攻略対象者たち
募集の噂を流して( ただし地域限定で )、すぐにやってくるかと思ったフィリアはなかなかやって来なかった。
その間に我が公爵邸にやって来たのは誰かと言えば、各種取り揃えの攻略対象者様方だ。
ご記憶だろうか。
公爵の友人2人、ミリアムの婚約者候補である親族の男性3人。
このほかに屋敷に一緒に住む執事。
以上6人が攻略対象者である。
正直に言おう、わたしは覚えてなかった。
なので前回ゲームやったさいにメモした記録を引っ張り出してきた。
それをちょっと紹介してみたい。
まずは我が兄、アスターク公爵の友人2人から。
ノイエ・デオリオール、デオリオール子爵家長男。
ミリアムと結婚すれば多額の結納金が入ってくると考え、旧交を温めにやってきた。貧乏貴族。
ジュール・カイエン、カイエン侯爵家次男。
女好きで噂の公爵令嬢を見てみようとやってきた。悪気のないクズ。
続いて親族の男性3人。
お気づきかと思うが、現在わたしは皇太子と婚約の約束をしている。
第4妃候補はと言えば、彼女はそろそろお亡くなりになるはず。もうなったのかな? よく分からん。
なのになぜ婚約者候補が公爵家とはいえ親戚から3人も出てくるのか。
もうお分かりだろう。
ヤツら自称なんである。
痛い、めっちゃ痛い……!
勝手にひとんちやってきて婚約者自称とかめっちゃ痛い!!
だがまあ彼らにも彼らなりの事情がある。
このままでは跡取りがいなくなると騒ぎ出した親族に、アル兄様がなんの対応もしなかったからだ。
決めゼリフは『エルリシア以外の妻はいらん』。
だって生きてるからね。いまだに嫁LOVEだからね、うちの兄。そらいらんわ。
だが親族はこれを聞いて『しめた』と感じたのだろう。
それならわたしに夫をあてがい、できた子供に公爵家を継がせれば良いと考えたのだ。
兄はそれらを無視し続けた。
結果、それぞれのご家庭でお気に入りの息子さんたちが我が家に送り込まれてきた、というわけなのだ。
ポイントは「お気に入りの」。
優秀とも性格がいいとも限らない。
そんなお三方がこちら。
リオン・ケンドリック、アル兄様の母方の親族。なので、わたしとは血が繋がっていない。
ビル・テセウス、わたし達の祖母の親族。つまり先々代の公爵夫人繋がり。
キース・アスターク、父様の従兄弟の息子。わざわざアスターク領からかけつけていらっしゃった。
皆さん、事情はいろいろだが一応働いている。
街を預かっていたり、騎士だったり。
だが1人だけ違うのが執事のエイベルだ。
平民ながらにその美しさと能力の高さで貴族の家で下男から始めて小姓となり、成長して子供のいない執事に気に入られて養子となった。
そして今では我が家で執事をやっている。
本来なら我が家は特殊使用人のみで固めるところだが、彼だけは他家から引っこ抜いてでも我が家に居てもらわねばならない。
だがどこにいるかも分からないので探すところから始めなければ、と考えていたら、わたしのために帝都の屋敷を開けた途端、向こうからやってきた。
前の家はいいんか、と思ったが、紹介状まで持ってたからいいんだろうね。
そういうわけで、フィリアがやってくる前に帝都の公爵家には攻略対象者が全員揃って出入りしていた。
めんどくさいんでガン無視していたが、兄が領地に帰ってしまうとわたしが対応しなければならない。
しかもフィリアと会わせないといけないので、訪問許可は出さないといけないのだ。
くっそめんどくせえ……。
フィリアが帝都に到着した日、雨が降って雷もなっていたので、この日は誰も訪問者がなかった。
エイベルだけはうちにいたけど、彼は執事長の下で働く3人の執事のうちの1人である。
わりと忙しくしているので昼間のうちは会う機会がほとんどない。
確かゲームでは夕食のときに初顔合わせだったかな?
フィリアがこの6人のうち誰を最後の攻略対象に選ぶのかはまだ分からない。
まさか逆ハーレムはないだろうが、乙女ゲームの部分のみを楽しんでいるらしい彼女ならあり得なくもない。
多分、戦闘イベント飛ばしてデートや屋敷内でのエロイベントのみでクリアしたんだろうな、と思う。
そう、これエロゲーだからね。
エロをこなす、これ大事。
戦闘関連のイベントは、美味しいスチルはいっぱい集まったが、そこまでが本当に長かった。
さくさく進めたい乙女達のため、飛ばしてもクリアできるようになっていたが、それでは隠しキャラと出逢えないとか、やり込み要素だけどやったほうが絶対おトク! みたいな感じがあった。
そうそう、そういえば隠しキャラはサウザン国王の庶子である。
苦労人の、どこからどう見ても善人といった美形なのだが、時々ものすごい腹黒紳士が顔を出す。
虐げられて育つと、どんな人間でも暗黒面を持つようになるという見本のような人だ。
彼を攻略対象にするには6回では無理だから、彼女が今回狙うのは逆ハーレムか最推し。
ここへ来てシナリオを壊そうとはしないだろう。
夜になって、フィリアがエイベルを含む使用人達と一緒に夕食をとったという報告が上がってきた。
楽しそうに辺境やエルリシア『叔母様』の話をしていたそうだ。
まああれだけそっくりなら興味を持つのが普通だろうけどね。
あと、さりげなく「お嬢様は薔薇がお好きなんですね」と、話題を雷雨の中、薔薇を摘みに行かされた事に誘導しようとしていたようだ。
もちろん、うちの子達は優しいからすごく心配してくれる。当然。誰も咎めたりはしない。
だがエイベルくんはしっかり彼女にお説教した。
雷が鳴っているのにハサミを持って外へ出るなどどうかしている、なぜ誰かを呼んで傘ぐらい持たせて一緒に作業しなかったのか、お嬢様の我が儘を全て聞くのは主人を思う気持ちとは違う、1本でも良かった、などなど。
すごいよエイベルくん。
君とはちょっと友達になれそうにない。
ゲームでもそういうヤツだったけど、何度も腹立ったそういえば。
しかし乙女ゲームをしていていつも思うのは、わたしが取るだろう言動がその中にないという事だ。
出る選択肢の中の正解が好感度アップのルート。
それ以外は変わらないかマイナス補正か。
ではそこにない行動を取るとどうなるのだろう。
もしやこれがわたしがモテなかった原因……。
いやいやそんなまさか。
ゲームと現実は違うものなのさ。
だがフィリアは、エイベルの発言に「お嬢様に早くと言われた」「初めて来たお屋敷なので知ってる人がいなくてお願いできなかった」「お嬢様が怖くて……」と返し、最後には涙ぐみはじめた。
リアルエイベルはフィリアのゲーム行動に負けて「すまなかった」と言い、『フィリアに同情し好ましく思ったようだ』と報告を受けた。
なるほど。
そういえば乙女ゲームというのは、攻略対象者に合わせて好感度の上がる行動をとっていくものだった。
選択肢外の言動・行動は相手に合わせていないという事なのだろう。
……いや、やればできるよ?
ほんとだよ?
人に合わせられないとか、そういうのじゃないんだよ?
嘘じゃないって!!




