何故かそんな話になってしまった
「なんだと!」
ギルドへと到着した僕たちは受付に居たオッサンにシールドボアに襲われたことを伝えると、いきなり叫んだ。
そして、立ち上がるとカウンターからホールへと飛び出してきた。
何だろうかコレ。
冒険者ギルドと言えば、綺麗なお姉さんが受付に居て、冒険者がそのお姉さんに憧れをって片方の記憶が訴えているけれど、なんで冒険者の受付が綺麗なお姉さんなのか謎。いや、居ない訳ではないけれど、元冒険者なので見た目はともかく実力がある人たちだから、初心者には畏れ多い。
「今残ってる中で中級は居るか?」
オッサンがホールの中に居る冒険者を見渡した。
すでに酒場で酔っているのが多いのだけど、それでも冒険者。その声でサッと酔いが醒めたように静かになっている。
「ダニー!ゲッツ!」
オッサンは見つけた顔の名前を呼んだ。
「ああ、聞いたよ。シールドボアか」
「ダニー、お前んところで対応できる奴は?」
声を発した厳つい人はダニーらしい。そして、周りを見回した。
「魔石矢じりはあるからなんとかなるな」
「俺の所も何とかなるぞ」
イケメン系の兄ちゃんがそういう。ゲッツさんか。
「ギルドからの救援依頼だ。行ってくれるか?」
オッサンはそう言って受け付けの裏をチラッと確認した。そこにダニーよりもさらに筋肉モリモリな人が居る。ギルマスだ。
ギルマスはその視線に頷いた。
これ、事後承認じゃない?
まあ、そんな感じで二人のパーティー以外にもオッサンが声をかけて救援隊が組織されて出発していく。
「お前たちはここで待ってろ」
オッサンはそういうと、ジュースを二つ持って来た。
これはおごり?
まあ、それは良いとして、何ともいたたまれないというか。
そんな時間、もう一人の記憶について考えてみる。
工場を歩いていた。
工場?
工場だね。
はっきりとは思い出せないけど、なんだか大きな鍛冶工房って感じ。
そして、何か他にも色んな知識を持っているみたい。
「ねえ、聞いてる?」
北のヤツが話しかけて来た。
あ、そう言えばいまだにコイツの名前を知らないや。
「なに?」
「あ?なにって。そもそも『森の民』ってこと以外聞いてないんだけど、あんた誰?」
と、聞かれた。
「アタシはシネッタ領主の娘、イナリ・ノケライネン」
なるほど、北のお偉いさんか。
「僕はワナマル村のヨイチだ。そう言えば、さっきも言っていたけれど、『森の民』が助けに来ないって?」
そう、何か言っていたはずだ。
「そう!魔王が出たのに『森の民』は助けに来なかった!」
?
そんな話は聞いていない。
「『森』に救援を呼びに行ってるんだけど?来なかったから動ける者が外へ助けよ呼びに出てるの。アタシもこのナナップならあのシールドボアを狩る冒険者がウジャウジャ居るから連れて帰ろうと思ったんだけど、魔石が無いとダメって、それなら魔石があるならアタシ達でも大丈夫だし、魔石の入手の方が面倒だから、困ってたのよ。あんたみたいに魔石なしでシールドボア倒せるならちょうど良いわ。来なさい」
と、説明というか命令をしてくるイナリ。
来なさいと言われて「はいそうですか」ってなる訳がない。まったく説明が足りていないし、何も分からないんだから。
「使者が来たのは『森の民』のどこなのか知らないけど、少なくとも、僕が村を出るまでにそんな話は回ってこなかったけど?ワナマル村からナナップまで15日。その話っていつの事?」
そう聞くと、どうにも唖然としている。
「そんな最近まで話が来なかったって、応じる気がない証拠でしょ!冬には使者を出したし、誰も来ないからこうやってわざわざ人を募りに来てんだけど?」
なるほど、もう夏も間近だから随分前の話なんだな。
それでも森の民が対応しなかった理由は何だろうか。
実はたいしたことが無い事例だったとか?
そもそも、救援要請を出すからには大事なんだろうが、少なくともこちらまではその情報は伝わらない程度って事だろうか。
「まあ、そりゃあ、荒野のこちら側には無関係かもね。魔物が荒野を超えてくることはほとんど考えられないし」
と言っているので、予想は確かだった。
が、森の民が助けに行かなかった理由はなんだ?
「その魔物ってどんな奴らなんだ?」
そう、それを聞いておかないと。
「シールドボアと同類に決まってるでしょ」
ああ、そら、森の民には無理だわ。
「それだと『森の民』には無理だよ。弓はともかく、矢は矢竹を使うんだが、見ただろう?魔力で脆くなるから本来なら全くダメージを与えることが出来ないんだよ」
と説明したが
「はぁ?アンタ、3頭も倒したじゃない。何が無理な訳?『森の民』なら何人もああいう弓使いが居るんじゃないの?」
まあ、実際に見てしまったから、まさか僕が唯一の魔力矢使いなんて信じる訳が無いか。自分がやっていたことを中二病という自覚はあるにもかかわらず。