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おはよう、フィリア (2)

今回、主人公が非常にクズです。

いつも割とクズっぽいんですが、今日は全力でクズです。お気をつけください。



 まずは、目にも美しい色彩の豊かな魚介の前菜。


 続いて温かいコンソメのスープ。


 最初のメインディッシュは海老。


 口直しのシャーベット。


 いよいよ肉。やはり牛!!

 和牛とかお高い肉なんて記憶にないぐらい食べた事がないが、この世界の牛は十分うまい!!

 

 そして最後はなんといっても甘いデザートですよ奥さん!



 以上が本日の流れだ。


 もう前菜の時点でみんなお皿の上に描かれた見事な世界に感動必至。

 

 うちのシェフは天才なんである。

 なんせ刃物を持たせたら超一流。


 みんなで彼を褒め称えながら次のスープを楽しんでいると、執事長が兄に耳打ちした。

 兄はそれを受けて、全員に「食事の途中だが立つように」と告げる。


 それから扉が開かれ、我らが皇太子殿下が入場してきた。

 はい音楽かけて!!



 ウィクトル殿下を先頭に、後ろには殿下の従兄弟と宰相子息。


 攻略対象者全員が驚きに息を呑む。


「皇太子殿下。本日はようこそお出でくださいました」


「ああ。初めての者もいるな。ウィクトルだ。今日は遅れて申し訳なかった」


 殿下の言葉に、わたし達は揃って頭を下げた。


「殿下、どうぞこちらへ。妹とわたしの間の席になります」


「うむ」


 殿下はわたしの隣にやってきて、爽やかな笑顔を向けてくる。


「遅くなってすまなかったね。これでも急いで仕事を終わらせてきたんだが」


「とんでもございません、おいでくださっただけで嬉しゅうございますわ」


 微笑むわたし。

 うふふ、あはは。

 不思議だね、殿下が今何考えてるか手に取るようにわかるよ!



『とっとと食事にしろ。美味いというから来てやったんだぞ』



 きっと戦場でずっと一緒に過ごしたおかげだね!



 再び食事が始まって、わたしはもう一度フィリアを確認した。

 うんうん、目をまん丸にして殿下をガン見してる。

 あと時々、側近の2人にも目をやってすっごい目を輝かせてる様子からして、ターゲットを決めた事は間違いない。


 わたしはさりげなく攻略対象者達の魅了を解いた。


 最後のデザートを食べ終えて、お皿が片付けられたあと、全員の前にワインが配られた。

 兄が立ち上がり、グラスを持つ。


「今日は大事な発表がある。妹の婚約者についてだ」


 フィリアが怪訝な顔をした。


「じき正式な発表があるが、我が妹ミリアムがウィクトル殿下の婚約者に内定した」


「な!」


「はあっ!?」


「そんなバカな!」


 みんな口々に驚きを表す。


「バカな、とはどういう事だろう? キース」


 兄がキースを軽くにらむ。


「あ、ああいや、深い意味はないんだ。ただあまりにびっくりしたから」


「そうか。……妹について不快な噂が流れている事は私も知っている。だがそれらは全て事実無根だ」


「そう、なのか?」


「ああ」


「ここからは僕が説明しよう」


 にこやかに話し出したのはもちろんウィクトル殿下だ。


「アスターク公爵家は全員が、もう10年近く命を狙われていてね。そのために身を隠さざるを得なかったんだ。もちろん公爵夫人も生きているし、公爵夫妻の間には3人のお子さんも生まれている。そうだよね?」


「はい。3人目はまだ生まれたばかりです」


 表情が崩れるのを抑えながら兄が言う。



「ミリアムはこの10年、後宮の僕の母達に匿われていた。そこで僕と親しくなったんだよ」


 殿下はそう言って立ち上がり、そばに来てわたしの手を握る。

 普段こういう真似をしない人だけに気持ち悪さがハンパじゃない。

 嫌がるのわかってやってるからなコイツ。マジ性格悪い。



「狙っていたのはグラスリアだった。奴らは僕の妹のミュルレイシアも狙っていてね。去年、ようやく全てが片付いたから一度後宮を出たいと言い出したんだ。僕はそのまま結婚しても良かったんだけど、彼女がこの庭の薔薇を見たいと言うから。でもこれ以上はやはり待てなくてね。ごめんよ、ミリアム」



 いいえ殿下、と言いたいが、あまりの気持ち悪さに声を出したら叫びそうだ。

 わたしは静かに微笑んだ。

 いいからもう離してくれ、という意味を込めて。



 一瞬、ヤツの目がわずかに細まった。こいつ、笑ってやがる。



「そ、そうだったのですね。殿下、ミリアム嬢、この度はご婚約、まことにおめでとうございます」


 ノイエがグラスを持ち上げる。

 他の攻略対象者達も次々とお祝いを口にしてグラスを手に取った。


 フィリアはと言えば、青ざめて震え、こちらを射殺さんばかりに睨みつけている。



 あ、もしかして気づいちゃった?

 なんかおかしいって気づいちゃった?


 でももしかしたらまだ現実だって分かってないかもな〜。

 まあいっか!



 わたしは立ってフィリアに顔がよく見えるような位置で殿下の隣に寄り添い、最高に幸せそうに見えるだろう笑みを浮かべる。


「まだ夢でも見ているようですわ。でもこれは現実なのですね」


「もちろんだ。間違いなく現実だよ。でも生きている間、ずっと覚めない夢を君に見せてあげよう」



 シラフじゃ言えんセリフだが、ヤツはほぼずっと皇族という自分を演じているので割と平気でこういう事を言う。

 ただし素の自分のときは「頭から水でもかぶれ、うっとおしい」が返事だ。


 だがそんな紛い物のわたし達の言葉でも、心に響いた人物がいる。


 そう、フィリアだ。


 目を大きく見開き、驚愕の表情を浮かべている。


 

 良かった、バカじゃないんだね。

 そう、ここは現実なんだよ。夢じゃないの。



 おはよう、フィリア、おはよう!


 ようやく目が覚めたね!

 ねえ今どんな気分? どんな気分?


 わたしは最っ高!!



 あはははははは!!













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