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おまえかあぁぁぁぁぁ!!!

「ここはとても素敵な場所ですね。来る途中の馬車の中でも思いましたが、森や丘、畑や優しい家並みなど、お義姉様はこんなに美しい場所で育ったからあんなに心も何もかも美しいのだと、そう感じましたわ」


 どうよこの誉め殺し。

 さあお義姉様について、そしてお前が知る限りの事を喋ってくれ!


 わたしは話しかけてくれた騎士を捕まえて最高の笑みで語りかけた。


「は、はあ、ありがとうございます。その、レディはとても……賢くて、いらっしゃるんですね……」


 なんでそんな微妙なんだ。

 もっと話を盛り上げろよ。

 幼女ばっか喋らせんな。


「気にしなくていい。気持ち悪いだろう? その子供。1年くらい前、突然倒れて意識を数日失った事があって、目を覚ましたらそうなっていたんだ。無視していいぞ」


 なんて事言うんだ兄貴。

 可愛い妹の可愛い会話をもっと助けてくれよ。


「ひどいわ、オーリお兄様。わたくしお義姉様のお話が聞きたいだけですのに」


 お前らがわたしに諜報員貸してくれたらこんな気持ち悪い喋りもしなくてすむっていうのに。


「ミリア、いいからこっちへ来ておとなしくサンドイッチでもお食べ?」


 優しげにわたしを誘うトーリお兄様。

 3人の兄の中では1番優しく穏やかな印象の彼だが、わたしは知っている。

 

 彼は船乗りになりたいと家出して偽名で海軍に入隊し、水兵からの叩き上げで弱音も吐かずに将校まで成り上がった。

 その気になればものすごい声量で部下に命令し、生まれついてのスラムの人間のように流暢にスラングを操る事ができる。


 自分がなぜ無職になったか彼が知ったら、きっと敵には容赦すまい。


 1番こいつがヤベェやつだと知っている父と兄は、どうやらトーリ兄様には事の次第を話していないらしい。


 あれ絶対怒ってるからな。

 穏やかな微笑みの下で激ギレしてるからな。


 そんな危険生物のそばにはあまり近寄りたくないんである。


 わたしがトーリ兄様のそばに行くのをためらっていると、彼は気だるげに微笑んだ。


「仕方ないなあ。そこの君たち、悪いが妹に義姉の事を話してやってくれないか。妹は美しい義姉のことが大好きでね。長兄と2人で女神のように崇めているんだ」


 いや別にそこまでじゃないけどね。


 わたしがそう思ったとき、騎士たちは嬉しそうに口を開き出した。


 権力か!? 権力なのか!?

 公爵家令嬢よりも元海軍将校の公爵家令息の言葉のほうが大事なのか!?


「エルリシア様の事、ですか」


「我々は騎士として護衛につく事はあっても、あまり近くでお声を頂戴する事はありませんから……」


「そうだ、レゾ、お前確か孤児院でエルリシア様と話した事があったよな」


 なんと!?


 レゾと呼ばれた青年は、森に近いところで見張りをしていた。


 その姿は任務をまじめに遂行しているようにも見えるが、わたし達から距離を置いて関わらないようにしているようにも見える。


 声をかけられてこちらを見た時のほんの一瞬の、迷惑そうな目の動きがそれがどちらからくるものであるかを雄弁に物語っていた。


 わたしは夫人や兄たちから離れてレゾに近づいた。


「あなたお義姉様を知っているの?」


「ああ」


「お義姉様とどんな話をしたの?」


「話すほどじゃ」


「孤児院から騎士になったの? すごいわね。他にもそういう人がたくさんいるのかしら?」


「俺だけだ……です」


 不快な事を言われた、とでもいうように語気が強まった。

 随分と誇りに感じているようだ。


「お義姉様は本当に素晴らしい方よね」


「ああ。あれほど美しくてお優しい方はいない。あの方はこの辺境の聖女なんだ」


「ふうん」


 にこにこと笑みを作りながら、わたしは内心キレッキレであった。


 おまえかあぁぁぁぁぁ!!!













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