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ソイツはやっぱりすごかった

 僕は騒ぐポンコツを眺めていた。


 ふとデス・スパイダーを見る。動く気配なんかないじゃないか。


「うわ!ちょっと、誰!」


 イナリがまた叫んでいる。


 ふとそちらを見ると、たしかに人がいた。鉱人だろう。


「何やってんだ?おま・・え・・ら?」


 そこまで言って開いた口が塞がっていない。


 気を取り直した鉱人がこちらへと近づいて来た。


「小僧、お前がやったのか?」


 真剣な顔で聞いてくるので頷いた。


 それを確認して鉱人はデス・スパイダーを検分し始めた。


 一通り検分すると僕を見た。


「お前、マジックバースト使えんのか?」


 オッサンが何言ってんのか分からない。マジックバースト?何それ、おいしいの?


 オッサンは僕を見て呆れている。


「で、どうやって倒した?明らかに一撃だよな?胴に空いた穴が致命傷だ。頭と触覚に傷があるが、死後に付いたもんだな」


 と、見事に言い当てる。


 なので、これまでギルドで行った説明をオッサンにも行う。


「ハァ?結界圧力突破を実現しやがっただとぉ?しかも、『森の民』の竹矢でかよ」


 オッサンは信じらんねぇ~と天を仰いだ。


「お前、自分のやった事理解してるか?鉱人の狩人が素材と技とさらに魔力操作を駆使して何とか実現しようとしてる『夢』をサラッとやってのけてんだぞ。俺たちの時間返せよ!」


 いや、時間を返せとか言われても・・・・・・


「まあ、イイや。そのうち誰かがやったんだ」


 オッサンは何だか勝手に納得して、デス・スパイダーの腹を切り取った。


「これはお前が持ってろ」


 そう言って一抱えもあるデッカイ塊を僕に渡してきた。


 そいつは大きさに反して覚悟した程の重さはない。鉱人でない僕でも持てるのだ、あのデス・スパイダーの巨大さからは想像もつかない。


 オッサンは僕にデス・スライダーの腹を渡し終えると、徐に奥へと歩いていく。


 僕もそれに続いていくと、壁には蜘蛛の巣が張ってあった。


 オッサンは当然の様に軽快にそれをよじ登っていく。


「おい、小娘、糸に触るんじゃねぞ。なんなら、その本谷製の槍で切ってみろ」


 下を見下ろしたオッサンが糸に近づこうとしていたイナリにそう声を掛ける。


「何よ、あのオッサン。アイツごと落としてやる」


 そう言って槍を振るうが、張られた糸が切れることはなかった。


 唖然とするイナリに何の感情も見せることなく作業を続けるオッサン。


「そらそうだ。金属ごときでデス・スパイダーの糸は切れやしねぇよ。鉄の5倍、谷の合金の3倍。たまに見つかる魔銀の2倍の強度がある。コイツに敵う素材なんかありゃしない。ま、それだけ希少って事でもあるがな」


 そう言いながら手早く糸を切り落としていくオッサン。


「じゃあ、アンタが使ってるのは何よ!」


 残念小娘さんがオッサンにそう叫ぶ。だいたい予想は出来るよ。あのナイフ、蜘蛛の糸を何らかの方法で強化したシロモノだと思う。


「これか?糸を切るには糸しかないからな。デス・スパイダーのアゴと同じ硬度を持たせた蜘蛛の糸だ」


 ほらね。


 何が悔しいのだろう。地団太を踏むイナリ。


 そんな騒がしさをBGMに、オッサンはテキパキと巣を解体してリールに糸を巻き取っている。器用だなぁ~


「アンタ、狩人とか言っていたけど、ここどこ?」


 いや、何、その脈絡もない質問。


「どこって、迷子なんだろう?まずは谷へ来てからの話だ」


 「ホレ」と、オッサンはイナリにも頭部と脚を渡す。


 どうやら頭部や脚も軽そうだな。体全体が軽量な造りなんだろう。


 そして、来いとばかりに首を振ると歩き出した。


 僕たちが分け入った谷の分かれ道へと進んでいく。そこは上へ上る小さな谷であるはずだ。


 いや、だった。


 そこを上るとすぐに小屋があった。


「とんでもない迷子だな、お前さんがた。どう狩るか何カ月も悩んでいたデス・スパイダーを迷い込んで即狩っちまうなんてよ」 


 小屋で荷物を整理するとすぐに発つらしい。


 オッサンについて上へと登ると荒涼とした大地が姿を見せたるが、迷いなく歩を進め次の谷が見えて来た。


 その谷にある坂道を降りていく。


 そこから見下ろすと、なるほど、町だね。


 そこではなく、ある程度高い位置に取り付くように、或いはくり抜く様にして道や建物が並んでいた。


 道を進んでいくオッサンは迷いなく降りていき、水平な道へと至るとそのまま進んでいく。


 そして、一つの建物へと入った。


「アーシャ。大物だ」


 オッサンがそう言ったそこは、どこか冒険者ギルドに似ていた。


 オッサンが声を掛けた先を見ると、とんでもない美人が居た。


「アレクさん、とうとうデス・スパイダーを狩ったんですね。おめでとうございます」


 にっこりそう言う美人。そしてこちらに気が付いたらしい。


「そこのふたりは地上の方ですか?」


 そう言って僕たちを見る。


「狩ったのは小僧だ。谷の連中どころか、鉱人全体が驚くんじゃないか?コイツ、マジックバースト習得してやがる」


「え?」


 美人も立ち上がって僕を見た。


 そして、受付を出てこちらへとやって来る。


 鉱人の常で身長そのものは僕と大差がないのだが、何と言うか体のつくりそのものが非常に頑丈そうだ。顔は美人なんだけど、体つきはガッシリ系。


「『森の民』よね?という事は、魔法脆性のある竹矢を使うんでしょう?」


 疑いの目を向けられる。


 が、彼女にも再度説明を行うと納得している。何でこうも冒険者ギルドと違うんだろう?


「という事は、入れ物は何でも良くて、そこに魔力塊を詰める事さえできれば良いと?これは考え方が変わりそうね」


 そして、新たに人がやって来た。


「アレクのオッサン、とうとうアレ狩った?」


 顔はイケメンのガチムチ。鉱人だもの。 

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