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 わたしはサヴァの背中を撫でながら、うつろな目をして顔色の悪いレゾをじっと見つめた。


 彼は今、わたしの護衛をしている。


 わたしがレゾを気に入ったという事にして、辺境伯領にいる間は護衛を担当してもらう事になったのだ。


 もちろん彼はとても嫌がった。

 おまえこの世界は身分社会だって知ってるか?

 というレベルのあり得ない嫌がりようだった。


 多分、自分の力でのし上がってきたので、身分などどうにでもなるぐらいの考えでいるのだろう。

 非常に頭が悪い。


 日本のように、身分などない事が建前の社会でも、その血筋や地位、そして金の有るか無しかではっきりと社会的な身分が変わる。


 能力でのし上がったとしても、さらに上の身分が存在してそこから引き上げてもらった事を忘れてはならないのだ。


 だがまあ所詮はよそ様の井戸で威張りくさる(かわず)


 うちに被害がなければどこでどれだけバカをやろうと気にならない。

 だがこいつは放っておけばわたしと義姉に害をなすのだ。



 それを知った兄ちゃん、3番目の兄は彼を徹底的にボコボコにした。

 そして己を疑うようになった彼を今、わたしの召喚獣、化け猫のキリが精神的に追い詰めている。


 お前など塵芥、大勢いるうちの役にも立たない名も無きゴミなのだと。


 兄と姉の仲睦まじい様子もわたしの記憶から引っ張り出して見せつけているらしい。


 そこだけはほんとすまん。

 アレを日常的に見ていたわたしだから分かるよ。

 ほんと拷問だよな、アレ。わたしも何度砂を吐いたか分からないよ。砂だと思ってたら激甘粉砂糖だったし。


 時折、膝をついてうずくまり、号泣する彼にキリが何を言っているかは知らない。

 知らん方がいいやつだからな、多分。


 そうこうしてるうちにレゾくんはまたがっくりと膝をついた。


「おおお、俺は、俺は〜〜〜〜〜!」


 うん、泣くといいよ。いっぱい泣くといい。

 涙でしか癒せないものってあるもんさ。

 ていうかキリ、死なない程度に、死なない程度にね!



 あんまりにも哀れなので、彼には頑張って生きてもらおうと思います。

 そのうちいい事あるさ、いつか素敵な彼女を紹介してやるからな!


「あの〜、お嬢様」


 アイラが不審そうにこっそりと耳打ちしてきた。


「あの人、大丈夫なんですか? 他の人に変えてもらったほうがいいんじゃ……」


「いいの、いいのよ、アイラ。人って哀しい生き物なの」


「はあ……」


 納得いってない感じのアイラの目がレゾくんに疑わしげに向けられる。


「うおおおおおおお!」


 うん、そろそろうるさいかな。









 数日後、キリによって真人間に更生した(洗脳された)レゾくんはわたしの足元に跪いていた。


「この数日、お嬢様には大変な醜態をお見せいたしました」


「いいのよいいのよー、同じお義姉様大好き仲間じゃないの。仲良くやっていきましょー」


「はっ……申し訳なく……」


 ていうかお前、そんな丁寧な物言いできたのか。

 そうするとアレはわざとか? ああん?


「こちらではお兄様の悪い噂が流れているようですし、お義姉様を思う気持ちからいろんな事を考えてしまうのも分かるわ」


 わたしは言いながらサヴァを撫でる。

 今怒るところじゃないからね。落ち着け落ち着けわたし。サヴァを撫でて冷静になれ。

 ああもふもふ心地ええ。


「あなたも聞いていたのでしょう?」


「はっ、大変申し訳ないと……」


「いいの、いいのよそんな事。でもこれからは違うわね?」


「もちろんです!」


「じゃあ、もしもお義姉様や我が公爵家に害をなそうとする者らがいたら教えてくれる?」


「必ず!」


「それがあなたの親しい者や身内同然の者であっても?」


「エルリシア様と公爵家の皆様方のためならば!」


「結構」


 わたしはにこりと笑うとレゾに便箋の束を渡した。


「文字は書けるわね? もし何かあればこの便箋に書いて帝都のアスターク公爵家宛に送ってちょうだい。必ずわたしの元へ届くから」


「はっ!」


「きっとお義姉様もあなたのような騎士がいる事を誇りに思ってくださるわ」


「恐れ入ります!」


「ほほほほほ!」


 わたしは満足して声を上げて笑った。

 今までで1番上手くいったんでない!? これ!









 その日の夕食後。


 辺境伯と葉巻を吸いに向かう途中だった兄のトロィエが「そういえば」と振り向いてわたしに言った。


「あのレゾくんからの手紙、僕の手元に届くようになったから。よろしくね、ミリア」


「はああああああっ!?」


 ガッデム!!!









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