クリアしなくてもスキルは貰える
今回、ちょっと長めになりました。2000字オーバー。
察してくれ……。
北海道旅行は弾丸旅行となった。
お安いやつで出かけたため、もんのすごいハードスケジュールだった。
でもいいの、ラベンダー畑見れたから。
ラベンダーのいい香りを胸いっぱいに吸って、ラベンダーソフトクリームを食べて、わたしは満足して帰ってきた。
次はもっとお金を貯めて1週間くらい遊びに行ってみよう。
今回食べられなかった美味しいものもたくさん食べてみたい。
なにしろわたしの体は今理想のボディに保たれている。
これを最大限利用せずしてなんの人生か、という話なのだ。
太りもせず痩せもしないので、毎日飲んで食って本読んでゲームして、また飲んで。
我が神が届けてくれるので、酒だけはいつも豊富にある。
昼間は我慢して飲んでないが、夜になれば神と宴会だ。
色恋の気配もなく、バカみたいに酔って笑う。
マジ最高の人生なんである。
さて、次はちょっとゾンビのゲームをやってみたい。
ゾンビゲームとひと口に言ってもいろいろだ。
映画化までした超有名なやつ。
日本を舞台にゾンビと肉弾戦とかもしちゃうやつ。
えらい大量のゾンビが出てくるやつ。
映像がキレイ過ぎてゾンビの恐怖が半端ないやつ。
ゾンビをただ倒すより、準備と作戦、そして周辺環境が大事なやつ。
どうしよっかなー、とソフトを前に満面の笑みになるわたし。
分かる人には分かってもらえる、でも分からない人には絶対分からない、ゾンビゲームの面白さ。
わたしはビビりだがゾンビゲームはやる方だ。
実体があり、しかも動きがノロいという辺りが、頑張れば勝てるんじゃないかと思わせてくれる。
走るゾンビや進化するゾンビは邪道です。映画なら面白いけど。
悩みに悩んで、わたしはやった事のない洋ゲーゾンビを試してみる事にした。
あ、ゾンビいっぱいじゃない方ね。
あれは確かゾンビが走る上に物量で迫ってくるのでなんか怖くてヤバい。
このゲームは、ゾンビが蔓延る文明が崩壊した世界の中で、過去の遺跡を探索して回るというものである。
なので、ゾンビを倒す事には主眼は置かれていない。
いかにしてゾンビから逃れられるかを試すゲームなのだ。
大事なのは拠点作り。そして夜になるとやたら元気になって走り回る凶暴ゾンビ達から身を隠し、見つかったとしても夜が明けるまで耐え忍べればオッケーというちょっと変わったゲーム。
武器や防具も一応あるので、倒せるなら倒したほうがいいのだが、噂によると夜のゾンビはかなりのナイトメアモードらしい。
ちなみに昼のゾンビは、よっぽど近づいたりうるさく動き回ったりしなければ呑気に日向ぼっこをしているヤツがほとんどとの事。
人類はゾンビから逃れるため、洞窟や地下深くに穴を掘って、いくつもの鉄の扉の奥で暮らしている。
遺跡で手に入れたものを売ったり、クエストを受けたりしてお金を手に入れ、武器や防具、必要なアイテムと交換していく。
商人としてそんな人類達の住まいを繋いだり、生存を助けたりもする。
いい場所を見つけて自前の拠点を作れば、誰かを誘って人類の生存拠点にする事も可能だが、なにしろ放っておくとどこの拠点であれいきなり無くなる事もあるから油断できない。
そんな気合が入ってるんだかのんびりしてるんだか分からないゲームを立ち上げて、わたしは思わず微笑みを浮かべた。
うん、英語が分からん。
だがこのゲームはやりたい。
その強い思いだけで、わたしは手探りでゲームを開始した。
まずはやってみる事からだろう。
適当に名前をつけてゲームスタート。
ちょっとウロウロしたらすぐ死んだ。
まて、今なんで死んだ。
分からないまま再スタート。
今度は水と食料が無くて死んだ。……場所が悪かったんだ。
食料を求めて少し遠出をしたらゾンビに襲われて死んだ。
素手で肉弾戦は勝てても一体だけだ。なにしろ薬がない。
建物だ! と思ったらなんか爆発して死んだ。
草原で植物がいっぱいあると思ったら水がなかった。死んだ。
ヤバい、意味わからん。
それでも、何度か繰り返すうちにチュートリアルの進め方も分かって、死ににくくなってきた。
だがケガと食料問題だけはどうにもならない。
そこでゲーム設定を変更してチートモードで進め方を検討する事にした。
卑怯と言わば言え。
だがこれがあるという事は、まずこれを使って遊び方を覚えろという事なのだとわたしは思う。
そして。
よく分からないまま設定をノーマルから変更。
チュートリアルをこなしながら夜を迎える。
場所さえ良ければここまではなんとかなる。問題はここからだ。
その夜、わたしは建物の中でじっとして動かず、朝が来るのをただひたすらに待った。恐ろしい時間だった。
ちょっとでも動いたらゾンビに居場所を感知されるんではないかとビクビクしていた。
そして朝、出かけて行った先でまた食料が見つからず、やり直す。
再度設定。
……ここでわたしはふと気がついた。もしかしてこれ、ゾンビが出没しない設定になってないか?
なんか、適当に1番簡単な感じで設定していたモードの英語が、ゾンビが出そうにない単語だったのだ。
そう、わたしはゲームをゾンビが『出ない』設定にしていた。
それに気が付かず、存在しないゾンビを思って建物の中で震えていたのだ。
おまけにチートモードなので、必要な水も食料も材料も、全て手に入る状態だった。探さなくてもよかったのに。
チートボタンの使い方が分からず、その後ゾンビにビビりすぎてチートである事をすっかり忘れてしまっていたんである。
なんちゅうこっちゃ……。
と、背後で誰かが爆笑した。
「あははははははっ!!」
もちろん我が神である。
クソッ、こいつ居やがったか!
わたしは思わず舌打ちしそうになった。
「いつ気がつくかと思ったけど結構かかったね! いやあ最高だったよ!! 出ないゾンビに怯える姿!」
「……」
わたしは煽りを華麗にスルーし、無言のまま操作を続けてこのゲームの進め方を学んだ。
背後のやけに楽しそうな空気を醸し出す我が神が憎かった。
なんとなく分かり出した頃、もう1度ゲームをスタートさせる。
と、そこに再び神の声。
「さっきのは近年稀に見るおバカっぷりだったねえ。もっとちゃんとよく読もうよ。英語分からないからって思考停止して読まずに多分こんな感じ、でやるとかじゃなくてさ」
わたしはやっぱり返事をしなかった。
とにかく今はほっといて欲しかった。恥ずかしくて泣きそうだったんである。『くっ、殺せ!』ってきっとこういう時に使う言葉。
「でもすごく良かったよ、僕は感激した。なのでスキルをプレゼントしたいと思います」
「スキル!?」
涙は引っ込んだ。
スキルは素晴らしい。ほんとに素晴らしい。今度こそ使える、戦えるスキルをぜひ!
「他国の言葉もこれでバッチリ、『言語スキル』! これでよその国に売り飛ばされても戻ってこれるね!」
「その前に売り飛ばされんようにしてくれるかな!?」
怒鳴ったわたしに、やつはさらにゲラゲラと笑ったのだった。
これはフィクションです。
このゲームは存在しません。
主人公がプレイしているゲームが実在するものと似ていると感じられたとしても気のせいです。
なので、作者が実際にゲームで経験した事ではありません。
ホントウデスヨ?