説明しよう(いや、今度こそ)
ストーリー? あーー……、アスターク公爵家にとってはただの悲劇だな。うん。
主人公はフィリア・フェイリィ。はちみつ色の髪に水色の瞳を持つ少女。
エルリシアと顔立ちが似ているのは当然で、彼女の姪だ。
スタンピードで故郷が壊滅的な打撃を受けたため、領主に仕える騎士家の彼女も働き口を探していたところ、ちょうどアスターク公爵家で侍女を探していたためやってきた。
物語は彼女がアスターク公爵邸に到着、その壮麗さに圧倒され、続いてホールの階段の踊り場に飾られた、自分とよく似た女性の肖像画を見て『叔母様』と思うところから始まる。
そしてその後は選択肢によって誰と最初に会うかが決まっていくのだが、もちろんその中にはわたし、ミリアム・アスタークも含まれているわけで、ようするにわたしは彼女を散々いじめる悪役令嬢的役割なわけである。
悪役令嬢。
わたしが。
ちなみにちなみに、さっきも言ったけどこのゲームR18だったのね?
ねえ分かる?
主人公はいいわよね、イケメンどもからチヤホヤされたあげくにハッピーエンド。バッドエンドらしいバッドエンドもなし。超イージーモード。失敗しても故郷に帰って幼馴染と結婚したとか、王宮で侍女として勤め上げましたとかそんな感じよ。
でもね。
悪役は違うんだなぁ〜〜〜これが。
いっろいろな、いっろいろな、それこそいっろいろなパターンで、犯され貶められ、屈辱の中で死んでいくわけだよ。シナリオの数があるだけいろいろ。
もうね、そこも嫌いだった。
主人公以外にも優しくしようよ、ほんと。せめて平凡に死なせてやってよって思ったね。
そもそもそこまで悪人じゃないのに、なんでここまで酷い死なせ方しちゃうの?
むしろR18だから見逃してるけど主人公とかかなりアレだからね?
あんた侍女でしょ?
お嬢様の侍女でしょ?
侍女の仕事はどうした!!
そんな感じ。
いろいろツッコミどころはあったけど、ゲーム部分はかなり良かった。
主人公が料理スキルを持っていて、料理素材を手に入れるため向かう森や山でのクエストやイベント、戦闘などはかなりの高評価だった。
もともとゲーム会社が作っていたRPGの世界がベースになっていたためだ。
正直かなりハマった。
小難しいストーリーなんぞ存在せず、けれどゲーム要素だけはアホほど気合いの入ったこの作品がものすごく気に入った。
しかも条件達成によって出る攻略対象や隠しルートもひと捻りあって最高だった。
スチルは完全にコンプしたね。隠しルートなんてネットに噂しかなかったけどそれも含めて。
乙女ゲームとしては言いたい事はあるけど、RPGとしては最高だった。
まああれよ。
なんかついいろいろ話しちゃったけど、わたしはこのとき、兄嫁を前に誓ったのよ。
義姉さまには生き残ってもらおう、しっかり後継を産んでもらう、アスターク家は兄とその子どものもの。
主人公がどこでどう幸せに生きようとかまわない。
でも、わたしたちもきっちり幸せになる。
絶対そうする、って。
気に入ってたゲームがどうした。
不幸になる人間を減らす、幸せな人間を増やす。
それ以上に重要なことなんてこの世界には存在しない。
ゲームの展開よりも自分と家族の幸福。当然です。
そのためにはまず2年後の事故を防ぐ……のではなく、原因となる皆様に消えていただかなきゃならないわけだけどね。
まあでも1番の問題は5歳児に何ができるかって事なんだよね。
あーーーもうマジ、責任者出てこい!!!