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いや、わたしは初回ですけどもね  作者: 昼咲月見草


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 結論から言うと、フィリアの魂はあっさり壊れた。


 6回どころか3回しか持たなかった。


 強制終了がかかった匣から外へ出されたフィリアの魂は弱々しく、粒子がさらさらと崩れて今にも崩壊しそうだ。


 わたしはそれを手に取るとため息をついた。





「不満そうだね」


 背後からいきなり声がかかる。神だ。


「そりゃあね。ミリアムの半分だよ? 許す許さないの前に問題外でしょう。どうするよこれ」


 せめてミリアムと同じだけ耐えてくれたなら、見逃して放り出しても良かったのに。

 そんなわたしの内心を見てとったように、神はにこにことフィリアの魂を受け取った。


「許さなきゃいんじゃない?」


「この壊れた魂を?」


「直せばいいんだよ」


「直したあとは記憶なんて残ってないでしょ」


「耐久性の高い魂というのはね、それだけ磨かれて格が高いという事なんだ。だから不幸や苦しみの中でも美しく咲くことができる。泥の中で咲く蓮の花のようにね。彼女もミリアムと同じくらい磨かれるまで、汚泥の中でたっぷりと不幸漬けにしてやればいい」


「いやそれ酷くね?」


「酷くないよ、魂というのはそもそも磨かれるために地上へ行くんだ。中には次はもっと、その次はさらにもっと、と不幸ばかりを追求して他より多くの経験を得ようとする者もいる」


 口を尖らせて神が言った。

 可愛くないからな、それ。


「そういうヤツとは気が合わないな。不幸から何を学ぶのかさっぱり分からない」


「嬉々として社畜をやってた君には言われたくないと思うよ」


「喜んでないから! あれは生きるために仕方なかったの!」


「はいはい、それでね、その子の魂を修復して、もう一度地球に戻せばいいと思うんだ。ミリアムと同じレベルになるまで、スパルタで人生送るように設定し(呪っ)て」


 さらっととんでもないこと言いやがったこいつ。

 だがなるほど。

 ミリアムと同等になるまで、というのは悪くない。



「それってさ、どのくらいかかるの? 50年とかそのくらい?」


 匣の残り時間が14年の3倍で42年。

 偶然にも日本人には不吉な数字だ。

 

「人にもよるけど、この子の場合だと5〜6回は転生しないとダメなんじゃないかな」


「え、そんなに」


「ひとつ格が上がるというのはそう簡単な事じゃない。理解もせず、受け入れもせず逃げ回れば時間がかかるのは当然だよ。それにミリアムって帝国の皇妃になる魂だよ? そんじょそこらの魂と同じなわけがない」


「なるほど」


 という事は今、わたしがウィクトルの妃になる予定なのは、いわばトゥルーエンドなのか。


 しかし何百年も転生を繰り返して不幸の中でのたうち回るのか……。

 少し憐れな気もしたが、まあいいだろうとわたしは目を閉じる。



 いつか、フィリアの生まれ変わりのそばにいる誰かが、彼女の幸せを願うかもしれない。


 いつか、フィリアの苦しみを、その魂を哀れんだ神が彼女を救うかもしれない。


 だが、それはわたしではないのだ。


 壊れたミリアムの魂のためにも、フィリアに情けをかけるのはわたしであってはならない。



「わかった。それでいいよ、神。お願い」


 神は何も言わず、ただ微笑んだ。

 案外、フィリアの魂は苦しむ彼女を見つけてくれる誰かの近くへ生まれるのかもしれない。


 それはわたしが関わることではない。

 全ては神、のみぞ知る……。

 きっとそういうことなのだろう。



 神が作る柔らかな光の治癒結界の中へ、フィリアの魂が取り込まれていく。

 わたしそれを無言で見送った。







「しかしもったいなかったねえ」


 神が、強制終了して動かなくなった夢の匣を見てしみじみとため息をつく。


「まあせっかくのものではあったけど、ここ以外で使い所なんてなかったからね。あっさり終わったのは業腹(ごうはら)だけど仕方ないよ」


 そう、何を隠そうこの夢の匣、クエストの報酬なんである。



 本来なら中立側陣営の使用権利はもうなかった。わたしが使ったからだ。


 だが覚えておいでだろうか。

 以前、ソルシという街でTS転生伯爵令嬢、ロゼリアを救ったことを。


 あのときクリアしたクエストは、当初『伯爵令嬢を救え』だったものが、条件達成によりクエスト名が変更になっている。『ソルシの巫女を救え』だ。

 クリア報酬はスキルだったが、条件達成の報酬はまた別にちゃんと用意されていた。


 それが、この夢の匣の使用権だった。


 ロゼリアは光でも闇でも中立でもない、どちらでもない側の魂だった。

 全ての陣営に権利は与えられる。

 しかしどちらでもない人間の魂に夢の匣は扱いきれない。


 ロゼリアの使用権は使われないまま宙に浮いていた。

 それを神は手に入れてわたしに与えてくれたというわけだ。



 せっかくだから最後まで使ってほしかったのだが……。


 まあ半分でも使えたことに違いない。




 わたしは宙に浮かぶ神の治癒結界を見上げ、別れの言葉を告げる。


「さよなら、フィリア。今度こそ、良い夢を」












投稿された後ですが、読み直してみたら夢の匣の使用権の説明が不十分だったため付け加えました。


>ロゼリアは光でも闇でも中立でもない、どちらでもない側の魂だった。


から始まる5行です。

より納得いく感じになっていればいいなと思います。



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