ざまぁ 〜 もう1つの夢の匣 〜
前日31日、予約するつもりで即時投稿してしまいました。
こちらは11月1日朝7時に予約投稿している分です。
昨日の夜、投稿された123話をまだお読みでない方は、お手数ですがそちらから先にお読みください。
大変申し訳ございません。
わたしは鼻歌を歌いながら、夢の匣を設定していく。
繰り返す回数は7回。
1周は14年。
そこまではフィリアの設定と一緒。
違うのは、フィリアの魂以外はNPCであること。
そして、彼女の魂はミリアムのボディの中に入れること。
ヒロインは必然的にNPCが務めることとなる。
設定が終わると、リュゼ様がフィリアの魂を解放した。
何もない白い床にうずくまるフィリアの姿が現れる。
フィリアは意識がはっきりするとわたしを見上げてにらみつけてきた。
「どういう事よ。あたしをどうしようってのよ!!」
うん、元気で何より!
「どうもこうも、これまでやったことに対する罰を受けてもらうんだけど」
罪を償うのはそのあと。罪と罰って一緒じゃないからね。
罰は受けるもの、罪は償うもの!!
「なによ! なんであたしが罰なんて受けなきゃいけないのよ!」
「心当たりあるでしょ? いっぱい」
「ないわよ!!」
「夢の匣」
そのひと言で、それまで威勢の良かったフィリアが口を閉じた。
自分が何をしたかくらいは分かってるんだね。
「フィリア、あんたは夢の匣の中で、何度もミリアム・アスタークを殺した。殺す必要もないのに、何度も、何度も。惨たらしい方法で」
「……あたしが殺したんじゃないわ」
「手は下してないね。でもあんたがそういう設定にした。楽しかった? 悪役令嬢ざまぁ」
「なによ……なによ! 別にいいじゃない! あんたみたいな性格の悪い暗い女、別にどうなったって! 大体……そうよ大体記憶にないはずでしょう!?」
「あったんだなぁこれが」
「え……」
「そういう作りだったんだよ、この匣。中で死んだら記憶を持ってやり直せる。どこで間違ったか学べるようにね。あんたはこの匣の使用者だったから覚えてたけど、それ以外の魂は死んだら記憶が残るんだ」
フィリアは青ざめて小さく何度も首を振る。
「やだ、そんなの聞いてない。あたし……あたし、知らない……」
わたしは構わず続けた。
「ミリアム・アスタークの魂は匣の中で何度も死に、何度も子供時代からやり直した。あんたが面倒臭い、苦労したくないと言った約10年間と、その後を。あんたの設定した通りに、自分の意思など一切無く」
「違う、違う、あたしじゃない、あたしのせいじゃない」
「ミリアムが誘拐されて以降、どんな暮らしをしたか知っているか? あんたのシナリオ通りに会話して、あんたのシナリオ通りに破滅して、死ぬまでどんな目にあったか」
「知らない! あたしのせいじゃない!」
「てめえのせいだよ、このクソ女!! 全部てめえのせいだ!!」
「いやあああああ!」
わたしがフィリアの胸ぐらを掴んで持ち上げると、フィリアは悲鳴を上げた。
わたしは気持ちを落ち着けて、掴んでいた彼女の胸ぐらから手を離す。
「まあでも過ぎたことだ。今更取り返しはつかないし、無かったことにもできない。だから、あんたにはそれ相応の罰を受けてもらおうと思う」
わたしが冷静に言うと、フィリアは震えながらも小さな声でわたしに訊いてきた。
「匣の中でのこと、あたしに復讐するつもりなのね。やられたから、やり返そうって。そういう事!?」
最後は怒鳴っていた。
ほんとこの子どういう神経してんだ。
「いやいや、まあ違うと言えば違うし、そうだと言えばそう」
「はあ? 何言ってんの? 仕返しするんでしょう!? あたしは何も知らなかったのに! あんた最低ね! 匣の中で何度も死んだ、その復讐をするつもりなんでしょう!?」
そのいい草にカチンときた。
「いや、わたしは初回ですけどもね」
「は?」
「ミリアムの人生を生きるの。わたしは初めてだよ。だからあんたのクソみたいなシナリオは、わたしは1度も経験してない」
「どういう、こと」
「ミリアム・アスタークの魂は壊れて使い物にならない。だからこの匣のシステムが強制終了されて、全ての内部の魂は突然現実の体に戻された。でもミリアムだけは中に入る魂がない。だからわたしがあんたと同じ場所から呼ばれた。この世界からあんたのクソシナリオを排除して、正しい状態にするためにね」
フィリアは驚愕に目を大きく開く。
「そんな、じゃあ、あんた日本人……」
「初めまして、フィリア。あんたのヒロイン、日本じゃ評判悪かったよ」
にやりと笑って言ってやる。
実際に悪かったかどうかは問題じゃない。ただただ、徹底的に屈辱を味あわせてやりたかった。
「ちくしょう……ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうっっ!!!」
叫んでフィリアはわたしに飛びかかる。
それを軽くいなして、わたしはフィリアに足を引っ掛けて転がすと、その背中を思いきり踏みつけて体重をかけた。
「ぐうっ……!」
「大人しく自分の作ったシナリオを体験してろ。7回分、壊れずにクリアできたら許すの考えてやってもいい」
わたしが冷たく言い捨てて背中に乗せていた足で蹴飛ばすと、フィリアは転がったあと苦しそうに小さく丸まった。
もうこちらを睨む目にも力がない。
「じゃあリュゼ様、お願いします」
リュゼ様はひとつうなずくと画面を操作してフィリアの魂をまた球体に戻し、匣の中へと送り込んだ。
『しばらく見ていきますか?』
「ええ。最後まで、全部」
知らないでは済ませられない。
だからわたしはずっと見続けた。
誘拐されて、奴隷になって、周囲からおとしめられて、自分の婚約者になるはずだった相手はメイドに奪われ、最後は痛みと恐怖と屈辱の中で死んでいく。
その繰り返しを。
ミリアムの中で、意識だけとなったフィリアが地獄を味わう様を、ずっと。