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神と神

 翌年、わたしは玉のような男の子を産んだ。


 結婚式の手配は人知れず……違うな、わたし知れず数年前から進められていたらしい。

 逆らう気はなかったが、なんとなくしてやられた気分。


 出産のさいもキツかったが、妊娠中も本当にキツかった。

 つわりに苦しみながら『次はお前が産め』とドスのきいた声で言ったわたしに、殿下は

 

「かまわんぞ」


 とのたまった。


 頭にきたので、絶対にヤツに妊娠・出産を経験させてやる、と心に誓ったわたしだが、無事生まれた赤ん坊をリュゼ様率いる天使団の皆様が祝福してくださり、我が子は怪我も病気もせず、賢く健やかに成長して名君となる事を約束された。

 もちろん子孫繁栄で。


 つまりどういう事かというと、後継者争いの種になりそうなベイビー達を、皇家は必要としなくなったのである。


 ヤツの輝かんばかりの笑みを見ながら、わたしは確信した。

 あいつ絶対、こうなるって知ってやがった、と。







 それから数日たった夜、わたしは久しぶりに夢を見た。


「出産おめでと〜〜、お疲れ〜〜」


「お疲れ〜〜、じゃねえよ、神お前、なんでうちの子の祝福に来なかったんだ」


「え〜〜、充分じゃない? あれだけ祝福もらってればさ」


「あとで『眠り姫』みたいに『どうして呼ばなかった!』とか言わないよね?」


「あれ、誰か呼ぶ手配してたの?」


「いや、呼んでないのに来た」


「だよね。呼ばれもしないのに行かないよ、僕は」


 意外とまともな神経してたんだ、と思ったわたしに、神が続ける。


「それにあの子の守護神は僕になる予定だし」


「マジ?」


「まあまだ先だけどね」


 この世界には成人のさい、同時に守護する神や天使の名が教えられる。

 その神の名の一部がミドルネームとして使われるが、男性の場合は公的な書類など、正式な名乗りを必要とする場所でないとあまり使われない。

 逆に女性は公的な仕事についている事は少ないため、男性よりは気軽に使われるが、名乗ったり名乗らなかったりと割と自由だ。


 神や天使にも階級があるため、男性社会ではあまり公表を好まない者も多いのだ。




「そういうのっていつ決まるの?」


「特に決まってないけど、どんなに遅くても10歳までには決まるかな」


「ふうん」



 ここで神はニヤニヤと感じの悪い笑みを浮かべた。


「ところで僕の名前知ってる?」


「いや……」


 知らない。

 というか知りたくなかった。


 違う。()()()()()()()()のだ。


「当ててみなよ」


 わたしは一瞬言葉に詰まった。

 口にしたくないような。

 してはならないような。


 そして。

 口が勝手に動いた。



「……シドゥス・ファウストゥム・レギス。混沌の神、ファウダー」



 神が、破顔一笑。


「やあ、おかえり」


 と言った。




 シドゥス・ファウストゥム・レギス、ラテン語で意味は幸運の星。

 元はアラビア語で、アル・サド・アル・マリク。

 王の守り星。



 ファウダー、混沌の神。

 わたしの……親友。



 その途端、わたしは全てを思い出した。


 この世界を治めていたのがわたしだった事。

 世界をどちらでもない、闇の力の支配しやすい状態にしておきたかった闇の神々の奸計により、肉体を引き裂かれ、呪いをかけられて他の世界の輪廻の輪に落とされた事。

 そして……そして……。



 わたしはファウダーのほうへ両手を伸ばす。


 その手は、両腕は、褐色の肌の男性のもので。

 神の、ファウダーの背もわたしより少し低いくらいで。


 視界が、ぼやけた。


 ファウダーが笑っている。

 微笑んで、わたしの抱擁を受け入れようとしている。


 わたしは彼に抱擁を……。



「すると思ったかてめえええええッッッ!!!」



 わたしは思い切りヤツの首を両手で締めた。

 ガッツリ締めた。

 マジ死ねとばかりにそりゃもう締めた。


 クソが死ねえええええええ!!!!



「ちょ、ま、なん……!!」


「てめえ人のオンナ寝取りやがって!!」



 そう、リュゼは俺の部下で、いずれ正式に結婚を前提に交際を、と考えていた、特別な、特別な、大切な女性だったのだ!

 それをこの野郎!!!



