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神スキルとは

 兄様と義姉様が新婚旅行から帰ってきた。


 特に危険な事などはなかったらしく、お土産もたくさん、2人ともにこにこご機嫌であった。


 レゾくんからは手紙が何通か届いているらしいが、わたしには見せてもらっていない。

 元暗殺組織の使用人が何人か、辺境に残っているらしいが、それも情報は入ってこない。


 だがまあこんだけやっとけばトラブルもそうそう起きんだろうと、わたしは結構のんきに構えていた。


 事故が起きるのはまだ先、わたしが7才になってからだ。

 だからまだまだ先だと、そう思っていたのだ。








 そして現在。


 わたくし6才の誕生日を3日後に迎え。

 馬車の中でお義姉様とアイラと3人で抱き合っております。



 なぜか。



 賊に馬車ごと誘拐されているからでございますね! どういうわけか!!




 






 今日はわたしの誕生日のお祝いという事で、お城に呼ばれて皇妃様とお茶を飲む事になっていた。

 お義姉様のお祖母様にあたるお方だな。


 誕生日当日は帝都のアスターク邸でパーティを開く。


 しかしそこへ皇家の人間が訪ねて行くわけにはいかないから、と、わざわざ時間を作って招いてくださったのだ。


 めんどくさい?

 いやいや全然思ってないよ?


 この国のトップの奥様だからね、何を言われても何を命令されても『へへえ』とありがたくひれ伏してお聞かせいただきますともマジで。


 で、馬車で向かったわけですお城に。



 そうしたらあなた、馬車が途中で一度止まったわけですよ。

 そしてまたすぐに動き出したけど、何か変だな、という気配がした。


 それでカーテンをほんの少しだけ開けてじっと馬車の外を見ていたら、貴族街を出て街の中を走り出した。


 護衛は着いてきていない。


 どういう訳か今この馬車は1台のみで、護衛もなしに街の中を走っている。

 そして再び停車した、と思ったらどうやら帝都を出ようとしているらしい。


 公爵家の馬車が護衛もつけずに帝都から出ようとしたら止められるはず。


 と思いきや、何の問題もなく門を通過しそうだ。

 御者台からは和やかな笑い声が聞こえる。知らない声だ。


『家族で行商かい? お嬢ちゃんお手伝い偉いな』


『すまないね、妹は人見知りでさ』


『ははは、知らない人間にすぐに懐くよりはずっといいさ。よし、これで問題なし。通っていいぞ』


『どうも』


 行商?

 どういう事だろう。門兵にはこの馬車が商人の馬車に見えているのだろうか?

 魔法で? そんな強力な術者がこの誘拐に関わっているのは一体なぜ?


 それに妹というのは……確か御者にはわたしと同じくらいの娘がいたはず。

 人質か?


 考えていると足元のサヴァが濡れた鼻をわたしの手にすり寄せてきた。


 うん、大丈夫。サヴァがいればなんとかなるだろう。


 わたしはサヴァを撫でて気持ちを落ち着けた。

 さすがに何かがおかしいと気づいた義姉様とアイラも顔色が悪い。

 それでもわたしを守るように両側からぎゅっと抱きしめてくれた。


 ……うん、いい人たちだ。絶対悲しい目にあわせたりはしない。








 しばらくして帝都から十分に離れた辺りで馬車はスピードを上げて走り出した。

 

 どこへ行くつもりなのだろう。


『キリ』


 わたしはずっと召喚したままのキリを呼ぶ。

 可愛かったからね。見た目がね。中身はまあ置いといていいかなって。


『呼んだ?』


 最近お仕事がなくて寝てばかりのキリがあくび混じりに返事をした。


『御者台の誰かに取り憑いて何をしようとしてるのか分かったら教えて』


『アイアーーイ』


 数分後、キリがわたしにしか見えない状態で御者台から顔だけをのぞかせる。


『ダメだこれ、3人人間がいるけど、うち2人はアイテムか何かで意思を奪われてる。1人は強力な魔術師で耐性が高い。取り憑いても何もできそうにないよ』


 マジか。せめて馬車が止まれば……。


『でも何をしようとしてるかは分かった。街道をそれて山道に入って、崖から馬車を落とすつもり。御者の犯行にして、自分は逃げる予定だね』


 ああ。


 時間軸が早まっただけで、義姉様をここで死なせる計画なのか。

 そしてもし息があれば、わたしとアイラは連れて行かれて奴隷になる。

 前と変わらない。

 いや、御者の娘まで巻き込んだわけだから、さらに悪くなった。


『アイテムで意思を奪われている2人を、助ける事はできる?』


『1人なら』


 上出来。


 わたしは足元のサヴァに話しかけた。


「サヴァ、今の聞こえてた?」


 わふ、とサヴァがわたしを見つめる。うん、多分いける。


「外に出て、キリと一緒に御者と娘を助けてくれる?」


 サヴァは無言で立ち上がる。

 よし。

 あとはわたし達だ。


『崖が近いよ。魔術師が御者台から飛び降りた』


 キリがタイミングを教えてくれる。


「行って!」


 サヴァが馬車の扉を開けて飛び出して行った。

 

 だが暴走する馬車はものすごい速さで、とてもわたし達3人のほうは飛び出せそうにない。


 ヤバい。舐めてた。


「お、お嬢様、わたし達も……」


「いいえ、いけません。この速度では無事ではすまないわ」


 お義姉様の言う通り。

 そのときわたしは閃いた。


 マジか。これこのためか。


 キリもそうだが、どこまで見通してんだ神。やはり神の名は伊達じゃないって事か。


 わたしは2人の間から抜け出すと、お義姉様の日傘を使って扉を閉めた。

 手は届かないが力は成人男性以上だからね!


「2人とも目を閉じて、しっかりわたしにつかまって!!」


 一瞬の浮遊感。

 そして。


「『スキル・ぷ◯ぷ◯クッション』!!」


 落下の瞬間、馬車の車内はカラフルでキュートな柔らかクッションで埋め尽くされた。

 神の付与したスキル効果で弾力性は抜群だ。


 確かスキルをもらったとき、衝撃吸収力はエアバック並みとか言ってた気がする。『なにしろ神の手作りだからね!』とかなんとか。



 神、マジ最高。



 馬車が地面に叩きつけられて壊れる音を聞きながら、わたしは本気でそう思った。











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