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気楽な冒険っていうにはちょっと

 イナリが勝手に話を進めて情報を聞き出した。


「少し良いかの」


 もう退出と言う頃になってミツヨシ様がそう発した。


「何かな?」


 エロい人がそれに応える。


「このヨイチだが、もはや『森』に居場所はないじゃろう。ここや谷でこそ役に立つ。さっきの話だが、『北の部族』との婚姻などもってのほかでの。いや、ワシはそれで良いがな」


 と、また先ほどの話を蒸し返してきた。


「ほう、前の長ともあろう者がそう言うのか?」


 と、エロい人は何やら機嫌が良い。


「叶わぬから認めたんじゃろうが、この者に関してはそうではない。そちらが真に功績を認めるならば、じゃがな」


 と、ミツヨシ様はエロい人を睨む。睨まれた方も睨み返している。


 しばらくその状態であったが、ふとエロい人が笑った。


「『森』の実力者でありながら変わり者と言われたミツヨシ翁だけの事はあるか。そう言うのであれば、認めよう。当人はどうだ?」


 と、僕を見る。


 どうだと言われても事情がよく分かっていない。


「そう心配することはない。妹はイナリの様な細身だ。『森の民』から見ても美形であろうな」


 と言って僕を誘って来る。さて、これで同意して良い物であろうか?


「なぁに、『森』の事など心配せぬとも良いぞ」


 ミツヨシ様までそんな事を言って来る。


「そうよ。ミンナはアタシの友達なんだから。エーロが言うなら納得するわよ。相手がアンタでも」


 と、イナリが言う。そして、一番不安になる話じゃないか。コレのダチって所が。


 自分の中にある葛藤が何なのかと言うと、森の民としてのものと言うより、前世の記憶によるものだ。


 当人のあずかり知らないところで嫁ぎ先が決められてしまう。その事が受け入れられないでいる。


 もちろん、僕は理解はしているんだ。仮に村に居たとしても、きっと同じ様に婚姻が決められたであろう事は理解できている。

 しかし、前世なるものが入り込んでしまった事で葛藤している。


 のだが、興味がない訳ではない。


「分かりました。お受けいたします」


 などと偉そうに答えてしまう僕。


 その言葉に満足げなミツヨシ様とイナリ。


「期待しているぞ」


 と、返してくるエロい人。


 ヤーナとエイナルさんはほぼ部外者と化しているが、まあ、こういう場では仕方がないんだろう。




 そんな事があった翌日、イナリは意気揚々と作戦を発表する。


「昨日聞いた通り、カイヌーに魔王は居ない。そして、北西に居ることは確認済みらしいわ」


 と、その場を仕切りだす。


「で、アタシたちはその魔王の一団を探し出して魔王と側仕えを倒すのよ」


 と、見事に単純明快な作戦である。


 翌日、その作戦を実行するため街を出てカイヌーと言う場所を目指す。


 それほど離れた場所ではなく、一度野営をする程度で着いてしまった。


「こんな近くに居ながら攻めて来ないものなのかな」


 と、疑問が口を突いて出てしまう。


 わずか一日の距離なら攻めてきてもおかしくないと思う。そうでなくとももっと防備で忙しいはずだ。


「カイヌーがこの地方の穀物集積拠点だからだろう。そして、北西へ行けば穀倉地帯が広がっている」


 というヤーナの説明に納得した。


 そうだったのか。


 もちろん、何もしていない訳ではなく、ちょうどいま居る小高い丘には陣が敷かれてカイヌーの様子を窺っている。


 しかし、小鬼たちが街で蠢いているという姿もここからでは確認できないほどに静かだ。


「カイヌーの様子は分かったから、もう行くわよ」


 全くカイヌーに興味がなさそうなイナリがそう言って陣を抜けて歩き出す。


 この辺りは時折林が点在する場所なので姿を隠すにはうってつけだろう。


 もちろん、それは小鬼たちの姿も隠してしまう事になるが、僕らにとっては大きな障害ではない。


「ほう、小鬼が居るのう」


 ミツヨシ様が茂みの奥を見ながらつぶやいた。


 僕も気付いている。エイナルさんも気付いていそうだ。


「向こうは気付いていないんだから放っておくわ」


 と、イナリは全くの無関心に歩を進めてく。


 その日は林の中で野営を行う。


 火も使えないので干し肉や乾パンをそのままかじる味気ない食事しか出来なかった。


 翌日には広大な畑が広がる場所を眺めることが出来るようになった。


 見晴らしが良いので小鬼たちの動きも見渡せる。


「鬼の楽園ね」


 イナリがそう言って小鬼たちを見る。


 そこから迂回しながらさらにドンドン北西を目指して進んでいくと、少し大きな町が見えて来た。


「アレがエーロの言っていたウツヨキよ」


 と、イナリが町を指さす。


 確かに小鬼と図体の大きな鬼もうろついている様だ。


「まだ魔王は留まっているのだろうか?」


 ヤーナが少し不安そうにそう言う。


「居なければ探し出すまでよ」


 と、前向きというか適当と言うか。


 しばらく様子を見たが、大きな動きは見られない。


「おびき出す必要がありそうね」


 と、またトンでもない事を言い出す。


「どうやって?」


 と、僕が声を掛けるとニヤリと笑う。


「アンタが強そうな鬼を一匹倒せばよいの」


 などと適当過ぎる事を云うのだから困る。


 強そうな鬼がどれか分かる訳ないじゃないか。


 その町を見ると周りをうろつく小鬼、急ごしらえの櫓からあたりを見回す鬼。


 強そうという意味では、以前の鬼の様な奴はいなさそうだ。


 身なりが多少良い小鬼なら見えるが、イナリの要望はあれではないだろう。 







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