返せーーー!
静かになった。
すげえ、生きてる。
神の手作りマジぱねえ。
わたしはゆっくりと息を吐いた。
手が小さく震えている。
わたしは気持ちを落ち着けてクッションを全て消した。
「い、生きてる……?」
「今のは一体……。ミリィちゃん、今なんだか柔らかくてキレイな色の何かがなかった?」
「きっと神の御技ですわ、お義姉様」
「そう……そうね、きっと」
アイラが震えながら馬車の扉を開ける。
誰もいないのを確認して、わたしとお義姉様を外に出した。
馬車が高い崖の下で横転してあちこち壊れ、その半分は穏やかな川の流れに浸かっている。
ゲームで何度も見た光景がそこにあった。
義姉の遺体は馬車の中にあったが、わたしの姿はなかった。
捜索時はちょうど嵐で、川は増水していて、わたしは流されたのではないかと下流も含めて探された。
じっさいには隣国のサウザンに連れて行かれ、奴隷として売られていたわけだが。
乗り切った。
だが甘かった。
まだ震えているわたしを、同じように震える義姉が抱きしめる。
「無事で良かった。もう大丈夫、大丈夫よ。ああ神様、ありがとうございます」
そこへ離れたところから声がした。
「お前ら、なんで生きてるんだ?」
アイラがわたしの前に立って男の視線を遮る。
義姉はわたしを抱き込んで少しでも隠そうとした。
わたしはと言えば。
その声を聞いた瞬間、頭の中がすっきりして冷静になれた。
わざわざあっちから来てくれた。
殺さない。必要だから殺さないけどね、でも9割ぐらいは殺す。
わたしはにんまりと笑みを浮かべ、義姉様の腕をそっとはずした。そしてアイラの前へ出る。
「いけません!」
「大丈夫よ。むしろわたしの方が適任だから、これ」
「ミリィちゃん、ダメ!」
「平気ですよ、お義姉様。あとでご褒美にいっぱいぎゅってしてくださいね」
わたしは笑って、自信たっぷりでスキルを発動させる。
「『召喚・TADAKATU』!」
途端、世界が真っ白になった。
全ての音が消えて、魔術師もお義姉様もアイラも、馬車も川も崖も、何もかもが消えてなくなった。あれ?
「はいストーーップ」
その白い世界に突然神が現れた。
「我が親愛なる神! どういう事!?」
彼はついさっき『我が親愛なる神』にランクアップした。
だが見た目はどこも変わらない。
「その召喚ストップ。一度あげたスキルだけど他のものに変更させていただきます」
「何!? どういう事!?」
「君さあ、今なに召喚しようとした?」
仏頂面で神が言う。
「TADAKATU」
「武将の本多忠勝だよね。で、頭に浮かんでるのはどんな見た目?」
「ロボ」
そういうゲームでもらったからな。他のでくれるって言っても断るし。彼はロボ一択だ。マジ最強。
「怒られるからやめてください。普通の見た目でお願いします」
「はあっ!? 絶対やだ!!」
「そう言うと思ったので強制的に他のに変更させていただきます。変更スキルは『なんかトンってするやつ』です。自分で頑張ってください」
「おまえ6才目前の幼女に何言ってんの!? 相手魔術師だからね!? 間合い入れないからね!?」
普段なら憧れの技術だろうが今はムリだ。
あの男の間合いに入って上手く気絶させるとかできる気がしない。
というかできてもやらん。9割殺す! 絶対だ!!
「はいはーーい、アレはサヴァがいるから大丈夫でしょ。じゃあ頑張って、またねーー」
すっごいどうでもよさそうな響きの声で神は消えていった。
ちくしょうてめえ、戻って来い!!
そして世界は崖下に戻る。
さらさら流れる平和な川の音がうらめしい。
「あーー、あのさ、ちょっと一回待たない?」
一応言ってみたわたしに、魔術師は「ああん?」と声を上げる。
うんそうだよねー、そういう反応するよねー、でもさ、わたしも今ちょっと疲れてるんだ。
少しは気をつかってくれないかな。
「何言ってんだ、このクソガキ。お前らはこれから死ぬんだよ。まあ言っても生かしておくなって話なのは後ろの女だけだからな。お前とそこの使用人は大人しくするんなら連れて帰ってもいい。命が惜しかったらワガママ言うなよ?」
そう言って魔術師はニタニタ笑う。
あーー、ないわーー、マジない。うっかり殺しそうだわこいつ。
いやもう殺しちゃってもいいんじゃないかな。
わたしの中の最強戦闘スキルはTADAKATU だった。
石化の邪眼は封印中。
ステルスで近寄ってトン、で気絶させてボコボコにするか。
いやいっそ軍用戦闘機で穴だらけに……。
「ワン!!」
サヴァが崖の上から魔術師に飛びかかった。
うっそ!!
あの高さを跳ぶとかすごいね! さすがサヴァ!!
「うわっ!? な、なん……!」
「グルアアアアアアッ!!」
サヴァが男を前足で押さえて吠える。モンスターかな?
すると男はあっさり気絶した。
……うん、わたしの手札の中で1番使えて1番強いのはサヴァだった。
お利口さん、サヴァ!!