そう、あれは昨日の事。
久しぶりに帰った実家では何ひとつ変わっておらず。婚約したばかりの兄と義姉がイチャイチャしていた。
でも仕方ない。
だってわたしにとっては14年前の出来事でも彼らにとってはつい昨日とかの話だからね。
朝食の席で出会った時にも感激の再会なんてなかったよ。
仕方ないけどなんかイラッとする。
お前ら2年後には不幸のどん底だからな!
そうならないために今頑張ってるわたしになんかないのか!
まあわたしはもっと悲惨な事になるからね! 死ぬ気で頑張んないと超絶バッドエンドまっしぐらだからね!
でも、おまえほんとに死ぬ気で頑張ってるのかと訊かれたら、死なない程度に頑張ってるとしか言えない。
適度に息抜きして手を抜かないとほんと死ぬからね?
頭おかしくなって死ぬからね?
仕事だと思ってやってるけどほんと厳しいから。
14年ぶりの兄は本当に幸せそうで、腹が立つやら微笑ましいやら、わたしは頑張らにゃいかんと気を引き締めた。
ゲームが始まる、というよりゲームの起点になる事件が始まるまであと2年。
一般の成人男性ぐらいなら問題なく戦えるわたしだが、戦闘職や魔法職で鍛えている人間にはまだ少し及ばない。
どんな状況でも余裕で勝てるようになるためには、自分1人が強くなっても仕方がないのだ。
悪役令嬢ものでもあるではないか。
周囲を味方につけ、権力と財力、さらには民衆までも味方につけてぐうの音も出ないほどヒロインを叩き潰すのが正統派悪役令嬢なのだ。
そこまでやる必要はないと思うかもしれない。
正直わたしも、そこまでせんでも、と思った事がなかったと言えば嘘になる。
しかし相手がこちらを殺して家門を乗っ取るつもりでくるなら手控える必要など全くないのもまた事実。
もらった時は『いっちょん使えん!』とキレたステルスキルで早速息の根を止めに行こうと考えた。
だがしかし。
現在わたし公爵令嬢、齢は5歳。
何が言いたいかというと、つまり勝手に1人でお出かけは無理なんである。
いつでもどこでも保護者と一緒。
使えねえ!
使えねえぞ本体!
もらったスキルより使えねえってマジアウト!!
手駒だ!
こうなったら手駒が必要だ!
わたしの代わりに手足となって文句も言わずに働いてくれる手駒募集!
できればヒロインの命奪ってきてくれる人希望!!
だがそんなもの5歳児に手に入るはずもなく。
わたしは朝食を食べながらまずは何に手をつけるべきか考えた。
こういう場合の転生主人公の取るテンプレ行動を思い浮かべる。
奴隷を買う。
内政チート。
発明。
料理。
商家に出入りする。
攻略対象者を先に落とす。
クエストを先に解決する……。
やるべき事はいろいろだ。
さあ、どれから手をつけようか。