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本を読む側のオタク

 結論。


 新刊はなかった。


 近年稀に見る悲報である。


 なんなら『わたし死亡のお知らせ』よりも、『わたし転生悪役令嬢』よりも衝撃が大きいかもしれない。

 人間、何より大事なことってあるよね……。


 落ち込む私の隣でケラケラ笑っているのはもちろん神だ。

 名前はまだな……じゃなかった、名前はまだ聞いていない。今のところ聞く予定もない。


「なんでそんな新刊がないくらいでそこまで落ち込んじゃうかな〜〜」


「オタクには新刊は生きる力なのよ。それに今ないって事はこれから先もずっとないって事でしょ?」


 わたしは幾ばくかの期待を込めて隣の神を見た。できれば違うと言って欲しい。


「うんまあね」


 あっさり肯定かよ!!


 さらに追い討ちをかけられて絶望するわたしに、神は仰った。


「でも入れる事はできるよ」


「マジですか!!」


「マジ。上がったレベルやスキルゲットの権利を使って可能です」


 なんだその鬼畜仕様……!!

 頭を抱えるわたしに神は続けた。


「あの乙女ゲームは100がレベルMAXだよね。だから、単純に1年にレベルを1つくらい上げておけば、カンストは割と簡単。ゲームを一度クリアするとレベルが1上がるから、1年に1回のクリア。それ以外をこの世界を快適に過ごす特典購入に使ってくれれば大丈夫」


 購入って言いやがったコイツ。

 腹立たしいが、しかし背に腹はかえられない。

 わたしは真面目にゲームをやる事を決心した。


 今まで真面目にやってなかったわけじゃないけどね、そんなに危機感なかったんだよね。

 ほら、最初の日にレベルの説明受けて『1年に1回クリアならなんとかなるかー』とか思っちゃったからさ。


「レベルが上がるとステータスも上がるでしょ? そのステータスはレベルダウンしてもそのままだから、普通にレベル100になるよりも強くなれるよ」


 この輝かんばかりの胡散臭い笑み!!

 絶対なんか騙されてる気がする、と思いながらわたしは数冊の本を手にレジへ向かったのだった。








 アフタヌーンティーを楽しみ、服を何着か買って、お酒とチキンとサラダをゲットして、わたしは部屋へ戻った。


「ただいまー」


「おかえりー」


 背後でのほほんとした声がした。

 振り向くと、神がニコニコ笑っている。


 まあいいか、とわたしは靴を脱いだ。


 1人じゃないっていうのは、割と悪くない。







 

 ビールのプルタブを開けると、プシュッといい音がした。

 それを飲みながらチキンとサラダをテーブルに並べて、夕食の支度は終わり。


 わたしがイスに座ると、神も目の前に座ってビールを飲み出す。


「お供え?」


「それそれ」


 ふふっと笑ったわたしに答えながら、本当に嬉しそうにチキンを食べる。どうやら菜食主義というわけではないらしい。

 そういえばお店でも美味しそうに食べてたな、と思い出した。


「そうだ、ずっと訊きたかったんだけど、なんでゲームなの?」


「ん?」


「レベル上げ。なんでゲームなの? 別に他に方法あったんじゃない?」


 ミリアムの世界には魔物が存在する。魔法があって人間がびっくりするくらい強くなれる。

 ならそっちでレベル上げすればいいのだ。

 いっそスタンピードが起きないようにガンガン狩ってしまえばいい……って、それだとミリアムの仇を取りにくくなっちゃうのか。


「まあね。でもこれが一番安全だったし、何よりせっかくだからこの匣を使いたかったからね」


 言って、神は指で上を指す。


 中へ入ってみると分かるのだが、起動したこの世界は匣状のバリアに覆われる。

 内部への干渉を防ぐためなのだという。


 起動を停止している状態だと、小さな半透明の真四角の箱だそうだ。開くと模型の台座が現れるようになっている。


「大体、苦しいとか辛いとかそんなんで最高の結果が出るわけないし。気持ちよく働いてもらうのが一番でしょ」


 へらっと笑って言った神にわたしは苦笑した。

 確かに、気持ち良く働かさせていただいてます。ある程度は。


 100年の監禁状態を「良い」と言えるかどうかは別として、諦めていた本の続きが読める、これはオタクとしてはものすごいモチベーションになる。

 死んだらもう読めない。それが解決するのだ。ここで頑張らんでどうする。


 とりあえず明日は今やってるやつクリアするか!!


 ビールの残りを一気に飲み干して、わたしは勢いよく缶をテーブルに叩きつけた。


「っしゃ!! 次ワイン開けるよ!!」


 夜はまだ始まったばかりなんである。











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