてほしい。
なんで新宿に煎餅屋がなくて横浜にはあるのかなあっ!?
絶対わたしだけじゃないはずだよモヤモヤしたの!
制作サイドも絶対思ってたはず、新宿には何より煎餅屋が似合うって!!
大人の事情!?
大人の事情なの!?
きいいいいいいーーーーっっ!! 大人って、大人って!!
次こそは、なんて言わない。
どこかの誰か、新宿が舞台のモンスターがいっぱい出るゲームをお願い、作って!
すっげえごく一部にしか売れない気がするけど!
……ていうか売れる売れないの前にこれ、確実にRがつくな。
それもエロで。
しかも好みがものすごい分かれるエロだ。
うん、無理だな。やってみたいけど。
女の子が悲しいのは好かんのです。
経済活動の前には全てが平伏す。
そんな悲しい事実を思った夜だった。
……酒でも飲むか……。