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おはよう、フィリア (1)

 毎朝恒例、フィリアのムカムカ☆イライラ・モーニンググリーティング!


 今日も彼女は絶好調でわたしを痛めつけ続ける。

 言葉で、態度で、ミリアム(わたし)の罪悪感を引き起こし、トラウマを刺激し続ける。


 いいね、フィリア。


 わたしは背を向けている彼女に薄く微笑んだ。


 いいよ、すごくいい。

 実は今日は、この部屋の隣にはエイベルがいるんだ。

 メイド長が夜明け前にエイベルを連れてきて、隣室で一緒に待機してくれた。

 そして彼の魅了はわたしの魔法チートでこの部屋に来た時点で解いてある。


 こんなに早く種明かしをするのはもったいない気もするが、だが仕方がない。

 下々はお上の言葉には逆らえんのだ。


 フィリアは調子良くまるで歌うようにわたしの傷口に塩を塗り込み続けた。


 叔母様は朝の湖を見るのがお好きだったんだそうです。

 湖といえば昨日、ノイエ様が湖へ連れて行ってくれたんです。

 水が気持ちよくてつい素足になって水に入ってしまいました。

 嫁入り前なのにはしたなかったですよね!


 まあ全然効かんが。

 せいぜいうっとおしい程度である。



 だがフィリアよ。

 君は気づいていないようだが、隣の部屋へ続くドアは少しだけ開いているのだ。

 ここの会話はまる聞こえなのだよ。



 わたしは平気でも、ドアの向こうのエイベルは平気ではない。


 この屋敷で勤める者なら知っていて当然のことだ。

 わたしの前でエルリシアの事を話してはいけないと。

 さぞ青ざめている事だろう。


 疑っているか?

 それとも理解したか?


 お前の愛した女の正体を。


 

 しゃべり続けるフィリアに、わたしはお茶を淹れるように言った。


 話を遮られて不快に感じたのか、少しばかり顔をしかめてフィリアはお茶の支度をする。


 出されたお茶は不味かった。

 茶葉がもったいなくて、申し訳ないほどに不味かった。


 カップをテーブルにそっと置き、わたしはメイド長とエイベルを呼ぶ。

 入ってきた2人にフィリアは焦った。

 そりゃ焦るわな。


 エイベルはお茶をひと口飲んで、顔を強ばらせると退室の許可を取って出て行った。

 フィリアがわたしをキッとにらんで後を追いかける。

 その後、2人の間にどういう会話があったのかわたしは知らない。


 メイド長が淹れ直してくれたお茶はとても美味しかった。










 日が落ちて、薄紫色に世界が沈み始める中。

 招待客達が次々集まってきた。


 19世紀のイギリスでは15分ぐらい遅れるのがマナーだったという話もあるが、ここではそうではない。

 それぞれの身分にもよるが、この場合30分くらい前には到着して、案内された部屋で会話したり、室内の絵画を見たりしながら待つのがマナー。


 ただしウィクトル殿下は普通こういう場所へは来ないので、今回遅れて到着する予定だ。



 時間が近づき、わたしはアル兄様にエスコートされて食堂へ入る。

 今日は朝からフィリア以外のメイド達が全力でわたしを磨き上げてくれた。

 なので、見た目の幻惑魔法もかけていない。


 公爵令嬢、ミリアム・イデ・アスタークとして美しく装った姿で、攻略対象者達の前に初めて現れた。


 ポカンとする者。

 どういう事だと表情を変える者。

 驚きよりも騙されたと怒りが先にくる者。

 感情を表に表さないよう無表情を作る者。


 お前らが散々おとしめたミリアムは、本当ならこんなに美しい娘なのだ。


 どうだ、うちのミリアムは、とわたしは誇らしい気分で席についた。


 攻略対象者達も、冷静さを取り戻そうとわたしから視線を逸らす。

 まあ大体考えている事は予想がつく。


『どんなに美しく見せても所詮は汚れた娘』

『一度奴隷に落ちたらその事実は何をしても消せない』

『これだけ見た目がいいなら妻にするのも悪くはない』

『使い道はいくらでもありそうだ』

『いい買い物になりそうだ』


 とか、そんな辺りだろうか。

 バカな奴らだ。

 そんな奴らにうちのミリアムはあげません!


 わたしは壁際に並ぶ使用人達の中にいるフィリアの様子を確認した。


 おう、睨んでる睨んでる。

 たーのすぃ──。


 全員集まったのに空席がある事をいぶかしむ攻略対象者達をよそに、アル兄様が時間になったので使用人達に合図を出す。


 晩餐が始まった。







 

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