ちょっと自分でも何言ってるのか分からない
「ほう、オーガが出たのか?」
受付のオッサンがやって来た。
イナリが騒いでいたから聞こえていたんだろうが、オーガか。
「そう、魔王。大鬼の親玉」
それで通じるんかい。
「アキッレさん、知ってるんですか?」
俺はついついオッサンに聞いてしまった。
まあ、ギルドの職員なんてのはケガをしたとか年齢だとか、そういった事情で冒険者を引退した人が就いている場合が多い。
中には現役冒険者でありながら、ギルド職員となって魔物の調査や討伐確認などを行う人もいる。
大半の冒険者は中級で技量の壁に突き当たるか、年齢的にその先へと進めなくなる。
まあ、そりゃあそうだ。
何だっけ?
プロスポーツとかいうのがそれらしいな。
多くの人がある程度のところまでは出来る様になるが、その技で稼げるのはごく僅か。
冒険者も実際にはそうだ。
森の民の様な弓の名手ならば、狙い違わず獲物の急所を射抜けるが、普通の弓使いではそこまでは難しい。
そう思ったからナナップへ出てきたのだが、実際の所、ここで成功するには魔石矢じりという超高価なモノを使わないといけないのが普通らしい。
そのため、森の民だからと言ってそう簡単には稼げない。
それは良いとして、元冒険者だからこそ多くの知識を持ち、助言が出来るし、冒険者の側も信頼を置けるって関係性があるのだろう。
やはり、物語の様に冒険者ギルドの受付が綺麗どころを取りそろえたって、有効に機能する訳がないんだよな。
もちろん、中には元有力冒険者のお姉さんも居て、ひと睨みで冒険者を黙らせたりしているけれど・・・・・・
「俺も元冒険者だしな。北へ船で渡った事もあるし、荒野の鉱人街へ行ったこともある。北じゃあすばしっこいゴブリンやオークみたいな魔物がいたり、オーガみたいな人よりデッカイのが居るんだ。冒険者なら自分の限界に挑んでみたいじゃないか。鉱人の谷にはでっかい虫も居るぞ。『森』みたいに自然豊かで食える動物ばかりって所じゃあないが、腕の試しがいはある」
と、まさに冒険者らしい返事が返って来た。
「それでだ、北の森の奥にはオーガの親玉が居て、時折大暴れするって言われてるそうなんだが、よほどの大物が生まれなきゃ起こらないから、この百年くらいは起きていないって聞いてたんだがな」
要するに、スタンピードって奴だな。
「百年どころか、二百年くらい起きていないって。千年くらい昔からの記録があるらしいけど、今回はかなりの大規模だって」
と、イナリが補足している。
そうか、千年も記録がある中でも大規模か。じゃあ、何で応援頼まれてるのに行かなかったんだろう?
不思議そうな顔をしているように見えたんだろう。イナリが僕を睨んでいる。
「仕方がねぇぞ。オーガもシールド系の魔術を使うんだ。『森の民』じゃ相手にならねぇよ。ゴブリンやオークを削り取るのは造作も無いんだろうがなぁ」
と、アキッレも僕を見た。
そうなると全く持って意味が分からない。
「でも、コイツなら魔力を込めた矢を使えるからきっと役に立つんだけど」
と、イナリが言う。
「俄かには信じられないんだがな。矢に魔力を纏わせたって、シールドボアの表面で霧散するだけじゃないのか?光って見えるだろうから効いているように見えるだけで」
まあ、そのアキッレの推察は間違っちゃいない。実際に最初に試したのはソレだった。そうか、穴が開いていると思ったけど、それすら怪しかったか。
だが、そうならなかったことを説明しておく必要があるだろう。
「僕も最初は失敗したよ。矢に纏わせたら、光ったけれど、それだけだった。だから、ホラ」
そう言って矢を取り出す。あのほぼ消え失せた矢を。
「なんじゃこりゃあ」
アキッレがそれを見て驚いている。いや、驚けるって事は、竹矢を知っているという事か。
「『森の民』の矢がこうも簡単に溶けた様になるって、魔力で溶かしたのか?」
なるほど、そこまで分かってるのか。
「そう、魔力で溶けたんだよ。節の中に魔力塊を作ってそいつをシールドボアに放つとこうなるんだ」
そう説明した。が、言ってることが分かっていないというか、なんだか呆れた顔をしている。
「いや、理屈は分かるんだが。そんなバカな事を成功させる奴が居るとはな。魔石の代わりに魔力を貯められるシロモノを付けた矢ってのを誰もが一度は考えるんだ。そして、失敗する」
と、アキッレは説明してくれた。
「そうだと思う。僕は矢じりと節ごとに全部で3ヶ所に魔力塊を作って放ってたから。矢じりの魔力で結界部分に反応させて、一つ目の節の魔力で穴を穿って、そのあとの二つが皮や肉に反応したのかな?」
と、現象から想像した事を説明した。
これはもう片方の記憶にある矢のイメージなんだけど。矢がすり減りながら壁を穿って行くんだ。ちょっとどんな状態なのか理解に苦しむ話なんだけど、そうなってた。
どうやらアキッレも理解が出来ないらしい。
そんなこんながあって、夕暮れ間近にようやく救援に向かった冒険者たちがギルドへと戻って来た。