最強は誰だ
最近感じることがある。
どうもうちの神は作業的に適当に終わらせるのではなく、しっかりやり込んで、あるいはやり込まなくてもどっぷり浸かって楽しんでゲームをやると、何かの形でご褒美をくれるようだ。
理由はわからん。
だが多分わたしという人間の素晴らしさに、楽しんで生きろと言ってくれているに違いない。
人生をハッピーに過ごせと。
そんな我が神の思いを受けて、わたしは今ネットにどっぷり浸かっている。
24時間常時接続完全無料だ。
これを利用しないでなんの現代人か。
接続先のサイトも無料のものに限って完全開放された。
おかげでわたしは昨日からずっと、寝る間も惜しんでネット小説を読んでいる。
「そろそろ寝たら? それで起きたらレベル上げしなよ」
呆れたように神が言う。
「もうちょっと、もうちょっとだけ」
「しょうがないなあ。ほんとほどほどにしときなよ」
そう言って神はどこかへ消えた。
きっと神界にあるおうちに帰ったのだろう。
まあ確かにずっとパソコン見てる人間見ててもつまんないよね。
でもあとちょっと、あとちょっとだけ、もう少しで更新に追いつくとこなの!!
長編を読み、更新に追いついて満足したわたしはそれからぐっすり寝た。
起きたらなんか頭が重くてスッキリしないのでシャワーを浴びる。
シャワーの後はやはりビール!!
わたしは百恵ちゃんの『イミテイション・ゴールド』を歌いながらゲーム機の前に座った。
ん?
なんでそんな古い歌知ってるのかって?
親戚がね、好きだったのよ百恵ちゃん。
昔カラオケでよく歌っててねー、覚えちゃったよ。
カシュッ、ごくごくごく、ぷはあっ。
「くう〜〜〜〜っ、この瞬間のために生きてるぅ!!」
そしてわたしは用意しておいたソフトを立ち上げた。
バグの多さには定評のある、ダークな世界観がウリのオープンワールドファンタジーRPG。
わたしに地図を埋める楽しさを教えてくれた愛する一本だ。
あの山の天辺から見える世界はどうなっているのだろう。
この森の向こうには何があるのだろう。
人の気配のない川辺に立つ、古びた壊れかけの小屋には一体誰が住むのか。
村ひとつない地域にある、小さな池の周りに群生する見たこともない花。
ストーリーとなんの関わりもない、どころか存在する意味さえないその風景。
めっちゃ想像をかき立てられる。
もしかしたらすっごい伝説が隠されているかもしれないし、制作者の頭の中ではすっげえ展開があるかもしれない。
分かる。分かるぞ制作者。
お前はわたしにこれらで妄想を爆発させろと言っているのだな。
受けよう! その挑戦!
わたしはゲームをスタートさせた。
前やったときはそらもう楽しかった。
だがやはり時間が足りなかった。
クリアしないうちにまたも休みが終わってしまったのだ。
本編となんの関係もないゲーム内の書物を探して読み漁っていたせいだろう。
またあれが意味わからんくらい長くてそのうえ文字がちっちゃくて読みづらいんだ!
しかも読んだところでなんの得もなかった気がする、確か。
だが制作者が愛を込めて作り上げたその意味のなさをわたしも愛している。
というわけで今回もまた意味のない追及をする予定。
ちょうど酒とつまみを持ってやってきた神が覗き込んで楽しげに言った。
「お、やってるね。頑張って、これお土産」
「さすが我が神。ビール飲む?」
「いいよいいよ、勝手にやってるから。ポテチとポップコーンとどっちがいい?」
映画でも見るかのようなセリフで、神は冷蔵庫の中からビールを取り出した。
「ポテチ」
「塩? コンソメ? ガーリックなんてのもあるよ」
「うーーん、コンソメ」
答えつつ、わたしは慎重にゲームを進める。
忘れちゃいないぞ、頻繁にバグってフリーズした事。
あとレベルが低いうちはうかつな場所でジャンプするとほんのちょっとの高さですぐ死ぬとか。
道端にいた馬に「なんでこんなとこに?」って近づいたらあっさり殺される序盤の馬最強伝説とか。
気配消したままNPCに近づいて話しかけようとしてスリを働いたことになり追いかけ回されたりとか。
準備万端で敵の根城に討伐に行こうとしたら、うっかり岩の間に落っこちて出られなくなり、泣く泣くやり直したらセーブしたのが遥か前だったとか。
……なんだろう、すごく腹が立ってきた。
ともかく合言葉はセーブ、セーブ、セーブ!
それさえやっときゃなんとかなる。
街に入ってわたしは早速、店や宿を物色してまわり、人々に話を聞いて回った。
と。
しまったボタン間違えた!
違う、泥棒じゃない、泥棒じゃないから!
やめておばちゃん攻撃しないで!
あ、死んだ。
一般人に殺される主人公。
店のおばちゃん、マジ最強。
わたしの背後では酔っ払った神がゲラゲラ笑っていた。
くっそ、酒だ酒だ、酒持ってこおーーーい!!