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晴れた日は庭で

いつも誤字報告ありがとうございます!



 帝国は薔薇の国である。


 それはゲームのタイトルが『帝国に咲く薔薇』である事からも分かる通り。

 

 薔薇を愛する皇族のために長年、品種改良が行われてきて、今では季節を問わずに年中咲いている。

 冬の最中でも温室だけでなく庭園でさえ薔薇が咲くのだ。


 もはやそれは薔薇ではないのでは、と思わずにはいられない。



 精霊が絡んでいるらしく、この世界の、というより我が帝国に咲く薔薇は、野生種か魔界植物かというほど、強く逞しい。


 もちろん我が家の庭でもそこかしこに咲き誇っている。

 

 そんなどこにでもあると思われがちな薔薇だが、一応品種により一般的に流通しているものと、ごく一部にしかないものとがある。

 庶民の家の生垣に使われる薔薇と、我が公爵邸の庭の薔薇とは金銭的な価値も桁違いだ。



 フィリアはそんな、我が家のお高い薔薇を大きな花瓶いっぱいに集めてきてくれた。


 しかも棘のない品種のものをしっかり選んで。


 わたしが『好意的に接するように』と命じているのでエイベル以外は誰も何も言わなかったが、普通なら一発で職務が変わってもおかしくない。











 昨日の雷雨から一転、今日は朝から気持ち良く晴れている。


 婚約者候補たちもさっそくやってきた。

 午後一番の訪問はノイエ・デオリオール。子爵家の長男だ。


 兄の友人という事だが、兄自身は学園で一緒だったがせいぜい知人程度。

 昨日の雷雨が心配で様子を見に来たらしい。


 そしてキース・アスターク、父様の従兄弟の息子。


 この2人が我が家の玄関ホールで顔を合わせた。


 互いに笑顔で牽制し合っているところへ、フィリアが2階から降りてきて、わたしは誰とも会いたくないと言っている、と伝言を伝えた。


 もちろん2人はびっくりである。


 わたしが会わないと言った事ではなく、2階の踊り場に飾られた故人であるはずの当時子爵夫人だった女性にそっくりのメイドが現れたのだから。

 フィリアに興味津々の2人は、私の様子を知りたいとフィリアを引き留め、それならとフィリアは2人を庭へ誘った。


 初めて会ったばかりの男性2人と部屋の中で話すのははばかられるから、と言っていた。


 いやそれそのまま玄関ホールで話せば良かったんじゃないかな。

 というか君、昨日この屋敷に着いたばかりで話せるほどわたしのこと知ってんの?

 そもそも仕えている主人の話を簡単にしちゃいかんよ?


 突っ込みたいところは多々あるが、実は一番の問題はそこではなかった。

 彼女が誘った先だ。



 我が家の庭は特別な薔薇で来客の目を楽しませることができる。それも年中。


 そんな薔薇の庭だが、今日はわりと見た目がよろしくない。


 雷雨の後という事もあるが、屋敷から近い場所の薔薇を、昨日フィリアがきっちり摘んでくれている。

 おかげでわたしの部屋は薔薇で美しく飾られているが、かわりに庭は、というわけだ。



「今日は咲いている薔薇が少ないな」


「そう言えばそうだな。昨日の嵐は、この辺りだとそんなにひどかったのか?」


 なにしろ強く逞しい野生の魂を持つ薔薇がその数を減らすほどだ。

 聞いて驚け、その嵐はお前らの目の前にいる。


「いえ、昨日、お嬢様が部屋に薔薇が欲しいと仰ったので、こちらのものをいくらかいただいたんです」


「昨日? あの雨の中をか?」


「それに君はさっき、昨日着いたばかりだと言わなかったか?」


「ええでも、お嬢様からの最初のお願いでしたから、わたしもつい張り切ってしまって。あとで怒られてしまいました」


 エイベルに、な。

 ちゃんと説明したまえよ。まあわざとなんだろうから別にいいけど。


「なんて事だ。雷も鳴っていたのに。怖かっただろう?」


 言いながらノイエはフィリアの手を両手で握る。


「メイドが配置換えを希望してすぐにいなくなるとは聞いていたが」


 キースは眉根を寄せてノイエからフィリアの手を奪った。


「そんな事ないんですよ、わたし辺境育ちなので結構体力あるんです!」


「そういう問題じゃない」


「全くだ」



 さて、わたしはこの様子を、フィリアの後ろからステルスで一緒についてきてずっと見ていた。


 現在フィリアはウェイティングメイドなる地位にいる。

 主にこの家の令嬢であるわたしの面倒を見る立場だ。


 だがしかし、彼女はここで何をしているのか。


 お客を接待するための、あるいは主人が楽しむための庭の景観を台無しにして、その主人を訪ねてきたお客と楽しくやりとりする。

 まあちょっとぐらいならいいけどね。


 だがその後も話し続ける彼らに、わたしはなんだか馬鹿馬鹿しくなってその場を離れた。

 好きにしてくれ。





 義姉のエルリシアの美貌は帝都でも有名であった。

 しかも当時の皇帝の孫という事で、彼女を妻にと望む声は多かった。

 彼女が兄と婚約したとき、多くの男性が涙したという。


 

 そんな義姉とそっくりなフィリア。

 しかも魅了のスキル持ちだ。


 前日のエイベル、そしてこの日のノイエとキースを皮切りに、男たちは次々とフィリアの虜になっていく。


 うん、逆ハー狙ってるな、これ。










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