聖獣ツアー開催!
誰も負けると分かってる勝負はしないものである。
サウザンも、スタンピードが当初の思惑を外れてそこまで大きな被害に繋がらなかった事で、開戦を避ける方向へ舵を切り始めていた。
だがそれを笑って見逃しにはできないくらい、我が国ではサウザン憎しの流れが出来上がっていた。
グラスリアはと言えば、傍観の姿勢。
サウザンが追い込まれたところで参戦ぐらいはしてくるかもしれないが、その場合でもサウザンに味方するのではなく、攻め込んで漁夫の利を得る形で帝国の利益を削ごうとするだろう。
サウザン国民にしてみれば利用された挙句に征服されるとかたまったもんじゃない。
そこでサウザン国内に情報を流し、抵抗勢力を支援、戦争が始まると同時に国内から火の手が上がる、という仕組みまで作り上げていた。
陛下達が。
陛下はそろそろ引退するつもりだったのをこの戦争騒ぎで先延ばしにせざるを得なくなり、ご機嫌ナナメである。
さっさと片付けて帰って来い、戻ったら戴冠式だと言っていた。
と、まあそんな感じで。
我が国の戦意は非常に高い。
蓋を開けて見れば、戦いは数ヶ月で終焉へと向かった。
サウザンの宮廷をその手に収めたのは、王の庶子である王子と伯爵家以下の貴族、商人達を中心とした勢力だ。
旧サウザン王家には恨み骨髄だったらしく、王宮も王都の広場もしばらくは血が乾く暇も無さそうだとの話。
そして皇太子殿下と皇子殿下は帝都に凱旋し、国中が勝利と新皇帝の誕生を祝うお祝いムード一色となる中、わたしはこっそり城を抜け出してグラスリアへ向かった。
なぜか?
もちろん、グラスリアの聖獣をぶっ殺しにだ。
ミリアムのバッドエンドには聖獣が関わっているものがある。
グラスリアのものと決まったわけではないが、生かしておくと万が一という事も考えられて安心できない。
それにエルがいるとはいえ、どのような手出しをしてくるか分からない以上、戦争開始までにさくっと殺っちゃうべきだと、わたしのゲーム脳が叫ぶのだ。
というわけでやってまいりましたグラスリア。
ゴッドブレスで強化中のわたしのステルスは、よっぽどの事がない限り相手が賢者だろうが聖者だろうが聖獣だろうが看破する事は不可能だ。
この状態のわたしを見つける事ができるのは、この世界ではうちの家族とうちの使用人たちとサヴァの家族とユニコーン達と皇家の一部の皆様のみである。
めっちゃいっぱい。
だがグラスリアにはいない事は間違いないので無問題。
王城の背後を守る森に忍び込んで、そこに聖獣の姿を確認してわたしは思わず声を上げそうになり、口を抑えた。
いあ、いあ、ふたーぐん……!!
邪神様ですか? そうですか、そうですか、邪神様ですね。
お会いしとうございました。初めてなのになぜか懐かしく感じるこのSAN値が削れる感じ。
ダメだ、わたしには殺せない。
世界に邪神は必要だ。
あの触手で世界の理を打ち破る。
それで世界が終わってしまうとしても、それはそれでいいじゃないか。
世界が邪神様の糧になるのなら、こんな醜い世界滅ぼしてしまっても……。
わたしのSAN値がぐんぐん削れて視野がどんどん狭くなっていく。
すると森の中に一条の光が差し込んで、ユニコーンが邪神様のお体に体当たりをくらわせた。
「なんて事を───っっ!!!」
わたしの悲鳴がこだまする中、サヴァとクロも現れて邪神様に突撃していく。
たちまち邪神様は悲鳴を上げて世界から消えていった。
正気に戻ったわたしはみんなにお礼を言いながら、ステルスだけでは精神攻撃は防げないと理解した。
だが戦いはこれで終わりではない。
わたしが探している聖獣はミノタウロスタイプである。
ヤツを始末するために次の聖獣の情報を手に入れなければならない。
しかし恐ろしい敵だった……。
わたしはユニコーンの背に乗り、聖獣のいた森の空き地を、最後にもう1度振り返る。
そして小さくつぶやいた。
「いあ、いあ、ふたぐん……」
さらば、邪神様。いつかまた会う日まで。
それから数日かけて大陸中の闇サイドの聖獣をぶっ殺して回ったわたしは、ミノタウロス型も片付けて、スッキリ爽やかな思いで後宮の部屋へと帰宅した。
そこでわたしを待っていたのは、不機嫌MAXな新帝陛下と新皇太子殿下だった。
式典やらパレードやらパーティやらで忙しかろうと、『しばらく実家に戻ります』と書き置きをして出たのだが、エルが思いっきりバラしてくれたらしい。
覚えてろ、あのケダモノ。
そしてわたしはこってり絞られて、説教と反省文提出と、1週間耐久お妃教育という名のスペシャルお仕置きを受けるハメになったのだった……。
聖獣は敵。
これ絶対。