「いやちょっと待って、リュゼと君、別に付き合ってないでしょ!」


「まだ彼女も若かったし仕事が忙しかったから時期を見てたんだよ!」


「そういうとこじゃないかな。彼女、君の思いに全然気づいてなかったし、第一、君あっちこっちで適当な軽く付き合える女に手ぇ出してたじゃん」


「俺も若かったんだよ! いろいろ発散する必要があったの!」


「リュゼはいつも『クソハーレム上司死ね』って思ってたって言ってたよ。どっちにしろ見込みなかったんじゃないかな。君、昔から女遊び激しかったし。ハーレムではなかったから、そこだけは否定してあげたけどね」


「ぐはっ……!」


「だけどさ、仕事とかは尊敬してたみたいで、君が殺されたのにすっごく怒って、他の天使達と一緒に僕のとこ来て『戦えるようにしてください』って言ってさ。事務処理担当の天使達がだよ? それで300年前に僕と一緒にこっちの支配権ぶんどったんだよね。いやあ、すごかったよ」


「もともと厳しい子だったけど、それでそんな武闘派に……!」


「君のせいだね。ちゃんと反省しなよ」


「ううう……もうやだ、もう神になんて戻りたくない」


 わたしは男性の体からもとのミリアムの体に戻って涙を流した。


「それは無理だね。もう記憶戻ったでしょ? これから君には神の仕事もしてもらいます。溜まってるからね、マジ頑張って」


「嫌だよ! 皇太子妃の仕事もあるんだよ!? 無理だってほんと!」


「大丈夫、なんとかなる、なにしろ君、神だから。ていうか早く1人でできるようになってくんないと、僕ら結婚して新婚旅行にも行けません。全部君のせい。ちなみにリュゼさんキレてるんで、思い出した以上、今後は容赦なくなると思います」


「今よりさらに!?」


 神は厳しい表情でうなずいた。


「さらに。ほんと気をつけたほうがいい。今日は僕、それを伝えに来たんだよね」


「思い出したくなかった……!」


 いろんな意味で。

 いろんな意味で思い出したくなかったわたしの前世……!!!



 絶望するわたしに、混沌の神ファウダーがにこやかに声をかける。


「まあまあ、でも君のために主犯も共犯も、神々とっ捕まえてそのままにしてあるから。気が済むまで痛めつけたらいいよ。フィリアみたいに優しくほどほどで済ませるんじゃなくてさ、なが──く楽しめるように」


「神、マジ最高」


「いつから君の親友やってると思ってんの」


 得意げな神。

 だがわたしはイマイチ気力が湧かなかった。


 だって、最後の恋人にしたいと考えていた相手がいつのまにか親友の妻になっていたのだ。


「もうほんと、しばらくこのまま女でいようかな」


「いいんじゃない、別に。地上では君の姿のほうが印象強いだろうし。いっそ名前も変えちゃう?」


 言われて、ちょっと考えてみた。

 ミリアムに近い感じで……となると。


ミゼリコルディア(慈悲)と、ミセリア(不幸)、とか? ああでも不幸はやだな。いいよ、そのままで」


「じゃあ、イディオ(愚者)のままで?」


「イディオのままで」


 ああ、やっぱりしっくりくる。

 わたしの名前だ。

 わたしは、イディオだ。


「じゃあ世界に向けて伝達するよ。この世界の創造神が復活した。彼は悪しき神々の罠に嵌り体を奪われ、この世界から追放されていた。しかし彼に仕える大天使達は他の世界の創造神に助けを求め、最高神として招き、失われた神の魂を見つけ出した。その魂は真なる大聖女としてこの地に生を受け、いずれまた女神として戻ってくるだろう……、こんな感じでどう?」


「いんじゃない?」


 わたしが適当に答えると、ファウダーは嬉しそうに手揉みする。


「思いっきり派手にやりたいよね、やっぱり」


「あ、やるのはわたしが死んでからにしてください」


「ええ〜〜〜〜〜〜」


「面倒ごとしか思い浮かばんよ、それ。マジ勘弁して」


「しょうがないなあ。まあでもリュゼ次第だから、その辺は了解しといてね」


「うっす……」


 わたしがにがり切った表情で頭を抱えると、ファウダーは笑ってわたしに手を差し出した。


「帰ってきてくれてよかったよ。また飲もう」


「リュゼ様に怒られない程度にね。今後はゲームもネットもやり放題だし!」


 ニヤリと笑って、わたしはファウダーの手を握った。

 そう、今後はわたしも神のうちなので、ポイントとか関係なくいろいろ楽しめるんである!


「またね」


「また」







 夢が覚めていく。



 世界に、創造神が戻ってきた。


 神・イディオフィィア(天才)


 世界は長い夜明け前の暁闇の時代から、日が昇る太陽の時代へと向かい始めた。




 今、世界は正しく時を刻み始める。









 神の名を冠したその帝国の名は『ファウストゥムリゼア』。

 後に世界を司る最高神となる女神イディオフィィアが人の身を取って生まれた国。


 皇帝と彼女の間に生まれたたった1人の息子は、天使団の祝福を受け、幸運の神の守護を授かり、長じては大陸全土に名を馳せる名君となった。


 彼の治世は、ファウストゥムリゼアの長い歴史の中でも類を見ないほど、平和で明るいものであったという。








 〜 了 〜








挿絵(By みてみん)



これにて完結となります。

最後までお読みくださり、本当にありがとうございました。


最後の1ページは作者からの皆様へのお礼ですので、お暇な方はどうぞお越しください。


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