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責任者

「こんばんはーー。責任者だけど呼んだ〜?」


 その夜、わたしの夢の中に脳天気な言葉とともに登場したのは自称この世界の神だ。


 前世の地球でわたしが死んだ際、来世に持ち越された多くの功徳の使い道を選ばせてやると豪語したチャラい兄ちゃんである。


「説明して」


「えーー、なんで怒ってるの? 俺なんかした?」


「ふざけんじゃないわよ、分かってんでしょう? ちゃんと全部、きっちり説明して!」


 キレるわたしを前にケラケラ笑うチャラ男。あぐらをかいてふわふわその辺を飛んでいる。

 絶対コレわざとだよ。

 わたしがしばし無言で睨んでいると、彼はわたしの前でピタリと止まり、こちらの瞳をじっと覗き込んだ。


「まあそんな怒んないでよ」


「じゃあちゃんと説明して。それで責任者なんだから責任取って」


「もう怖いなあ」


 再びケラケラ笑って、彼はわたしの目の前にあぐらで着地する。

 やる気なさそうで適当そうで、こんなヤツが責任者とか、指名したやつマジ誰だよ!


「じゃあちゃんと説明するね。まず何から訊きたい?」


「……ここって、前にプレイした乙女ゲームの世界なんじゃないかと思うんだけど」


「うん、その通り。『帝国に咲く薔薇』だっけ、あれさ、僕たちのほうで情報流して作らせたものなんだよね。このまま行くとどうなるかっていう予言みたいなものかな」


「予言って、なんでよその世界でやんのよ」


 腕組みしたわたしの前で、へらへらしながらやつは言う。


「人間の事は人間で、がルールだからね。それにどう利用されるか分からない予言をそのまま下ろすより、転生者に知識として与えるほうが正しく使ってくれるんだよ」


 わたしは腕組みしたままちょっと考えてみた。

 うーーん、と目を閉じてしばらく。


 確かにそうかも、という結論が出て目を開ける。


「なんか納得したかも」


「ありがと。で、次は?」


「予言って事はほっとくとあの通りになるって事よね?」


「そうだね。お義姉さんは妊娠中に死んで、君は行方不明になる。見つかったときは奴隷として働かされていて、それで人間不信になり、ろくな教育も受けられなかったため、貴族令嬢としては使い物にならなくなる」


「さいっあく」


 わたしが額に手を当てると、やつはまたもケラケラ笑った。

 笑ってる場合じゃないからな!


「あんた、わたしに来世のための功徳があるって言ったのどうしたのよ。立派に生きた君にはご褒美がたくさん用意されているとかなんとか。あれどうしたの。なんで主人公じゃなくてミリアムに生まれてんのよ」


「主人公ねーー、あれねーー、僕らの敵なんだよね。勢力的に」


「は?」


「あの子が生まれるから僕らは君を招いた。はっきり言えば彼女を潰してもらいたい」


「あんた神がなんて事言うのよ」


「まあ地上の事は人間の管轄だからさ、人間同士でやってもらうしかないんだよね。代理戦争みたいなもんかな」


 ケタケタ笑って手を軽く振る。

 あたしはこれで、こいつが神なんだと確信が持てた気がした。


 神には神の世界がある。

 そしてここは人の世界だ。


「なんで戦争なんかしてんのよ。ひ、光とか闇とかってヤツ?」


 言ってて恥ずかしい、と思いながら訊いてみたが、やつはそれにも手を振った。いらないものを放り捨てるかのような動きで、ニコニコと。


「違う違う。光はこの世界の争いとは関わりがないよ。ここは中立だ。僕も中立」


「中立?」


「そう。光と闇が対極にあって、その両方のいいとこ取りができるのが中立。ちなみに人間はそのどれでもない」


「ええと、中立なら何と戦ってるの?」


「今回は闇。光は基本平和主義だからね。誰かのものと決まったものに手は出さない。闇は自らの利益を最優先にする。だから人のものでも取ったもの勝ち」


「クソね」


「クソなんだよ。この世界は中立でやってくって決まってるんだけど、それをどうにかして今のまま、自分達がコントロールしやすいままにしておきたいんだ。あれこれ仕掛けてくるんで困ってるんだよ」


 しばらく考えて、わたしは1つの結論にたどりついた。


「仕掛けてくるって、人間を使ってって事ね? だからあなた達は直接手が出せない。それであたしが必要になった」


exactly(そういうこと)


 ドヤ顔の英語で、しかも両手を銃の形でビシッと返されて、わたしはイラっときた。


「あ、今、僕の事もクソって思った? ダメだよーー、一応神だから、これでも」


 わたしはその言葉を無視して質問する。


「ねえ、わたしの来世の利益は?」


「使ったじゃん」


「なんに。ミリアム(この子)の運命でどういう利益があるっていうの!」


「チートいっぱいつけたでしょ」


 つけた。

 確かにつけた。

 金持ちの権力者の家に、健康で美人で賢い子に生まれたいって言った。

 でもそれはミリアム・アスタークの基本初期装備(当たり前)だ。

 奴隷生活で心が壊れて不幸の中で死んでいく運命が一緒についてくるなら全部帳消し、無いも同然である。


 しかしここでクソ神は初めて神らしい顔で笑みを浮かべた。


「君、魔法チートで最強なんだよ?」


 それも確かにつけている。


 異世界に転生してくれるなら強力な魔法が使えるようにしてあげる、と言われて二つ返事でオッケーした。

 それを使えという事か。


 わたしは本当に頭が痛くなってきた。


「あんた確かに神だよ。平和主義()じゃないのも間違いない」


 ニヤニヤしながらやつは恭しく礼をした。

 本当に嫌なやつだ。









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