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それは、さすがにさぁ~

 エレベータからの道は断崖に沿って続いている。反対を見れば大草原と水平線まで見渡せる湖面だ。


「きれいな水だね」


 俺がそういうと、イナリが慌てだす。


「その水には触れない方がいいわよ。魚も住まない毒なんだから」


 毒なのか。いや、分かる。塩分濃度がトンデモなく濃いのだろう。死海という塩湖が思い浮かんだ。塩分濃度が非常に高くて魚が住めないらしい。人が普通に浮くが、その水を飲んだり、本当は浴びるだけでも問題があるのだという。きっとそんな湖なのだろう。


「岸の白いのは塩かな。砂糖って事は無いと思うけど」


 そう言いながら白いものを触る。イナリもそれについては注意をしてこない。


「うん、塩だね」


 ちょっとではなく辛い上に苦い。


「ここの塩は鉱人が精製したモノじゃないと使えないわよ。その苦さを取らないと食べられたモノじゃないし」


 経験者は語るって奴かもしれない。


 そんな事をしながら進んでいくと、断崖は複数の割れ目を見せてくる。


 ひときわ大きな渓谷は水が流れて人が踏み入る隙がない。そんな大河に掛けられた橋を渡る。


 その先にもいくつかの峡谷がある様だ。


「こんな橋あったっけ?河口に着く前に崖を上る道があったような?まっ、いっか」


  などと供述しているが、これ、絶対に道を間違えた奴だ。


「本当に大丈夫なんだよね?」


 そう聞いてみたが、自信満々に振り返る。


「当たり前でしょ。大抵はどの谷へ降りても、登って行けば北の山へ行ってるはずだから。そのうち谷間の連絡路で行きたい谷へ行けるのよ!」


 ホンマかいな・・・・・・


 僕の不安を余所に、イナリは自信満々で先へ先へと突き進んでいく。


 そして、いくつかの峡谷を通り過ぎ、ココでもないアソコでもないと言いながら岸を歩き続けること二日。


 その間、コイツ、ホントにイナゴを狩って食べると言い出したので、一度、イナゴを探して谷へと分け入って、ホントに狩った。

 もちろん、こんな所に薪になるようなものも無いので、狩ったイナゴを持ち込める店を探して調理してもらった。


 うん、たぶん、蟹や海老に近いんじゃないかな?その足の肉はかなり美味しかった。胴は店の人に料理代がわりに渡したのでどうなったか分からないけれど、脚以外に出された料理もおいしかったから、それに化けたんだろう。たぶん・・・・・・


 そんな行き当たりばったりを続け、二日目の昼過ぎ、何やら心当たりのある渓谷を見つけたらしい。


「確かこんな感じだったわ。入り口は狭いけど、奥に行くと町があるの。で、隣の谷と町同士が穴で繋がってるのよ」


 と言うではないか。その入り口には人気すらないというのに。


 それでもどんどん進んでいくイナリ。


 彼女について僕も歩みを進める。


 進んでいくと谷は広がりを見せ、さらに枝分かれする様だ。


 そして、大きな方の谷を迷いなく進んでいくイナリ。


 渓谷は曲がりくねっているので先の様子は全く分からない。本当にこんなところに街があるんだろうか?


 ふと上を見上げると、本当にものすごく高い所に空が見える。この谷が増水したら僕らは助からないだろうが、そもそもここは荒野。雨が降る事もそうそうないだろうし、壁を見ても、最近水が流れたらしき跡は見えない。


 さらに進んでいくと、また枝分かれした谷だった。どうやら一つは急速に細く、そして地上へ上っている様子だ。主となる渓谷はさらに深く続いている。


 その谷を迷いなく進むイナリ。


 そこで、僕は違和感を覚えた。今、何か結界のようなものを越えた気がした。


「うそ、蜘蛛の巣」


 前方をどんどん進んでいたイナリがそう言って立ち止まった。


 僕の位置からクモの巣は見えない。が、何かが視界内に居るのは確かだった。


 気配を消して辺りに視線を向ける。先入観なくただありのままを視る。


 すると、動くモノが見えた。ゆっくりとそれは動いている。だが、見ようとして見えるのではなく。視る事しか出来ないソレ。完全に透明化しているのだろう。

 しかし、僕にはわかる。岩の模様とわずかに違うその違和感が。


 無心で弓と矢を手に取る。ここで殺気など出せば相手に感づかれてしまう。ただ無心に手を動かす。


「ちょっと!何で蜘蛛の巣がある訳?もしかして、町が食べられたとか?」


 イナリが騒いでいるが気にしない。


 自然な動作で矢を番えて引き絞る。そして、矢に魔力を流し込んでいく。シールドボアの時と同じく矢じりと節の中へと魔力塊を作り、その時を待った。


 待つこと数秒。蜘蛛がその姿を現した。その時を逃すことなく矢を射る。


 クモの脚の付け根、胴だろうか?そこで眩く発光し、クモは勢いを失い、地面へと落下した。


「ちょっと!何この蜘蛛」


 それは人の大きさを超えている。本当に大きな蜘蛛だった。


「デス・スパイダーじゃないかな?」


 ナナップにあった忘れの海に関する資料に載っていた虫。それも会ってはいけない類の。


 デス・スパイダーの巣は実際には目くらましであり、そこには居ない。


 ただし、巣に近づいた獲物を巣へと追い立てる様に現れるのも特徴だ。当然だが、逃げ帰るという選択肢は巣を見た時点で消失している。不可視の結界によって巣へ向かう以外の道が塞がれているのだから。


「倒したんでしょうね」


 いや、そこ、わざわざ聞くとこ?フラグちゃう?


 イナリは槍でクモを突く。


「動いた~!!」


 一目散に巣の反対側へと逃げていく。


 もちろん、すでに結界は無いので渓谷の陰へ隠れることも可能だ。


「ちょっと!なんでそんな平気な顔してんの!動いたでしょ!」


 いや、今のは槍で突いて動かしたんだけど?まさか、ここまでポンコツだったとは・・・・・・  

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