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イゼルアレア大陸 解放の300年

 帝国とは、いくつもの文化や民族をその身のうちに持つ国家を指すという。


 つまりは戦争でよその全く違う国家を吸収したら帝国と名乗れるんではないかと思う。



 そういう意味では、我が帝国はまさに帝国オブ帝国。

 別の大陸までは手を伸ばしていないが、大陸近くの島国ぐらいならうちのものである。


 といっても大陸統一とか成し遂げちゃっているわけではない。

 300年前、人間が闇の支配から解放された時代、国とも呼べないような小さな集団が統合されていったうちの1つ、そしてその中でも最大の規模であったのが我が国であった。



 ようするに帝国とか言っちゃっても、その母体ですら出来て300年と経っていない、歴史の浅い国なんである。



 それに比べると、サウザンやグラスリアは歴史のある、この大陸では長老クラスの国家だ。


 サウザンは500年、グラスリアに至っては800年というご長寿さん。

 しかしそれは、闇に溺れ、媚びへつらい、民を生贄に差し出してきた過去があるという事でもある。


 それ以外に国として生き延びる手段が無かったとはいえ、血を流し苦しんできた民からすれば恨み千万であるし、守ってくれるものもなく飢餓と恐怖に肩を寄せあい、それでも生き続けた者達からすれば悪手でしかない。



 300年のうち最初の50年ほどは、小さな集団が村を作り、村どうしが集まって街になり、さらに街が集まって都市となり、国が興る過程がまるで早回しのように進んだ。

 闇の支配が衰えたとはいえ、グラスリアのようにいまだ聖獣を擁する国もある。

 固まって力を持つ事が急務だった時代。



 それがある程度の形となった頃、国どうしの戦争が始まった。



 数ヶ月で片がつく戦もあれば、10年以上続くものもある。

 その中で最大の領土を得た最強の国家が我が帝国であった。

 ここまで解放から200年近くかかっている。



 大陸が平和を手にしてまだ100年といくらか。


 解放前の闇の時代の文化があるので、ファッションや嗜好品などはそれなりに発達している。

 石鹸や化粧品、食のレシピなど転生チートでひと儲けできないのはそのためだ。


 ゲームでもその辺りは描かれていた。

 デートに行けば可愛らしいお店で、清潔で洗練されたお仕着せの店員が、ケーキやパフェ、パスタにサンドイッチ、なんならインスタ映え間違いなしのフォトジェニックスイーツとか出してくれる。

 もちろんアフタヌーンティーセットもあれば、和スイーツだって完備だ。



 誰だ、今、料理に関して我慢とかしてないって言ったヤツ。

 先生はそういう人の揚げ足を取るような発言は好みません。

 わたしが我慢してるって言ったら我慢してるんです。

 どう我慢してるか言ってみろだと?

 ならお前パンをおちょぼ口サイズにちぎってちびりちびり食えんのか。

 ティーカップを摘んで持って優雅に飲めんのか。

 品良く優雅にとかやってられっか!!

 寒い日にはこたつにどてらで鍋囲んでテレビ見て、暑い日はタンクトップに半パンでアイスとかポテチとか食いながらソファでごろごろしていたい。それが人間ってもんだろう!

 品がないだと?

 じゃあお前ら耐えられんのかNOこたつ鍋、NO半パンアイスに! そんなんNOライフだろうが!



 ……すまん、話を戻そう。


 和スイーツがある事からも分かるように、この大陸ではないがよその大陸へ行けば和風の国もある。

 ただ残念な事に外海は巨大なモンスターが多く出没するため、よほどの腕利きの船団に多くの護衛がいないと、そう簡単に海は渡れない。


 だがささやかながら交流はあるため、和食だってしっかりこちらに根付いているというわけなのだ。




 闇は、その性質から様々なものを覆い隠す方向に動く。


 衣食住に絡むものは、解放前に王族や貴族のそばで働いていた人たちが市井に文化として流通させた。


 だが簡単には広がらなかったものもある。

 例えば動力エネルギーなどがそうだ。

 文明の利器と言われる類のものは、敗色が濃厚になった時点で技術者ともども葬り去られた。


 現在この世界を動かしている神々も、それらを人間に使わせるつもりはないようで、石油や石炭どころか蒸気エネルギーでさえ教会から禁忌として制限されている。


 まあそちらは魔力エネルギーがあるのであまり問題はないのだが。


 




 前置きが長くなってしまったが、そういった諸々の事情で、我が祖国は残念ながらこの大陸ではいまだ新参者扱い。


 デカかろうが強かろうが所詮は若造、と見下されてたりもする。


 しかも聖獣もいない。



 300年たって力を取り戻してきた各国に、そろそろご退場いただきたいと願われている国。

 それが我が帝国の立ち位置だったりする。



 そんなわけで、実はサウザンとグラスリアだけが敵ではなく、国のあちこちに火種はあって、グラスリアの企みが明らかになってからもそうすぐには動けなかった。


 辺境を陥して、そこを橋頭堡に戦を進める作戦については、スタンピードが起きないよう、起きても小規模でダメージが少なくて済むよう、辺境軍が動いている。

 なので辺境の事はしばらく彼ら自身に任せて、陛下達は国内の貴族を締め上げる方向で動き出した。



 グラスリアには聖獣がいるが、我が国の聖獣・エルのほうが実は格上である。


 生まれて2年とたっていないエルがなぜ、と思う方もいるだろう。

 だがこれには覆せない世界の理が関わっていた。



 この世界は中立へ向けて動いている。



 現在、各地に残る聖獣は、闇の支配下にあった時代に降りてきたものだ。

 呼び出したのはそのほとんどが闇である。

 一部に光もあるが、彼らは平和主義で引きこもっているので除外する。


 ひるがえって、我らがエルは中立である。


 なぜならわたしが中立だから。


 そして帝国も中立。

 リュゼ様を崇める教会が中立で、その教会を国教として定めている我が国も必然中立なんである。


 そもそも、教会も帝国も成り立ちが300年前の解放に関わっているので当然と言えば当然。


 というわけで、唯一の中立の聖獣であるエルが、この世界の聖獣の中では最も力を持っているのだ。



 そんなエルの絶対的な守護を受けて、国内に巣食う不届き者をひとつずつしっかりと退治していく。

 上手くやっていけそうな国とは絆を深め、潰しといたほうが良さそうな国は内乱の手助けをする。


 焦らず、ゆっくりと。


 物価が急激に上がらないように。


 人々が未来に不安を抱かないように。


 ゆっくり、ゆっくりと時間をかけて戦争の準備は進む。


 そして5年。





 いよいよ、戦争が始まった。











 

次の回からいきなり5年後に飛びます。多分。

わたしにしては珍しくタイトルが決定しているので、たまには次回予告を。


次回「オレ、シャチク オマエ、トリシマリ」


転生者ミリアムはこの絶望と呪いを解く事ができるのか……!

そして作者はまだ1文字も書いていない状況でタイトルを告げちゃっていいのか! 待て、次号!


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