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挿話:フィリア・フェイリィ

 子供の頃からみんなに可愛いと言われ続けてきた。


 周りの男の子も女の子も、大人たちも可愛らしく笑ってお願いすれば大抵の事は聞いてくれた。


 少し大きくなって、きれいだと言われる事が増えた。

 それに合わせて男の子たちが争うように自分の気を引きたがり、大人たちの中にもフィリアを特別可愛がる者が出てきた。

 そういう大人たちは、フィリアの体に触りたがったり、他の人の目のないところで近づいてきたりする。


 誰に説明されなくとも、フィリアは彼らが彼女を他の子供とは違う目で見ている事を知っていた。

 そしてそれが利用できる事も。



 フィリアは辺境騎士団の副団長の家に生まれた。

 だがただ副団長の娘というわけではない。


 フィリアの母は辺境伯の娘だった。


 物心ついた頃には城へもよく出入りしていて、他の子達よりも幾分かいい服を着て、いい物を食べ、裕福な生活をしていた。

 城へ行こうと誘えば子供たちは喜んでついてきたし、そうでなくとも男の子達はみんなフィリアを優先してフィリアの言う事を聞いた。


 中にはフィリアを冷たい目で見る子もいたりしたけれど、そんな子の事を気にする必要はなかったし、男の中でも特に人気がある騎士家の子供たちはみんなフィリアの事が好きだったし、フィリアも自分の事が特別好きだと考えていた。



 実際には、フィリアは彼ら全員を心の中で嗤っていたけれど。



 だがフィリアが7才のとき、いつもそばにいた騎士家の男の子達が病気になってしまった。


 5人全員、というのが不思議な気がしたものの、彼らの代わりは他にもいたし、大人の男はフィリアが体をくっつけて「お願い」と上目遣いをすれば多少の無理は通してくれた。


 だから特に気にもならなかった。


 それから3年たって辺境でスタンピードが起きて、それが落ち着いた2年後にはサウザンとの戦争、そして3年たったら今度はグラスリアとの戦争が起きた。


 辺境伯である祖父の後継のマックスは、子供の頃は体が弱かったのにスタンピードの頃には丈夫になっていて、その後の2つの戦争も含めて辺境軍とともに戦った。

 そのせいでマックスを支持する人間が増えている。


 以前は長男である伯父が後を継ぎ、その補佐にはフィリアの父がいいだろうと言われていたのに。

 その事を考えると、フィリアはマックスが邪魔で仕方がなかった。


 どうにかして評判を傷つけてやろうとしても、昔のようには上手くいかない。


 騎士家の幼馴染達もフィリアとはあまり口をきかなくなり、また大人達にも以前のように、子供が甘えているように見せかけて近づくことができなくなっていた。



 母はいつの頃からかふさぎ込むようになり、体調が悪いと寝て過ごすことが増えている。

 父はマックスが体を治すのについて行き、辺境にいる機会が減ったからか、フィリアに構わなくなった。

 かわりに厳しい家庭教師をつけ、勉強が捗っているか、会えばそんな事ばかり訊いてくる。


 13才になったら帝都の学園に通うつもりだったのに叶わず、では15才になれば、と思っていたらそれすらダメだと言われた。

 しかも祖父の城で働くことも認めてもらえなかった。



 色んなことが上手くいかない。

 昔はもっと簡単だったはずなのに。


 イライラしながら日々を過ごしていたら、帝都の公爵家でメイドを探している、という噂を聞いた。


 叔母のエルリシアが嫁ぎ、そして亡くなった先の家だ。


 母は半分しか血が繋がっていない叔母の事がマックス同様好きではないらしいが、フィリアは叔母に対して何の感情も抱いていない。ほとんど記憶にないからだ。

 強いて言えば、生きていてくれれば帝都に行っても泊まる先があったのに、というくらいだ。


 だが今回耳にした噂は、フィリアにとってとても使い物になりそうなものだった。


 公爵は、叔母が死んで以来とても気落ちして、再婚もせず領地に引きこもっている事が多いらしい。



 ニタリ、とフィリアは笑った。



 フィリアは叔母のエルリシアとよく似ているそうだ。

 小さい頃は、母がよく祖父を慰めるためにと城へ連れて行ってくれた。


 なら、自分が傷ついた公爵を慰める事ができるかもしれない。

 そして、公爵夫人になれれば。


 そうすれば、こんな田舎とは縁を切って帝都で暮らす事ができる。


 フィリアは母に、城にいる祖父と会わせてもらえるよう頼むため、鼻歌を歌いながら家へと戻って行った。










 すぐさま帝都へ、という事にはならなかった。

 辺境伯の孫とはいえ、フィリアは高位貴族の令嬢の侍女になれるような教育は受けていない。


 せめてメイドとしての最低限の仕事と心構えを、と祖父の城でメイド長から厳しく手ほどきを受け、何ヶ月もかかって辺境を出る事ができた。


 やってきた帝都の公爵家は人の気配のあまりしない、暗い屋敷だった。


 その日は雨で、雷が鳴る中、寒さに震えながらフィリアは屋敷へと入る。


 迎えに出た使用人がフィリアを玄関ホールで待つように言い、彼女はその天井の高い美しいホールをきょろきょろと見回した。


 正面には大きな階段がある。


 2階へと登る踊り場の壁に、大きな肖像画がかかっていた。


 金の髪に青い瞳の、フィリアとよく似た面差しの優しげな女性。


『叔母様』


 そのとき雷が強く光って室内を照らす。


 そしてフィリアは思い出した。


 自分が日本人の前世を持っている事。

 何度もこの公爵邸で過ごした事。

 これまで6度、乙女ゲームのように男たちを虜にしてきた事。


 今度は7回目。

 これが最後のゲームだ。

 そしてその次は、7回のうち1番幸せになる相手を選べばいい。


「フェイリィ嬢、お待たせしました」


 使用人の男性が声をかけてくる。


「はい」


 フィリアはとびきりの笑顔で返事をした。


 ああ、最高だ。

 この世界は、全てわたしのために存在している。









 

いつも誤字報告ありがとうございます。

いよいよ次回から対ヒロイン戦が始まります。


やっとここまで来れました……(涙)

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!



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