哀れな。
恥ずかしい話だが、わたしはモン◯ンをやった事がなかった。
面白そうだなー、と思いつつ、ほかにやりたいゲームがあったのでそっちを優先していたのだ。
それに最後の方、10年くらい社畜だったしな。
なので、匣の中でたっぷりゲームができるようになって、思い切って手をつけてみたのだ。
ワクワクしながらゲームを立ち上げ、はいスタート!!
おっきい画面いっぱいに広がる美しい自然。
そしてそこに生きるモンスターたち。
ああ地図を埋めてえ!
隅から隅まで、この大地の全てをマップにしてえ!!
だがまずはゲームの操作を覚えねば。
なになに最初は肉を取ってこいと。
草食モンスターを倒してお肉をゲットするのね。オッケーオッケー。
いよいよアレができるのね。夢の『美味しく焼けましたー!』が!!
ヒャッホーー!
数分後。
わたしは泣きながら剣を振るっていた。
「ごめん、ごめんよお、痛いよね、ごめんよお」
手元のコントローラーにぶるん、ぶるんと震えが来る。
攻撃が『当たった』その感覚が胸に痛い。
血が飛び散る。
モンスターは身を守る事もせず、悲しげな悲鳴とともに傷ついていき、そして絶命した。
「ごめんよおおおおお!!!」
恐るべしモンスター◯◯ター。
わたしのライフももうゼロよ……。
まさか戦わないモンスターがいるとは思わないやん。
こんなに血飛沫舞うとは思わないやん。
コントローラーの打撃のたびの振動も心にくるの。
「無理だ、わたしにはもう無理だ……」
モンスターを1頭倒したところで涙目で震えるわたしを、後ろで見ていた神はゲラゲラ笑った。
くっそ、マジこいつどうにかならねえかな。
「いやーー、ウケたウケた。せっかくなんだから続けなよ。やり返してこないモンスターなんてそうそういないでしょ」
「心にダメージを受けました。今日はもう呑んでマンガでも読もうと思います」
神は再びゲラゲラ笑った。
そして目尻の涙を指でぬぐいながら言う。
「そんな君にはスキルをプレゼントしましょう」
「マジ!? じゃあア◯ルーがいい!! あの可愛いの! ずっと出しっぱなしにして毎日愛でる!」
「それやっちゃうとどこかから怒られちゃうので別のやつです」
神は至極真面目な表情で言った。
クソ!
「でも安心してよ。近い感じで見た目も可愛いヤツにするからさ」
「マジですか!」
「マジ。では発表です、今回のスキルは……『召喚・化け猫』!」
自分の表情が一瞬きれいに抜け落ちたのが分かった。
いや待て、だが赤いスカートの彼女と決まったわけではない。
それに最近の彼女は美しく成長していたではないか。……メイドにするか。楽しみが増えたな。
「さあ使ってみて使ってみて」
なんだかやけに楽しそうな神。嫌な予感がする。
だがわたしは唱えた。我が神がそんな非道な真似をするはずもない。四六時中わたしを幸せにする事を考えてくださってるはずよきっと。
「『召喚・化け猫』!」
すると美しい光のエフェクトとともに天から天使が舞い降りてきた。
ぽっこりおなかにまんまるおめめ、ぷにぷに肉球!
黒猫の子猫!
脳内映像はぜひLv.1のちびっこ賢者のノアールでお願いしたい!!
激カワ! 激カワの天使様が御降臨なされたのでございますよ!!!
「にゃああ〜ん」
にゃああ〜ん、てあんた!!
わたしも鳴いていいかな! ニャン語で会話したい! 分かりあいたいのこの子と!!
『取り憑くヤツいないじゃん』
「は?」
『なに、新しい主人の紹介? よろしくね、ボクはキリ。得意技は精神攻撃。呪い殺したい相手とか追い詰めたい相手がいるなら任せて』
わたしは神のほうを見た。
「憎い相手に取り憑いて精神的に追い込みたいときにおススメです!」
『じわじわいく? ガッツリいく? 夜眠らせないとかすごいキクよ?』
めっちゃ楽しそうな1柱と1匹を見ながら、わたしはこのスキルを使用する事は永遠にないだろうと考えた。
わたしのノアールはこんなんじゃない……っ!!
の、だが。
今キリはものすごく楽しそうにレゾの背後でいろいろ囁いている。
幻覚とかも見せてるらしい。
人生何がどう転ぶか分かんないね。
これで考え直してくれたら命も助かっていいと思うんだ。
精神が壊れちゃったら生きててもあんまり楽しくはないんだろうけど。
そこまで行かないよう調整してくれると信じてる。信じてるぞ、キリ!
え、兄ちゃんの訓練シーン?
見せられねえよ、酷すぎて。
彼はレゾくんの心もプライドもベッキベキにへし折ってくれました。もちろん体も。
あ、体の傷は辺境伯の術師が治してくれたから大丈夫。
なんていうか、血と怒号の飛び交うピー音に溢れた時間でした。
頑張れ、レゾ☆
あ、モン◯ンは楽しく続けさせていただきました。
『下手くそすぎる』とやらでスキルはもうもらえなかったけどね!




